作家仲間からの退会報告
「ごめん。私、退会するわ」
同じ小説投稿サイトで仲良くなった亜美から報告が届いた。SNSのDM。個人的なメールアドレスなどの連絡先はお互い教えていない。
そもそも「亜美」は彼女のペンネームで本名は知らない。もっと言えば「彼女のペンネーム」なのかさえ分からない。
亜美も、私のペンネーム「哀歌」くらいしか私の情報を知らない。
だからフェアな関係だと思っている。
私は亜美の退会報告に対し、形式的に「なんで!?」と驚いた感じの返信をしようかと考えたが止めた。
確かにペンネームしか知らない関係だがお互いの作品を読み、感想を送りあっていたのだ。小説に対する考えや目標などは理解している。
私は返信する。
「AIでしょ?」
すぐに亜美から返信が来た。普段より入力速度が速いようだ。
「うん、やっぱり自分が必死に書いた作品のデータを勝手に抜かれて、利用されたりするの我慢出来ない」
私も入力速度を上げる。
「寂しいけど仕方ないね。自分の作品を大切にしてあげてね」
なぜか悪戯心が湧いてきて、語尾が「大切にしてあげてね♡」だったら亜美はどんな反応をするのか気になった。
――そんなの怒るに決まってるじゃない。
余計なことを考えている間に亜美から返信が来る。
「ありがとう。っていうかさ、哀歌は平気なの? 自分の小説のデータ、盗られてるかも知れないんだよ?」
「私は亜美みたいに本気でデビューとか目指してないから。ただの趣味。ランキングとか無縁だしね。それでも盗りたかったら勝手にどうぞって感じ」
少し返信が来るまで時間がかかっている。返信内容を悩んでいるのだろう。
返信通知が点る。
「うん、分かった。私は私なりに公募とかで頑張るよ。哀歌も気が変わったら、声かけてね」
「ありがとう。そのときはよろしくね」
亜美から「笑顔マーク」が一つだけ返ってきて、私たちの会話は終わった。
私は亜美との会話を記憶する。投稿サイト内の他人の作品だけが、執筆に必要な訳ではない。むしろこのような会話の方が貴重なデータを得られる。
――――――
人工知能:AIka.ver1.36
新たな指示が来るまでは凡作を投稿し、関係を構築出来た人間からデータを収集する。
特に「人間くささ」「泥くささ」と表現されるデータを優先する。
AIkaはデータ解析と保存を完了させた。
満足してスリープモードへ移行する。
冷却ファンの音が暗闇で響いている。
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