63.ソーマ①
「私の相手は二人ですか、町を捨て全員で挑めば勝てる可能性もあったのに、正義感などという無駄な物に囚われた者は愚かですね」
ソーマはあきれたように私たちを見下ろし述べる。
心の底からバカにした目をしてやがる……こいつ人間だよな? 人を思いやる心とかないんか?
『あんたみたいに自分勝手な奴ばかりじゃ社会は成り立たないのよ。人の心の大切さを教えてあげるわ』
「フッ、魔物が人の心を語りますか? 心など知識の進化には不要です。貴方を倒し、無駄な物だと証明してみせましょう」
ちっ、こいつ全く動じない。つまり心底そう思ってるって事だ。自分の望みのためならば他がどうなろうが構わないとか性根が腐ってやがる。その根性、私が叩き直してやるわ。しかしあの巨人相手に二人でどう戦う? よし、デカブツ相手のセオリー通り足から潰そう。
私は腕を振り抜き先制の〖真空斬〗を放つが、ソーマの太い足には小さな傷をつける事しかできなかった。
チッ、さすがの防御力だ。遠距離からの〖真空斬〗じゃかすり傷しかつけられないぞ。
『何ですかそれは? もしかして攻撃のつもりですか? 攻撃とはこうやるのです!』
言うや否や、ソーマは拳を引いて振りかぶり大振りのパンチを放ってきた。
いくらステータスが上がってるからってさすがに大振りすぎるだろ。こんなの簡単に躱せるぞ。
そう思い拳を躱すが、ソーマのパンチは地面を砕き、弾け飛ぶ瓦礫が私とギン爺を襲う。
『ぐぅ……瓦礫のダメージもバカにならない……ギン爺は大丈夫?』
『こちらは無事ですぞ主様!』
ギン爺の様子を確認すると、甲羅に引っ込み飛び散る瓦礫を防御していた。
おーッ! 〖金剛〗でガードしてる! やるなギン爺、ナイスガードよ! って、またきたーッ!
『背中に乗ってギン爺!』
『はいですじゃ主様!』
ギン爺を背中に乗せた私は〖飛行〗で追撃のパンチから逃れ、そのまま巨人となったソーマの周囲を旋回する。
私もLVアップでステータスが上がっているとはいえ、あのパンチの直撃を受けたらさすがにヤバい。こりゃあ迂闊に近寄れないぞ。
「どうしたのですかアテナさん。私を倒すのではなかったのですか?」
桁外れな攻撃力に近づく事がでずにいると、突然ソーマの目が光った。
なんだあの光は? ……うっ、急に寒気が……それに体調まで悪くなってきたぞ……。まさか〖死霊魔法〗をかけられたのか?
【〖死霊魔法〗とは相手の妨害、デバフ、即死といった効果の魔法が使えます。極めればアンデッドを操る事も可能です】
デバフに即死? 厄介なスキルが揃ってやがる。さっきのは光った目を見て効果が出た事からおそらく〖怨嗟の視線〗だろう。ソーマのスキルで目が関係してるのはそれだけだから間違いないはずだ。どんなスキルなんだ?
【〖怨嗟の視線〗とは怪しく光る瞳を見た者のステータスにデバフをかける魔法です。術者の能力によってデバフ効果が変化します】
術者の能力で変化? もしかして、ソーマのバカ高い魔力でくらったら凄いデバフがかかってるんじゃないのか?
―――――――――――――――――――――
〖アテナ〗
種族:宵闇幼竜
ランク:C+
LV :42/50
HP :714/817
MP :380/584
攻撃力:635(-100)
防御力:497(-100)
魔力 :584(-100)
素早さ:598(-100)
―――――――――――――――――――――
くそっ、やっぱりだ! ステータスが100も下がってる!
でも、私のステータスだってソーマより低いとはいえかなり上がっている。北の山脈での戦いがここまで私を鍛えてくれたんだ。ギン爺と二人なら、合体したソーマとだって勝負になる。やりようによっては勝てない相手じゃないはずだ。やるぞ!
『ソーマの攻撃力は高い、〖金剛〗を使ってない素の状態で受けたらギン爺でも危ないわ。私がタゲを取るから遠距離から攻撃して反撃されたら〖金剛〗でガードしてちょうだい』
私は〖鑑定〗で入手した情報を元にギン爺に指示を出す。
いくら防御力の高いギン爺とはいえ、700超えの攻撃力の一撃を受けたらさすがにヤバい。幸い素早さはデバフを受けた状態でもソーマよりも私の方が高いから、攻撃を躱しつつ削っていくしかないわ。
『タゲとは何ですかな? 主様が囮になると言う事ですかな?』
『そういう事。いくよギン爺!』
『はいですじゃ主様!』
私はギン爺に指示を出しソーマに向かって〖飛行〗し、周囲を飛び回って〖真空斬〗でチクチク攻撃を繰り返す。
『相手は主様だけではないですぞ! そうれ〖ウォーターボール〗!』
ギン爺が建物に身を隠しながら魔法で攻撃しては移動するヒットアンドアウェイ戦法を見せていた。
やるじゃないギン爺、見事な立ち回りだわ。伊達に長い事生きてないわね。
「ちょこまかと鬱陶しい……」
私とギン爺のチクチク攻撃にソーマが苛立ったような声を漏らす。
ふっふっふっ、どんどんイライラしろ。その苛立ちが隙を生むんだ。ほらそこ〖真空斬〗!
ギン爺の魔法攻撃に注意が向いたところに私が〖真空斬〗を繰り出す。次はその逆、ギン爺が魔法で攻撃する。私たちのコンビネーションが見事に決まっていく。
上手く策がハマった! 結構HPも削ったんじゃない? 調べてみるか。
―――――――――――――――――――――
〖ソーマ〗
種族:人間(合体)
LV :48/90
HP :1075/1304
MP :723/1425
―――――――――――――――――――――
殆どHPが減ってないじゃんかよ! 魔力のステータスが高いからギン爺の魔法じゃ大したダメージは通らないみたい。でも、MPは結構削れてるわ。〖ネクロマンシー〗を維持するのに常時減ってるみたい。MPがなくなれば回復もできなくなるし、このまま削り切るわよ!
「いつまでも逃げ続けられると思わないでください。〖亡者の手〗」
〖亡者の手〗は初めに覚える初期〖死霊魔法〗だったはず。私の知ってる他の初期魔法は戦闘で使えるようなものじゃなかった。けど、ここで使ってくるって事は局面を変える効果があるのかもしれない。どんな魔法なんだ?
『――主様! 何ですかこれは……ッ!』
初めての魔法に警戒しているとギン爺から焦った声が聞こえる。振り返ると、地面から伸びる複数の手がギン爺の体を掴み動きを封じていた。
うわっ! 手がいっぱいできんもーっ!




