2杯目.普通に個性的
ーイマドキ女子の間でもこもこが話題ー
ー周りと少し差をつける個性のあふれるアイテムー
ー「このもこもこがなんか個性的で可愛いんですよね」
テレビやSNSを開けばトレンド情報や流行がすぐに手に入る時代。でも、私には関係のないこと。
私の名前はカナ。いたって"普通"の大学2年生だ。"普通"の大学の文学部に通っている。今日も"普通"の洋服に身を包み通学をする。大学につけば"普通"に講義を受け"普通"に昼食をとり終われば"普通"にバイトへ行ったりなければ帰宅をする。特段目立った行動を取ることはない。私は目立ちたくもないしただ"普通"に穏やかな日常を過ごしていたいのだ。だから、昨今の流行やら個性的やらのブームにはのらない。1番ベーシックで"普通"な服を着て行動をとる。そうして過ごして来ていたのだ。
ーーー
BGM程度につけているテレビを消して大学へと私は向かう。今日は午後まで講義が入っているもののバイトはなく、比較的楽な1日だ。
午前中の講義を終えて昼食へと向かう。大学には学食がありそこで大抵は同じ学部の人たちと食べている。
「はぁ〜。今日の講義めっちゃ眠かった。もうあれ催眠術かなんかと変わんないって。」
この人はサユリ。流行に敏感でいトレンドに詳しい。いつも1番流行っているファッションをしていて個性的だ。
「わかる、無駄に課題も多いし。必修じゃなきゃ取らないよ。あれ。」
この人はマイ。この人もトレンドに詳しい。ただ、ファッションというよりは音楽やキャラグッズとかそっちの方が強い。ファッションはサユリに影響を最近もろに受けているように見える。
「うん。私もあんまりあの講義は好きじゃないかな。」
「だよね。カナも割と一瞬夢の世界にいきそうだったもんね。」
「サユリに言われたくないなー。」
こんなふうに他愛のない"普通"の会話を2人とはいつもしている。
「ってか、マイにこの間教えてもらった曲めっちゃよかったよ。」
「でしょ?今、バズりにバズりまくっているんよ。逆にサユリはなんで知らんの?」
「ははっ。だってさ、ウチ的には音楽ってなんとなく流れててよく聞くな〜くらいはあっても誰のなんの曲かはあんま考えんのよね。」
「適当じゃん。めっちゃ。ってか、その服可愛い。」
「これさ、今めっちゃ流行ってんの。ヨジャたちがSNS上げてからトレンド中のトレンド。マストだよ?」
「えー。じゃあ探しとこ。」
まぁ、私は基本的には聞く専なのでこんな風に勝手に話してくれると助かる。もっとも基本的には流し聞きなのであまり内容は入ってこない。
「ねぇ、カナも今度買いに行かない?」
「私は、いいかなー。そういうの似合わなそうだし。」
「そうかな?ウチはめっちゃ似合うと思うけど。」
「うーん。」
やめてほしい。そんな見るからに個性的な服は目立ちそうで着たくない。ここはやんわりと断っておこう。
「私今月服買ったばっかりだからさ、また今度にする。」
「そっか、じゃあしょうがないか。」
よし、なんとか断ることに成功した。こんなふうに毎回服を買いに行くのをかわし続けている。
「でもさ、カナとたまには服買いに行きたいよね。」
「そうそう、ほんとほんと。」
ごめんね。二人のことが嫌いとかではなくそれだけはどうしても、うんごめん。
「だってさ、カナが着てる服ってめっちゃ"個性的"で可愛いからさ。」
ん?聞き間違いかな。今"個性的"って言っていたような。
「うん。わかる。ウチらにはないセンスあるよね。超"個性的"な感じがする。」
えっ?あの
「ってか、昨日のさー…」
もう2人は次の会話に移っていたのでこれ以上は聞けなかった。
家に帰っても少しだけ気になった。私が個性的?こんなに"普通"の服を着て目立たないようにしているっていうのに?まぁ、きっとあの2人の感性が少し変わっているんだろうな。でも、そういえばこの間のバイトの時もーーー
「カナちゃんっていっつも個性的な格好してておしゃれだよね!憧れる」
バイト先の先輩にそんな風に言われたことがあった。なんでそういうふうになるんだろう。だって私は大衆向けの服屋さんで買ったものを着ているだけなのに。決して流行っているわけじゃない。だから誰でも着てるはず。決して"個性的"なはずはない。
次の日の大学で周りの人たちの服を見渡す。そこで気づいたことがある。意外と私の着ている服と同じ人は少ない。むしろみんなほとんどの人が似たようなもこもこをつけている。そういえば、この間のテレビで
ーイマドキ女子の間でもこもこが話題"ー
なんて特集をやっているのをみた。そっか、みんな流行を追っているからそういう服装になるのか。と、いうか。
ー周りと少し差をつける個性のあふれるアイテムー
ー「このもこもこがなんか個性的で可愛いんですよね」
みんなそれを着てしまっては"個性的"なんだろうか?
「あっ!カナやっほー!」
サユリとマイがやってきた。2人ももこもこを着ている。確かに、このままでは私も目立ってしまう。
「ねぇ!2人とも今週の土曜日時間ある?」
「ま、まぁ私は暇だよ!」
「どうしたのカナ珍しく。」
私の普段とは違う態度に2人は驚いていた。目立たないようにするには流行を追ってた方がいい。2人ならその辺に詳しいはず。これならきっと私も"個性的"にならずに済むはず。
ーーーーー
「あ、これこれ!今流行ってるよね。」
「そうそう。これがいっちばん。流行っている。」
土曜日買い物に行くと思った通り2人は流行にものすごく詳しかった。お陰でたくさんの流行っている服を買えた。
「今日は、付き合ってくれてありがとね。」
「いいよ、いいよ!カナと初めて買い物これてウチも楽しかったし!」
「ね、それにカナのおすすめの服も可愛いよ、これ!」
2人におすすめの服を聞かれて私も気に入ったものを紹介したら2人は目を輝かせて喜んでくれた。よく考えると友達とこんな風に買い物に来たりするのは初めてかもしれない。
これが、"普通"のことなのかな?
楽しげに笑っている2人の少し後ろを歩いて思った。
「ねぇ、カナ帰りにパフェ食べてこうよ〜!」
私は2人の誘いでそのままパフェを食べて帰った。
ーーー
その日以降、私は時々サユリたちとも買い物に行くようになった。トレンドを知るためではなく、純粋にただ遊びに行きたいと思ったからだ。
「カナのその服可愛い。」
「サユリのその服も似合ってる!」
「でしょ?やっぱ流行ってるものって着たくなるじゃん?」
「ふふっ。マイもそのチャーム可愛いね。」
「最近ハマってるんだ〜。このキャラ何年かまえのキャラなんだけどね。」
世の中は色んなものが流れるように流行りそして廃れて、また何かが流行りはじめる。私はそんなものに興味もない。私は私としていれば別になんでもいい。人は意外と他人に興味をもっていないし。でも、流行りを追いかけることが好きなこと、流行りに関係のないものを好きになること。それはどっちも自分が思うのならそれは紛れもなく"普通"で"個性的"だ。
「ねぇ、来週さ新作のさ……。」
こんなふうに友人と話すことも別に"普通"ではない
幸せなんだろうな。
そうして、皆が個性的な普通に隠れていくのだ。