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何とも言えない苦悩が刻まれた表情のアスティ女王を一人残して、俺は西田がいるガーネットのところへと行った。その瓦礫と化した市街地の片隅にある空間には、未だに無傷の郵便受けや、噴水までもがあった。
ガーネットが守っていたのは、人だけではなかったんだな。
あれ?
幾つか建物も無傷だ。
立派なくだもの屋や出店もある。
「アスティ女王は倒したか?」
「ああ、お蔭さまでな」
ガーネットが白い盾を降ろして、流れるような赤い髪の手入れをした。この人も美人だったんだな。
背は俺より20センチは高いけど……。
あれ? ガーネットの後ろを見ると、西田はわかるんだが……通小町もひどく疲れた顔をしている。
「何故? 通小町まで疲れているんだ?」
「無理もないんだ聖女様は……。ダメージは受けていないというのに、回復魔法をずっとあたしに使っていたんだ。お蔭でこっちは、まったく疲れていない」
「……あー、そっか」
俺は呆れた。
確かにガーネットがダメになったら、俺たちは全滅だった……。
でも、通小町は放っておこう。
俺は西田に、お願いしたいことが一つあった。
「西田。ほんとにありがとな……少し休んだら、転移魔法でラピス城へ送ってくれないか?」
俺は西田の顔色を窺った。
西田は俯き加減だ。
「もう味方だよな?」
それを聞いて、西田は素直にこっくりと、頷いてくれた。
やっりーーー!!
さっすが、幼馴染!
「ところで、その白い盾って一体……何??」
「ああ、王女が言うには、グレード・シャインライン国の国宝は、その神聖剣だけじゃないんだ。盾もあったんだ。そして、これがその盾だ」
「うへええ。大方、ハイルンゲルトが使っていたんだろ?」
「いや、ハイルンゲルトは装備したことはなかったんだ」
「そうか……」
確かに……俺はその盾の使い方を知らない。
ハイルンゲルトが使っていないからだろう。
風が強くなって、黒煙が殊の外、薄くなって来た。
その時、空から大声が聞こえた。
「鬼窪くん! 早くラピス城へ戻ってきて!! 急にクシナ要塞が攻めてきたの!!」
上を見ると、空から箒に乗ったマルガリータがこちらへ向かって、猛スピードで飛んできた。
「本当か?! ラピス城は無事なのか?!」
「ええ、今のところは無事よ。お師匠と黒の骸盗賊団それに、ブルードラゴンが防戦してくれているの。早く乗って!!」