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『僕』の味方作り

今話は、少しだけ長め

同年代の子息令嬢を招いた交流会の日がきた。僕は王都の北西に建つカフェの店内をぐるりと見回す。実は店の奥に作った観賞用の庭園にせり出したテラス席を使う予定だったんだけど、あいにくの雨でそれは叶わず室内での開催に変更した。

今は大慌てで鉢植えを運び込んで僕が指示した庭園の雰囲気に近づけるように室内を飾ったり、薄暗い室内を明る見せるべく明かりの位置や調度を整えている。切り花も手際よく選びテーブルに飾る元孤児達の姿に感心する。


壁を飾る武具やタペストリーはアンティークの精緻な物を選んだ。テーブルクロスや食器類は流行とは違うけれど、これから発展させる余地のある技術が使われている物を選んでいる。どれも現状では安価な物だが、価値を高められる物だ。何人の子が未来の価値を理解するだろう。

テラス近くの大きな窓に近い場所に三つの丸テーブルを置いて四席ずつ用意した。招待客は九人で、三人ずつ座ってもらって、僕が順番に席を移動していく予定。


九人の招待客のうち一番にやってきたのはミュティヒェンだ。扉が開いて雨音と一緒に入ってくる。だいぶ早い来訪に驚くと、手伝える事はないかと言い出した。大人しく招待客に徹してくれないかな。

それにミュティヒェンには大きな仕事をお願いしているのだから、そちらに集中して欲しい。まだ僕の従者として周知されていないから同席しても油断して本性を見れるだろうと、要注意人物の見張り役に立候補してくれて招待客という立場なのだから。


次にやってきたのは、イピノスの二人だった。オーリスの妹のカーラはオーリスと同じ赤い髪をおさげにして、薄緑のドレスでやってきた。ドレスを着慣れていないらしく歩くのがおぼつかない所を、子爵の甥がなんとかエスコートしている様相だ。二人とも緊張しているらしく、挨拶の口上で三回噛んだ。他の招待客が来るまでに落ち着いて欲しい。


雨音が少しだけ落ち着いたタイミングでジェリーヌ嬢が来た。先日の返事が気になるけれど、ここで聞くわけにもいかず、ニコリと笑って無難に挨拶をしイピノスの二人と同じ席に案内した。ジェリーヌ嬢はイピノスの子だと紹介すると、納得した表情で二人に話しかけ出した。二人の緊張を解いてくれるか、余計に緊張をさせるかどっちだろう。


雨が弱まっている間に、カージェス伯爵の姪とその婚約者のフィルデンテ伯爵令息が仲睦まじい様子を見せつけながらやって来た。


「こちらのお店の評判を聞いて、一度来てみたかったのです。お招きありがとうございます」


カージェス伯爵の姪が嬉しそうに挨拶する横顔を、フィルデンテ伯爵令息はニコニコと見ている。愛しい人が喜んでいる事が純粋に嬉しいといった雰囲気だ。


「イザベラが来たがっているのは知っていましたが、なかなか連れて来る事ができず困っていました。素敵な機会を下さりありがとうございます」


僕に対してもニコニコとした笑顔で挨拶する、フィルデンテ伯爵令息のスカーフ留めは、針金細工の様なコーヒーの葉モチーフのブローチで、よく見るとイザベラ嬢のネックレスはそこに花が付いたデザインになっている。

二人とも衣装は落ち着いた色合いや形なのだけど、袖口の刺繍やアクセサリ小物、靴のワンポイント等にコーヒーの葉や実が然り気無くデザインされていて、とてもオシャレだと思った。


僕はブローチの細工技術の高さと衣装のセンスの良さを誉めて、二人をまだ誰も座っていないテーブルへと案内した。細工技術の高さを誉めたときにイザベラ嬢が嬉しそうに笑ったのが印象的だった。


約束の時間が近付いてまた雨が激しくなってきた頃に、やけに派手な外見の、大きく膨らんだスカートを纏ったトゥピディ伯爵令嬢がやって来た。その衣装は場に合わないし、雨の日に着るものじゃないと思いながら挨拶を交わしたけれど、なんだかよくわからない言葉を返されて、僕の負担と言われた理由が一瞬で理解できた。


最後にリステュード伯爵令息とリベリー侯爵令嬢が連れ立ってやってきた。先日の宴で、リベリー侯爵は僕にご令嬢を売り込もうとしている様に見えたけれど、ご令嬢が気乗りしない様子だったのはそういう事かと思う雰囲気だ。

控えめで、僕に対して興味なさげな態度のリベリー侯爵令嬢は、当たり障りのない挨拶で済んだ。けれどリステュード伯爵令息は僕に対して何か思うところがあるらしい。


「ユージーン王子は慈善事業に熱心だと聞いていましたが、これほどとは思いませんでした。余程にお優しいのですね。僕らにも慈善活動を推奨なさるのですか?」


周囲で動き回る店員の子達を見ながら、仮面のような笑顔で言った。その視線は、前世の『俺』が何回も晒された物だ。本質を知ろうともせず上っ面だけで判断する愚か者の視線に、怒りが沸き上がりそうになったけれど、視界の端でミュゲが笑って首を振って見せてくれたので落ち着けた。


リステュード伯爵令息は僕より一つ上の年齢だから、あまり関わらなくてもやっていけるかな。それとも、どこかで手を下さないといけない時がくるのだろうか。僕はこの数年で格段に上手くなった愛想笑いを貼り付けて、リステュード伯爵令息に対応する。


「私は優しくなんかないですよ。優秀な人物と早くから親しくなりたくてやっている事ですから。リステュード伯爵令息とも親しくなれると嬉しいです。さぁ、席へどうぞ」


全員が席に着いて、招待に応じてくれた事へのお礼の挨拶を述べてから、ジュリーヌ嬢の居るテーブルに着いた。少した顔を強ばらせたイピノス子爵の甥ジャックと、緊張気味だけど笑顔を保てているオーリスの妹カーラが同じテーブルだ。それなりに人柄が分かってる、敵ではない人の集まりから交流を始めていく。


カーラが申し訳なさそうに眉を下げた表情で、お茶を口に運びなから、コーヒーの苦味をまだ美味しく思えないと言った。兄上も同じように言ってお茶を好んでいると伝えると、場の空気が和やかになった。


「ユージーン王子、このコーヒーは先日頂いた物と味が違う様に感じられますけれど、わたくしの気のせいでしょうか?」


ジェリーヌ嬢は、少しのトーンを上げて言う。笑っているのに挑戦的な表情に見えるのは、ウエーブのかかった髪の赤色が作る印象か。それとも何かの意図でそういう表情なのか。ジェリーヌ嬢の意図は分からないけれど、僕にとっては良い話題を振ってくれたと思う。


「ここはね、僕の事業のひとつの軽食・喫茶処なんだけれど。 沢山の人に来てほしいから、色々な飲み物を提供できるようにしたいと思っているんだ。だからコーヒーの風味も何種類か有ると良いなと思って研究してるんだよ。今日は開発中のお菓子なんかも並べているから、率直な感想をもらえると嬉しいな。領地の特産品をお勧めしてくれるのも、もちろん歓迎だね」


ジェリーヌ嬢に合わせて僕も少し大きめの声で答えれば、他の子達にも聞こえたようで、目の前の見慣れないお菓子に手を伸ばしはじめた。僕もオタータのドライフルーツを摘まみながら、ジャックに目を向ける。


「今年のイピノスはどう?新しいお勧めの特産品はある?あの草原はまだまだ未知の物が有りそうだから、気になってるんだよ」


「今はまだ、新しいものをご紹介できませんが、近いうちにきっとご提案できると思います。サラの事は覚えておいでですか?彼女が次々に雑草を私の所持って来るのですよ。「使い道を考えるのは、次期代官の仕事だ」と言って」


相変わらず固い表情でジャックが答えた内容に、僕は内心首を傾げた、サラはあの茶色い髪の彼女の名前と同じだけど、彼女の話だろうか。


「僕の知っているサラは、そんな事を言うタイプじゃなくて、玉の輿を狙って代官の息子に可愛いアピールをする様な子なんだけど?それは僕の知ってるサラの話で間違いない?」


「ユージーン王子が、「生まれだけで将来が決まる訳じゃない」と仰ったのでしょう?サラはとっくに玉の輿に乗った上で、将来の夫がちゃんと代官の職を継げるように発破をかけているのですよ」


僕とジャックの会話を聞いていたカーラが笑う。ちゃっかり玉の輿に乗ってサラは強かになった様だ。カーラもあの村の事を知っている様だから、沼まで案内してくれた少年達の事を色々と聞いてみた。皆の元気そうな様子が聞けて嬉しい。


「ユージーン王子は一領民の名前も覚えていらっしゃるんですか?」


あの時「農村に生まれたから農民にしかなれない」と諦めの表情を浮かべていた、紫の瞳の少女がカエル肉の燻製で大儲けして家を出た話に僕が笑った所で、ジェリーヌ嬢が瞬きしながら問いかけてきた。


「サラやマリは個性的な子だったから印象に残ってるんだよ。彼女達は優秀だしね。ジャックがサラの持って来る雑草から特産になる物見つけたら、僕にも知らせて。一緒に研究しよう」


ジェリーヌ嬢の問いに答えつつ、ジャックへと笑顔でこれからも仲良くしたいとアピールをした。僕がお世話になった村の皆や、あの開拓村の若者達に対して覚えた親近感もあって、イピノスの人とは縁を繋いでおきたい。それに何となくジャックには『俺』が重なって見えるから、放っておけない。


「王子は私と今後も交流して、あまつさえ特産の開発に協力までして下さるのですか?」


「だって、ジャックはあの件には関係ないんだろう?僕は自由気儘な第二王子だからね、親や親戚の行いで面白そうな友人を遠ざける様な真似はしないよ」


イピノスの様子が開けて心が軽くなった僕は席を移動する。ジェリーヌ嬢に気を効かせて、そのテーブルにはコレリックを残した。コレリックはイピノスの出身だし、ちょうど良いだろう。是非ジェリーヌ嬢との仲を深めてほしい。


僕が次に座った席にはカージェス伯の姪イザベラ嬢とその婚約者のフィルデンテ伯爵令息。それから未来の姉上の従妹トゥピディ伯爵令嬢アメリア嬢が居る。


三人ともがコーヒーを飲んでいるけれど、アメリア嬢は無理をして飲んでいるように見える。対してイザベラ嬢とフィルデンテ伯爵令息は給仕に頼んでコーヒーの飲み比べを楽しんでいたらしい。


「叔父様や従兄から噂を聞いて、一度お会いしたいと思っておりました。このような楽しい催しに招いて頂けて光栄ですわ」


「イザベラ嬢の従兄殿や叔父上殿には年長者の知恵を借りました。イザベラ嬢には若い女性の感覚で私を助けて頂けると信じています。それで、飲み比べをした感想や、この店への助言を頂けますか?」


「わたくしはまだ何のお役にも立てていないのですから、そんなにかしこまらないで下さいませ。コーヒーを何種類も提供して選べるというのは、面白いと思います。婚約者と一緒に飲み比べをしてみて、案外と好みが違うと気付けました」


イザベラ嬢は、僕が栽培した木の豆で魔導ポットを使わずに淹れたコーヒーを飲みながら答えた。フィルデンテ伯爵令息の手元には従来の豆を魔導ポットを使って淹れたコーヒーがある。あのコーヒーは苦味が強いから女性には好まれないと思ったけれど、違ったかな。僕もイザベラ嬢と同じコーヒーを頼んでみた。


魔導ポットを使わない入れ方だと、焙煎加減や挽きの粗さが安定しないせいか、以前に飲んだ時と違う味で、甘味を感じるような独特の香りが際立っていた。この香りと味なら確かに女性に好まれると納得だ。


「好みの違いを知る……。恋人同志で利用したら仲が深められそうって事?アメリア嬢はどう思いますか?」


「わたくしが恋人からここに誘われたら、正直滅滅します」


眉間に皺を寄せて、黙ったままのアメリア嬢にも話を振ってみた。アメリア嬢は表情を変えず青紫の瞳を僕へと向けて、よく通る声で答えた。両隣のテーブルから息を飲む音が聞こえて静まり返った。凍りついた空気を気にする様子もない表情のアメリア嬢を、僕はニッコリと見つめ返す。


「これは手厳しい意見だね。どんな所が減滅ポイントなの?」


僕は敢えて明るく尋ねた。室内の全員が注目している状況で、どのような発言をするかな。噂通りなら、店の立地について文句を言うだろうけど。


「調度品が古臭いです。あの花びんなどお祖母様の時代の物ですわ」


僕の予想は外れたけど、噂通り気遣いの足りない人物で間違いないようだ。イザベラ嬢が指した花瓶はフィルデンテ領で作られた物。フィルデンテ伯爵家の者の前でその発言は敵対表明とも取れるのだけど、きっと気付いていない。

まぁ、その前に主催者が僕なのだから、僕が選んだ調度品に文句を言うという、身分的な問題発言でも有るのだけど。僕は、まだまだ発言が続きそうなアメリア嬢に頷いて見せる。


「それからこの真っ黒な飲み物も、華やかさの欠片もなくて」


おや今度は隣の席のイザベラ嬢に喧嘩売る様な発言。一体どうやって育てたら、こんなに全方位に喧嘩を売るような発言をするご令嬢になるのだろう?


「飾られているお花も地味な物ばかりで、貧相ですわ」


おっと僕が育てている植物まで貶しはじめた。視界の右側でミュティヒェンとミュゲが、左側でコレリックとイスカがブルブルと震え出した。このままアメリア嬢に話をさせていると、四人が爆発しそうだ。


「ユージーン王子、時間は有限です。あちらの皆様との交流も必要なのではありませんか?」


イザベラ嬢の発言で、僕はあっさりと次のテーブルに移る事ができた。カージェスの一族はやっぱり頼りになる。


最後に座った席は、ミュティヒェンと悪意が噂されていた二人がいる。

先日の宴で会った時と随分雰囲気が違うリベリー侯爵令嬢のシルビア嬢は、あの非常に甘いドライフルーツを摘みながらコーヒーを飲んでいた。


シルビア嬢の今日の装いは、クリーム色のシンプルなドレスにシルバー製の葉っぱモチーフが連なったカチューシャの様な髪飾りで、クールに見えるシルビア嬢によく似合っている。あのカチューシャの葉っぱは、見た事ない形だからきっと隣国のものだろう。シルビア嬢の人柄に問題なければ、隣国との縁を繋ぐ為にも親しくなっておきたい。


「決して盗み聞きするつもりではなかったのですけれど、第二王殿下は本当に『生まれで将来が決まることはない』とお思いなんですか?」


アメリア嬢が場の空気を凍りつかせてしまって、しかも来訪時の挨拶で嫌み合戦をしたフィガロのいる席で、何を話したら良いのか困っていたら、シルビア嬢が話を切り出してくれた。


「限度はあるかもしれないうれど、行動すれば、望んだ未来を得られる世であってほしいと思っているよ」


「そのお考えが、このお店ですか?」


リステュード伯爵令息フィガロが、ミュゲを睨みながら言う。それでもミュゲは笑顔を崩さず僕の前にコーヒーを置いて行った。フィガロの態度はきっと後で兄上に報告されるだろう。この場で一番敵意を表してはいけない相手はミュゲとイスカなんだけど、二人の顔が売れていないから気付いていない。僕が手を出すまでもなく、フィガロは立場を悪くするだろう。僕は残念に思いながら、この場限りの会話を続ける。


「そうだね。フィガロは生まれに不満がないから、僕の考えに賛同できない?」


「王子はその生まれで不満がお有りだと?」


「無いとも有るとも……話を戻そうか。シルビア嬢は目利きに自信が有ると言っていたね。侯爵令嬢の立場ではその優秀さを生かせなくて歯がゆく思っているのかな?」


「いえ、そんな意図では……」


不安げに揺れていた黄色っぽい琥珀色の瞳が一度静かに伏せられて、シルビア嬢の望みが抑え込まれた様に見えた。目を開いて僕を見つめる視線がぶつかったとき、イピノス領の農村のマリの姿が頭に浮かんだ。

どこもかしこも、どうして子供が諦めの感情を瞳に宿らせているのだろう。


「もし、ここの店の物をひとつ、何でも持って行って良いって言ったら何を選ぶ?もし、一番価値のある物を選べたら、シルビア嬢が将来を選ぶ為に手を貸そう」


「それは、王子妃の立場を望めば叶えて下さるという事ですか?」


シルビア嬢は口許だけ不敵に笑いながら言った。諦めの感情を宿した凪いだ瞳のまま。


「カリーナ嬢が真に望むのなら。でも違うよね?」


少しの時間、僕とシルビア嬢は沈黙の中で見合った。カサリ、ガタッと音がしてその方向を見ると、カーラが笑顔で立ち上がって僕の方へと歩いてくる。その距離十二歩。カーラと同じテーブルに居たジェリーヌ嬢はニコニコと、コレリックは少し不機嫌そうにしている。


「ユージーン王子、わたくしもそのお話に参加させて下さいませ」


どうみても後ろでニコニコしてるジェリーヌ嬢の企みなんだろうけど、その意図は読み取れない。けれど、カーラが参加表明したのなら、皆を巻き込める。僕の当初の目的には丁度良い状況かもしれない。


「カーラも?じゃあ、皆でお土産を選ぶと良いよ」


少し悩んで返した答えに、何人かは喜んで、何人かは困惑していた。けれど、僕が促してカーラがシルビア嬢を少し強引に誘って室内を見始めると、他の子も動き出した。


困った顔になったコレリックと、ピクリと頬を動かしたミュティヒェンの様子からするに、今夜も母上のお叱りを受けるのは間違いない。けれどこれが一番簡単に、僕の価値観と合う人を見つける手段だと思うから許してほしい。


思い思いに室内を見て回って、それぞれ予想通りな物を選んでくれた。


ジャックはサラに食べさせたいとお菓子を希望したから、試しに一番高価な物を選んでと言ったら、迷わずに一番高価な物を選んだ。カーラは壁に飾っていた槍を兄の為にと。


アメリア嬢は大きなバラの鉢植えを選んだ。飾りにしかならないし、使う場所を選ぶ物で、全員が呆れた様な目を向けた。


イザベラ嬢はアメリア嬢が古臭いと言ったガラスの花びん。フィルデンテ伯爵令息はテラスに置いていたグリーンカーテンの蔓を希望し、面白い商品にして返すと笑った。


リステュード伯爵令息フィガロは、欲しいものが無いと素っ気なく言った。そんなに僕に敵対するなら、何で今日来たのだろう?


散々に悩んでいたシルビア嬢は、この店の貸し切り権三回分を希望した。いくつかの約束事とお願い事を伝えたら了承してくれたので、貸し切り権とその時の代金を僕に請求する様にという書きつけを作って後日贈る約束をした。

これでシルビア嬢とも協力関係を築ければ、もしもあの人がこの国に居なかった時、隣国へ探しに行く事に助力を願えるかもしれない。


最後にジェリーヌが何も持たずに、僕の前にやって来た。


「わたくしは、既にユージーン様からお言葉を頂いておりますから、この場で望む物は何もございません。遅くなりましたが、先日のお申し出を受けさせて頂きます。たった今から、わたくしを婚約者として扱って下さいませ」


僕を含めた全員が、目を見開いて固まる中、ジェリーヌ嬢だけが笑っていた。

僕は『俺』だった時も含めて始めて、人を見誤った気がした。

次回は一回お休みを挟んで9月19日(火)予定です。

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