6杯目.生徒会のお仕事です
俺の名前はトオル。高校2年生。俺は憧れの生徒会に入っている。理由、そんなのは一つ!学校全体を牛耳りまとめることに憧れたからだ。アニメやドラマで生徒会は強大な権力のもと生徒たち、果ては教師達にまでビシバシと言える。学校は生徒会を中心に回っているといっても過言ではないのだ。さて、俺は生徒会長を目指し学校全て制覇するのだ!
………そう思っていた。
実際に生徒会に入るとアニメやドラマのような権力もなく、キラキラしたものもない。なんなら生徒にも教師にもぺこぺこする。仕事も地味なものも多かった。そう、生徒会なんてフィクションの中にしかなかったのだ。
「はぁ、暇だなぁ。」
「文化祭も終わったばっかだから次は卒業式くらいまでは暇だもんねー。」
同じ2年生で幼馴染のアヤが後ろから肩をポンと叩いてきた。3年生も引退し、今は2年生が中心に生徒会活動をしている。
「なんかさー。こう、イメージとやっぱ違ったんだよなー。」
「ははっ。トオルはいつも言ってるよね、それ。」
「だってさ、もっと俺らが回してるぜーみたいな感覚があると思ってたから。地味ってかさー。」
「でも、なんやかんや2年間続けてるし。引退までやるんでしょ?」
「まぁなー。」
俺はペンを鼻と口の間に挟みながら言った。その時ガラガラと教室の扉が開いた。
「ねぇ、みんな少し話があるんだけど。」
「ん?」
「実は2年生がこの時期行事がなくて暇だから、球技大会を開きたいんだって。」
「球技大会?」
「そ。生徒会そういうのよくやってて得意なはずだから手伝っくれーだって。」
「随分投げやりな提案だな。」
「ね、でも楽しそうじゃん。」
アヤが俺に笑いかける。
「それで、これ生徒会行事ではないから正式にってわけではないけど一応2名これを仕切る係決めようと思うんだけど誰かやりたい人いない?」
教室にいる生徒会のメンバーを見渡しながら言っていた。
「はいはい!私やりたい!」
アヤがいの一番に手を挙げた。
「お、ありがとうアヤ。じゃああと1人は…。」
「あと1人はトオルとやることにするよ。」
「は?なんでだよ。」
「何かやりたいんでしょ?いいじゃん楽しそうだし。」
アヤがイタズラっぽい目でこちらを見つめる。まったく、強引だ。
「トオル、どう?」
「…はぁ。わかった。俺がやります。」
「ありがとう。じゃあ、よろしくね。各クラスの代表の名簿は持ってきてるからこの子達と話まとめてね。」
各クラス代表の名簿を受け取り名前をざっと確認してみる。
「おっ。部のキャプテンが多いな。」
「やっぱり球技大会だもんね。多分ある程度この辺で話決まってから持ってきてると思うよ。」
「それもそっか。」
「じゃあ、実行日まで2週間弱くらいしかないから今日である程度企画まとめて、明後日の昼休みくらいに集めて話し合おうか!」
「おう。とりあえずよろしくな〜アヤ。」
「うん。トオルもお願いだよ!」
ーーーーー
アヤと俺での球技についての協議が始まった。
「クラス対抗球技大会ってくらいだからみんなが参加できるやつの方がいいよね?」
「そうだろうな。」
「となると、参加人数が多い方がいいよね。バスケだと5人だし、バレーでもどう頑張っても9人くらい。」
「1番無難に数を入れられるのはドッチボールだと思うぞ。」
「そうだね!前半後半でわかれば全員入れるかも!」
「そうそう。その方が運動苦手な子たちでも入りやすいだろ?」
「うん!さすがトオルだね!あとは、総当たりにすると試合数もたくさん。あっ、でも授業時間内で足りるかな?」
「そこは、みんなにテキパキと動いてもらえるように頑張ろうぜ!」
こんな風にアヤとの話し合いはぽんぽんと進んでいき、このまま簡単に進んでいくものだと思っていた。
ーーーーー
「はぁ。」
話し合いが終わった日の放課後アヤが疲れ気味にため息をついた。
「大丈夫か?アヤ。」
「うん。まぁ。」
「まぁ、あの話し合いは多少は堪えるか。」
〜〜
俺らはあのままドッジボールの企画をみんなに提案した。
「という感じで、こうすればクラスみんなで楽しめるような球技大会にしたいと思います。なので、みなさんにはクラスでチーム分けを…。」
「はい!一ついいですか?」
話し合いに参加していた1人が手をあげた。サッカー部のキャプテンでエースのダイだ。
「はい、どーぞ。」
「なんでドッジボールなんですか?俺らがやりたかったやつとなんかイメージと違うんすけど。」
「えっ?えっと…持ってきてもらった企画の中に書かれていたのはみんなが楽しめる球技大会って…。」
アヤは尻すぼみに答える。
「まぁ、そうなんすけど。普通にバスケとかバレーとかみたいなやつでガチでぶつかりたかったんすよね。いつもの球技大会みたいな。」
ウチの学校にはクラス対抗式の球技大会なるものが元々存在はしている。1年生はバレー、2年生はバスケと競技が決まっている。が、それはクラス対抗とは書かれてはいるものの基本的にはクラスの運動神経のいいメンバーがサイクルを回して出場、残りのクラスメイトは応援するというものだった。
「あー。あれみたいな感じでやりたかった感じだったのか。」
「そういうわけ。だから、今回のやつはめちゃくちゃ話と趣旨がズレてるってか。イメージと違うな、って感じが強いかなって。」
なぁ、と周りを見回しながら同意をとる。何人かは頷いたり薄笑いを浮かべながら意見に同意している。なんだか少しだけ馬鹿にされている気がして、あまり心地はよくなかった。
「でも、そういう球技大会は先月行ったので。それにいつもバスケとかバレーとかだから、その。今回はドッジボールでいきたいかなって…。」
アヤが少し言い返した。相手は頭をかきながら薄ら笑いを浮かべてこちらを見ていた。微妙な空気が流れる。アヤもなんだかいつもと違った目をしていた。少し涙ぐんでる?なんで。
「え、えーっと。とりあえず今日は一度持ち帰るって形でもいいかな?」
「…はい。」
流れを変えるために俺は話し合いを切った。相手もとりあえず納得したようでこの日の話し合いは終わることになった。全員が座っていた椅子を片付け始める。ギーギーガーガーとそこそこうるさい音が鳴る。
「やっぱ、生徒会に頼むんじゃなかったな。」
音に紛れて誰かが呟いている声が聞こえた。アヤの方を見るとちょうど椅子を引っ張っているところだった。よかった、聞こえていないだろう。
〜〜
「で、どうする?球技。」
「私はドッジボールにしたい。」
アヤがぼそりと呟いた。
「なんでそんなにこだわるんだ?」
「…参加したい子たちのため。」
「えっ?」
「いつもやってる球技大会も楽しい。でもね、聞いたんだ。本当は私も参加してみたいって。そういう子何人かいたから。もちろん、参加したくない子もいるとは思う。でもさ、こういう機会だから普段出られなくて出てみたい子達もみんなでやってみたかった。」
「…そういうことだったのか。」
「うん。球技大会の話がきた時、企画書読んだらみんなもそういう風に思ってたんだって嬉しくなった。……でも、違ったよね。私の勝手な思い上がり。」
「……。」
「よく考えたらみんなを出したいなんて何様?偽善って感じだよね。出たくない人の気持ちも考えてないし。………だから生徒会に頼んだら面白くないんだよね、きっと。」
聞こえていたのか。アヤの元気がないのはそこも原因だったんだろう。アヤは人一倍一生懸命に生徒会活動に取り組んで行事を裏から盛り上げようとしている。なのに特に褒められたこともなく言われるのは愚痴ばかり。
「なぁ、じゃあそれで提案しよう。」
「でも、みんながそうじゃないって。」
「アヤのいう通り、こういう機会だ。みんなが参加できる意義とかを伝えて納得してもらおう。」
「トオル…。」
「もし、そうじゃないって言うんならちゃんと企画書書いてもってこいってんだ。こっちだって暇じゃないんだよー。」
「ふふっ。暇だったくせに。」
「あ?」
「でも、ありがとう。」
アヤがいつもの笑顔に戻った。
「さ、みんなが楽しめる球技大会作って楽しませてやろうぜ!」
「……うん。」
俺が差し出した手をアヤが笑顔で強く握った。
ーーーーー
「という風に、みんなで参加できるものに今回はしたいかなって思います。」
俺とアヤが力いっぱいに報告をした。昨日いの一番に手を挙げたあいつは、やっぱり首を傾げている。ま、あいつの言い分もわからないわけではない。
「みなさん、どうでしょうか?」
何人かは下を向いている。やっぱり違うのか…。
「あ、あの。」
そのうちの一人の女子が手をあげた。
「生徒会の人たちも一生懸命考えてくれてることだし、それもいいと思います。なんか、みんなでやるの楽しそうだし。クラスに話したらそれも楽しそうってみんな言ってて。」
「本当?」
「はい。参加してみたかったけど、私そんなにエース級に動けないしって子がいて。」
その一人の意見の後次々にそれでいいんじゃないかという声が連なった。アヤは笑顔になり俺の方を向き満面の笑顔を見せた。結果、ドッジボールに決まったのだった。
ーーーーー
「やったな。アヤ。」
「うん。よかった。」
「アヤの熱意のおかげだな。」
「ううん。トオルが昨日あぁいう風に言ってくれてなかったら私はやめてたと思う。ありがとう。」
「お、俺は別に。」
アヤのまっすぐな笑顔がなんだか照れ臭かった。
「でも、せっかく提案を受け入れてくれた人たちのためにもみんなが楽しかった!って言えるような大会にしよう!」
「おう。まずは、対戦表とあとメダルなんかも作ろうぜ!」
「いいね、それ楽しそう!」
俺とアヤは大会まで放課後生徒会室で毎日準備を進めた。
ーーーーー
本番当日俺らは司会も担当することになった。
「みなさんこんにちは!本日進行を担当しますアヤと、」
「トオルです。よろしくお願いします!」
挨拶をすると拍手や歓声があがった。アヤも少し緊張してはいるが笑っていた。
「では、スタートします。この表を見て迅速に動いてください。よろしくお願い致します。」
アヤのホイッスルと共に各クラスが試合を始めた。もちろん、俺らも参加して。あちらこちらで楽しそうな歓声や応援、ドタバタと足音が聞こえる。ふと、横のコートを見るとアヤが楽しそうにボールを避けていた。よかった、楽しそうだな。
「おい、トオル!前!」
「えっ?」
俺は綺麗にボールがヒットした。
無事競技が終わり結果を発表する。優勝したクラスを表彰してメダルをかける。
「よし、じゃあ最後の挨拶にいくか。」
「うん。これで終わりだね!」
俺らが最後の挨拶へ向かおうとした時。
「ちょっと待ってください。」
学年主任の先生が話しかけてきた。
「なんですか?」
「いやぁね、この球技大会は生徒会主催のものではなく、あくまで学年で自発的にやった大会ということで許可を出したんですよ。」
「はい。」
「なので、最後の挨拶まであなた達がやってしまうと生徒会色が強く出てしまうなと思いまして。」
このおじさんの言っている意味が全くわからない。
「でも、それって…。」
「最後の挨拶は提案者である彼にやってもらった方が大会としての形も整うのでは?と思うのでそちらでよろしくお願い致します。」
「あの、何言ってるんですか?この大会はアヤが…。」
「はい。分かりました!じゃあお願いしてきますね。」
アヤがマイクを持ってダイの方へ走って行く。先生はまた窓際の方へとすっと捌けていった。なんだよ、あいつ。
「え、えーみなさん。今日は楽しかったですか?」
歓声があがる。
「みんながこれだけ盛り上がってくれたので、提案してよかったです!今日は最高でした!」
会場からはダイの名前を呼ぶ声やありがとうだなんて声があがる。俺は拳を少しだけ握りしめた。だって、これはアヤが…。
「いやー盛り上がってよかったね、トオル。」
「アヤ、これでよかったのか?だってお前が。」
「ううん。これでいいよ!みんなが笑ってるところが見られれば私は嬉しいから。」
「で、でも。」
「トオルはたのしかった?」
「…うん。楽しかったよ。」
「よかったよ!トオルめっちゃよそ見してだっさいあたり方してたから。」
「見てたのかよ…。」
「私の友達一同、爆笑しておりました。」
「うわーっ。」
アヤは少しも悔しそうにせずに笑っていた。本当に、ただみんなが楽しんでくれていることを純粋に喜んでいた。
「アヤーーー!」
その時遠くから女子バスケ部の集団が走ってきた。
「わっ、何?」
「これ、アヤがめっちゃ頑張ってたんでしょ?超楽しかったよ。ほんとありがとう!最高だった!」
「えっ。ほんとに?」
「うん。だからありがとうっていいにきた!」
「…こちらこそありがとう。」
よかったな、アヤ。俺は心の中でそう思った。
「トオルもな!」
後ろからいきなりタオルを誰かが叩きつけてきた。
「おわっ!」
「おめぇもありがとうな!」
俺とアヤはその集団にもみくちゃにされながら祝福されていた。一瞬だけ目があった俺たちは笑顔の交換をしたのだった。
フィクションのようじゃないけど生徒会も、悪くはないな。