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道路の脇で考える。
通小町は戦えない。だが、ソーニャが心配だから箒に乗って空にも逃げられない。ここグレード・シャインライン国の本土でソーニャを探さないといけないんだ。それも、ソーニャの身は、一時を争うのかも知れなかった。
俺はそこまで考えると、目を閉じて、神聖剣を鞘から抜いた。
通小町は身震いすると、俺の盗賊衣装の袖を握る。
「は、早まるな! 多分、相手は正規軍だぞ!」
「でも、こうするしかないんだ……通小町はここで隠れていてくれ……」
俺は道路に飛び出すと、サンポアスティ国の正規軍に向かって、神聖剣を構えた。
「むっ! まだいたのか!」
「グレード・シャインライン国の騎士の生き残りだ!」
「ひっ捕らえよーー!」
兵たちの怒号が辺りに木霊し、こちらに武器を向けてくる。
それでも、俺はサンポアスティ国の正規軍の中心目掛けて、走り出した。
「くらえーーー!!」
数多くの剣や槍の矛先を軽いステップで躱しながら、相手の鎧ごと神聖剣で切り裂いていく。時には突きを放ち、相手の喉元を貫いて、飛び交う銃弾はなるべく速く身体の重心をずらして、躱す。自然と身体が動くんだ。
だけれど、数発の銃弾に俺の足が撃たれた。
肩に相手の剣が振り落とされて、裂けた。
焼けるような激痛が下半身と上半身に走った。
さすがに、俺は痛みで地面に体を投げ出した。
サンポアスティ国の正規軍は、まだ4分の1は残っている。それでも、俺はここ市街地のど真ん中で、追い詰められても、神聖剣を力強く握っていた。
ほんと、激しい戦いだよ。倒れた俺に向かって、兵がそれぞれの武器を構えて、突進してくるんだ。
俺は目を瞑った。
あれ??
俺はどうして、こんなところで、戦っているんだ??
なんで、なんで??
地面で横になって、自問自答していると……。
辺りの土煙が強風に乗って、何かを言っているような気がした。
それはか細い声だった。
なんでかなあ……。
あの老人。ハイルンゲルトの声によく似ているんだ。
その風の音。
「戦え……戦ってくれ……」
って、言っている。
そればかりが、俺の耳に聞こえるんだ。
幻聴??
そうなのか??
これは、俺だけが聞こえる幻聴なのか??
俺は風の声に「わかったよ! 戦えばいいんだろ!!」と、倒れながら自分でもバカだと思うけど……返事をしていた。
「鬼窪! ちょっと待ってろ!! うりゃーーー!!」
通小町の叫び声と共に、俺の身体が光り怪我と疲れが治ってきた。
俺は立ち上がって、サンポアスティ国の正規軍へ向けて、神聖剣を面前に出し、自然といつもと少し違う構えをしていた。