60.アンデッドの町
ツララを復活させた私たちは一度集まり状況を確認する。
無事ツララの呪いも解けた事だし、コノハナサクヤヒメの悩みも解消された。これで任務完了のはずだ。
『それでコノハナサクヤヒメ。ツララも元に戻ったし、これで長かった冬も終わるのよね?』
「はい、そのはずでありんす。すぐにとはいきんせんが、時期に春がやってくると思いんす。でも、この件はこれで終わりじゃありんせん。ツララに呪いをかけた者が見つかってやせんから」
確かにその通りだ。理由もなく神の眷属が呪われるはずがないもんな。これは人為的に起こされた事件の可能性が高い。でも、誰が何の目的で起こしたんだ? 山に春が訪れると困るのか?
う~ん、ダメだ。考えてもわかんないや。呪われた本人なら心当たりがあるかな?
『ツララは呪われた時の記憶はある? 何か覚えてない?』
「呪われた時でありんすか? それが、ここ最近は意識が曖昧であまり覚えてやせん。何年も前から少しずつそうなっていったような……」
「異変に気付けなくてごめんなんし……主であるわちきの責任でありんす」
「いえ、姫様に無駄な心配をかけとうありんせんので無理してやした。あちきこそごめんなんし」
二人は手と手を取り合いお互いに謝り合う。再びコノハナサクヤヒメとツララのイチャラブが始まってしまった。
ずっと意識が曖昧か……って事は、犯人は何年も前から計画的にツララに呪いをかけていたって事になる。一緒にいたコノハナサクヤヒメは大丈夫だったのか? 〖鑑定〗できないから確認できないんだよね。
『ずっと一緒にいたコノハナサクヤヒメは大丈夫なの?』
「神に呪いなんて効かねえでありんす。神は壊れやすい地上の魔物や人間とは違いんすから」
コノハナサクヤヒメは「フフンッ!」と得意気に胸を張って答える。その勢いでたたわな胸がブルンと揺れた。
おおっ! 見事な果実! たわわに実っていますなぁ。
でもさ、壊れやすいとか言って貴方だって精神的に壊れてたじゃん。あんまり威張れないよね。ともかく、これで私の役目は終わりだ。町に帰って報告してやろう。みんなの喜ぶ顔が楽しみだね。
そう思った時だった。麓の町の方角から急に多くの嫌な気配を感じた。
これはいったい……何かあったのか? 町にはユナを残してきている。早く戻らなきゃ!
「アテナさんも感じんしたか? 麓の町で何かが起こっているようでありんす」
「そのようね、私たちは急いで戻るわ。元気でねコノハナサクヤヒメ」
「待っておくんなんしアテナさん。わちきとツララも連れていっておくんなんし。これほどようしていただいた恩を返しとうござりんす」
コノハナサクヤヒメの発言に「えっ……あちきも?」みたいな顔をするツララだったが、すぐに表情を引き締めて頷いた。
ツララは呪われてた時の記憶がないもんね。私に大恩とか言われてもピンとこないんだろう。でも、大好きな主人が決めた事だから従うってところかな。
しっかし、コノハナサクヤヒメも律儀な女だね。そういうの私は好きだよ。
「わかったわ。ありがとうコノハナサクヤヒメ。でも、貴方は力を失ってるんだから無理はしないでね」
「戦いになったらツララに任せるので大丈夫でありんす。よろしゅうねツララ」
「はい、姫様のために力を振るいんしょう」
コノハナサクヤヒメは力を無くしちゃったけどツララの強さは身を以て知っている。一緒にきてくれるのは心強いよ。
こうしてコノハナサクヤヒメとツララを仲間に加えた私たちは麓の町へと急ぐ。
すぐにいくから、無事でいてユナ!
◇◇◇
麓の町に到着した私が見たものは、土色の肌がドロドロに溶け、ゾンビのような見た目のアンデッドが跋扈する地獄のような町の姿だった。
出発前は私目当ての冒険者がいて活気のある町だったのに、どうなってんだこりゃ?
「おかしゅうござりんす……この町にはわちきの加護を授けてやす。大抵の魔物は近寄れなくなっているはずなのに……」
「神の加護を破るなど普通はできんせん。それとも、姫様の加護を破るほどの敵が現れたのか……」
確かにこの町の周辺には魔物がいなかった。それはコノハナサクヤヒメの加護のおかげだったようだ。
嫌な反応は町の中央、ユナの家の方から感じる。見たところ町にいるアンデッドは雑魚だ。無視して一気に中央まで行くぞ。
『見てくだされ主様! ユナ殿が人間の男に捕まっておりますぞ!』
町の中央にある広場に到着すると、片手でユナの頭を掴んで持ち上げ出ているソーマの姿があった。ユナは苦しそうな顔で拘束を解こうと腕を掴むが、ソーマは平然としている。
あまりの出来事に一瞬言葉が出てこない。だが、徐々に正気を取り戻すと同時に怒りが爆発した。地面が抉れるほど強く踏み込みソーマに接近する。
『うちの弟子になにしてくれとんじゃお前ぇえええッ!』
「――ぐぅッ!」
私の動きに素早く反応したソーマが腕を引くが、それよりも速く掴んでいる腕を〖爪撃〗で斬り落としユナを救出した。
『大丈夫ユナ? 生きててよかったわ。怪我はない? テルメンはどうしたの?』
「やっぱりきてくれた……助けてくれてありがとうアテナ師匠。ユナは大丈夫だよ。でも、お爺ちゃんは……」
指し示す方に目を向けると、そこにはアンデッドに変わりはてたテルメンの姿があった。体はゾンビのようになっているがまだ意識が残っているのか、時折「ユ……ナ……」と呟いている。
『テルメン、そんな姿になってまでユナの事を……。ソーマ、ただで済むと思うなよ』
「フフフッ、まさか生きて帰ってくるとは思いませんでしたよ。しかも神の眷属と山の神本人まで連れてくるなど想像もできませんでした。どうやら貴方を見縊っていたようです。ですが、〖鑑定〗もまともにできない貴方が私をどうすると?」
『知らないのソーマ、人は成長する生き物だって。それは魔物だって同じ事よ!』
私は向かい合うソーマに〖鑑定〗を発動する。当然以前と同じように妨害が入るが、それを気合で押し通す。
行けぇえええ〖鑑定〗だぁあああッ!!
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〖ソーマ〗
種族:人間
LV :48/90
HP :217/304
MP :1258/1425
攻撃力:203+28
防御力:177+17
魔力 :1425+74
素早さ:234
装備
〖ケイオスロッド:B+ランク:攻撃力+28、魔力+35〗
〖魔導士のローブ:Cランク:防御力+17、魔力+12〗
〖死神の指輪:B+ランク:魔力+27、状態異常耐性アップ〗
通常スキル
〖鑑定LV8〗〖鑑定妨害LV――〗〖人間言語LV10(MAX)〗
〖気配探知LV7〗〖思考加速LV5〗〖呪詛LV5〗
〖暗視LV3〗〖隠密LV4〗〖高速オペLV10(MAX)〗
〖HP自動回復LV4〗〖MP自動回復LV7〗〖痛覚緩和LV5〗
魔法スキル
〖死霊魔法LV10(MAX)〗
〖亡者の手〗〖怨嗟の視線〗〖死の誘惑〗
〖躯障壁〗〖ネクロマンシー〗
〖水魔法LV5〗
〖癒しの水〗〖浄化の水〗〖ウォーターボール〗
耐性スキル
〖物理耐性LV4〗〖魔法耐性LV7〗〖毒耐性LV5〗
〖酸耐性LV4〗〖麻痺耐性LV3〗〖呪い耐性LV7〗
〖石化耐性LV3〗
称号スキル
〖探究者LV――〗〖縁覚界LV――〗
スキルポイント:380
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よっしゃ通った! 〖鑑定〗成功だ! ソーマのステータスが丸見えだぜ!
あれ? 魔法系の能力はとんでもなく高いけど他のステータスは低いな。意外とたいしたことないんじゃないか? でも油断はできない。初めて見る〖死霊魔法〗は不気味だし、LV10(MAX)の魔法がとんでもなく強いのはツララとの戦いで学んだからね。
そして〖縁覚界LV――〗の称号スキル。ステータス通りの実力だとは到底思えないぞ。ソーマの奴、怪しいとは思ってたが三人目の十界称号スキル持ちだったのか……。




