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9杯目.どっちでもいい

"わぁー勇者様"

"魔王を倒した英雄だ"


魔王を倒した勇者一行が王国へ帰ってきた。王国はパレードの真っ最中だった。誰もが勇者を讃えていた

そう、その日までは。


ーーーーー

「ねぇ、なんでこうなってるわけ?」

「知らねぇよ。変な噂が広がってるせいだろ。」

勇者一行は城の部屋で項垂れていた。その理由は街である噂が広がってから勇者一行に対する風当たりが強くなったからだった。

「大体、おかしいと普通に思わないわけ?」

「俺だってそう思うけど、仕方がないだろ。」

その噂とは


"魔王は実は悪人じゃなかったらしい"

"勇者一行が魔王を悪だってしたてあげんだって"

"じゃあ、勇者たちやばくない?俺たち騙されてたってこと?"


どこから広がったか根も葉もない噂が広がり、勇者たちは英雄から数日も立たないうちに真の悪人になってしまった。

「意味わかんないんだけど。めちゃくちゃ大変だったのに魔王討伐!!私の貴重な20代のほとんど持ってったんだけど!!」

回復魔導士のマイが怒りを露わにしている。もちろん勇者のユウ、魔導士のライ、武道家のゴロウ、全員が同じ感情だった。

「落ち着けってマイ。」

「根拠の一つに挙げられているのが、魔王が討伐されたはずなのに魔物たちがいなくならないことらしい。」

冷静にライが根拠をまとめられている紙を見て一つを読み上げる。

「それは、魔王が倒れてもそこに根差し魔物は消えるのに時間がかかるって言ってるのに。」

ユウが困ったように肩を落とした。

「その他の根拠が……魔王がいた時に王国に異変がなかった。勇者一行が来てから天気が悪い日が続いている。子供が泣き止まない、魚が取れる量が減った気がする。」

「なにそれ!?完全に言いがかりもいいところじゃない!」

マイの怒りは収まらない。仕方がない。リストに書いてあるほとんどが言いがかりや生活の不満をこちらに向けているだけのものだった。

「こんなめちゃくちゃな論理で、僕たちがやってきたことが無になるのか。」


コンコン


扉を叩く音が聞こえた。扉から王と従者が入ってきた。勇者一行は膝をついて王を迎えた。

「勇者一行よ、すまないな。このようなことになって。」

「いえ、王様のせいではありません。」

全員が顔を伏せている。

「だが、民がしていることだ。全て責任の一端は私にもある。」

王は申し訳なさそうに頭を下げている。

「安心したまえ、我々はそなたらの味方だ。民たちにこのデマ広めたものを見つけ、このデマをすぐに鎮火するようにする。」

「ありがたいお言葉。」

「それに、民の中にもそなたらの味方はいる。例えば、武器屋のリュカ。彼は民たちに勇者がそんな者ではないと言い回っているそうじゃ。」

リュカという言葉に勇者一行は顔が少しほころんだ。勇者が旅立つ時に最高の武器を拵えてくれた、恩人でもある。

「リュカ……。いいところあるのね。」

「あぁ、彼がいなければ最初の冒険はもっと苦労することになっただろうな。」

勇者一行はうんうんと頷きあった。


ーーーーー

そして数日後。

「ねぇ、悪化してない?噂。」

窓の外から街を見ると、毎日のように民が城へと押し寄せている。

「一体何があったんだ?」

「原因はこれじゃないか?」

街にばら撒かれていた紙をライが取り出した。

「これ、なんなの?ひどくない。」

そこにかかれていたのは、


"王国はすでに勇者の傀儡政治によって乗っ取られている"

"王は魔王と元々知り合いで、気に食わないから討伐させた"

"王は勇者一行から買収されている"


「今度は王様が攻撃されてるの?私たちのせいで。」

「こんなの出鱈目なのに。」

勇者一行は頭を抱えている。それと同時に怒りさえもあった。


コンコン


扉を開けて王様が入ってきた。

「すまない。」

「いえ、私たちのことを庇ったばっかりに王様まで。」

勇者一行は魔王に頭を下げている。

「いいんだ。だが、こうなってしまった以上申し訳ないが、そなたらはこの城から出ていってくれんか?」

「へっ?」

王の淡々とした口調に勇者一行は驚き固まった。

「そなたらを疑っているわけではない。外を見ればわかると思うが、このままでは王国の混乱がおさまらない。」

窓の外から見える民衆はどんどんヒートアップしていることがわかる。確かにこのままいくと内乱が起きかねない勢いだった。

「ですが、我々はどうしたらよいのですか?」

「熱りが冷めるまで街からは出て行ってくれ。もちろん冷めたらもう一度入れる手配をしよう。」

王様は申し訳なさそうに頭を下げた。

「……ふざけないで。私たちは魔王を倒して国を、世界を守ったんですよ?なのに……。」

「マイ、王様に当たっても仕方がない。」

「マイの失礼な態度を謝罪します。」

すぐさまユウが頭を下げる。

「いいんだ、それくらい私がめちゃくちゃなことを言っていることはわかっている。」


ーーーーー

王に城を追い出されて、街を隠れながら歩く。ほんの数日前までは英雄扱いされて街はお祭り騒ぎだった。それなのにいつの間にか非難の的になってしまった。

「なんで、こんなことをしないといけないんだ。」

「……納得できないわ。」

マイの怒りはおさまらないやうすだった。無理もない。

「これから街を出るのか?」

ゴロウが聞いてきた。

「いや、その前にリュカのところへいこう。」

「そうね、リュカは唯一私たちの味方のはずだから。なんとかしてくれるかも。」

勇者一行はリュカの店に向かった。


「ここ、だよな?リュカの店って。」

「嘘でしょ……?」

勇者一行の前には衝撃的な光景が広がっていた。リュカの店は窓ガラスが割られあちらこちらに落書きされていた。

"最低最悪の詐欺勇者の肩を持つのか"

"国賊やろうの店です。皆さん近づかない方がいいですよ"

そんな張り紙がたくさん貼られていた。

勇者一行は恐る恐る扉を開けるとげっそりとしたリュカの姿があった。

「……リュカ?」

「……なんだ、お前らか。」

その声には元気がない。

「何があった?」

「お前らがそんなことをするはずないっていい回った。けど、誰も聞く耳なんか持たなかった。俺の言葉やあんたらがやった功績よりもどこから広がったかわかんない戯言ばっか信じやがる。」

リュカの目にはかつての明るさはなかった。ただ、全てがどうでも良くなったような目をしている。店内も荒れて、商品も折られていたりしていた。

「……すまない。俺たちの、せいで。」

ユウは言葉を詰まらせながら謝った。

「……いいんだよ。お前らのせいじゃない。むしろせいせいした。俺はもう、ここから出ていって別の国でまた武器屋でも始めるさ。」

リュカは立ち上がり纏めた荷物を持って出て行った。

「一応、お前らを待ってたんだ。お前らも早いとここんな国出ていった方がいいぞ。」

リュカは次に行く国を勇者一行に渡して出ていった。



「どうする?このまま出て行く?」

「私は、嫌。せめてこの胸糞悪いデマを広めたやつを懲らしめないと。」

マイが拳を握りキリキリしている。

「そうだな。そいつは魔王と同じくらい王国を災へと導くかもしれない。」

「魔王が悪くなかった、なんてことが広まり続ければいずれ魔王の復活へ赴くやつが出てくるかもしれない。それを止めるのが俺ら勇者一行のやくめだ!」

全員の決意が固まった。勇者一行はこのデマを広めた民を探し始めた。


ーーーーー

勇者一行は変装をして聞き込みをして回った。そして、ある一人の男へとたどり着いた。

「お前が、あんなデマを広めたんだな?」

「ひ、ひぃ。ごめんなさい。」

男は怯えて頭を下げた。

「何、こんなに呆気ないの?」

「なんでこんなことをした。」

ユウが男へ優しく語りかける。

「ただ、俺がうまく行かないのに勇者は持ち上げられてて腹が立ったからそれだけで。」

「はぁぁぁ?舐めてんのそんな理由で。」

「ひぃ、ごめんなさい。」

マイが胸ぐらをつかみ持ち上げた。回復魔導士のすることではない。

「まぁ、マイ落ち着け。」

マイはユウの一言で少し冷静さを取り戻す。

「俺らが望むのは、これがデマでないということをみんなに言って欲しい。魔王が本当は悪くないというのは世界の危機だ。」

真剣な眼差しで男をユウが睨む。

「……わかりました。そうします。」


ーーーーー

次の日、王様によって集められた国民の前で頭を下げた。

「みなさん、私がいった魔王が実は悪くない。とか勇者一行が極悪人とかいうのは嘘です。本当に申し訳ありませんでした。」

国民たちはその集会でみんな怒り散らかした。これで、噂が落ち着く。と誰もが思っていた。


次の日から男の悪評が2.3日続いた。だが、それはすぐにおさまった。

すぐに次の噂が広がった。

"あれは、勇者たちに言わされていた"

王国はその噂で溢れてついには王様も交代になった。

そして、勇者一行はこの街から去っていった。


この国が、魔物たちに滅ぼされたのは数ヶ月後の話である。

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― 新着の感想 ―
最近のSNSそのものですね。 こたけ正義感の「弁論」でも語られたように 容疑者はたとえ起訴されても逮捕されても「容疑者(疑われている人)、受刑者(刑を受ける人)」でありイコール犯罪者ではないそうです…
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