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「なんで……なんでだよ……」
「私もそう思うわ……」
コーヒーの香ばしい香りに包まれた。この喫茶室も殺風景だった。奥のカウンター席には、コーヒーミルがポツンと置いてある。コーヒーポッドから暖かい湯気が立ち上っていた。
コーヒーを一口すすると。
俺はふと、思った。
あれ? もしかして?
秋野もこの世界へ……。
「じゃあ、今まで出会っていないだけで、この世界には秋野も転生してるんじゃないのか?」
「……そうかも知れないわね。でも、それだと辻褄が合わない……」
「うん?? 辻褄?」
「ええ……」
「とにかく、俺はこの戦争が終わったら、この世界へ転生したかも知れない秋野を探しにいくよ」
猪野間はこっくりと、頷いて、しっとりとした長い黒髪を掻き上げた。
「鬼窪くん……ええ。それなら、私も手伝うわ」
猪野間はハッとして、突然、立ち上がって腰にぶら下げていた刀を抜いた。
俺はびっくりしたが、同じく立ち上がり神聖剣を構える。
その拍子に、テーブルの上の二人分のコーヒーカップが派手にこぼれた。