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「むっ。見えてきたぞ」
「うん??」
徐々に雲の下に、壮大な海と緑に囲まれたグレード・シャインライン国の王城と城下町が現れてきた。けれども、所々から城下町の建造物は煙を上げている。あの真っ白な美しい国は、もはや、戦火の跡だった。
あれが、俺が守っていた国??
けれど、もう、半壊している……。
「通小町。すぐにソーニャと騎士団を見つけるんだ。ソーニャが心配だ」
「ああ、わかっている」
通小町は小さめな箒を駆使して、地上へ降りていった。
「あ!!」
遥か上空には、未だサンポアスティ国の幾人かの兵がサーフィンに乗っていて、旋回をしていた。
空中用の見張りだろうか?
それとも……。
「鬼窪。まあ、まずは降りよう。見たところ攻撃はしてこないようだし。恐らく偵察とか警戒をしているだけさ」
通小町がスピードを上げて、降下していった。
地面に着地すると、周囲を漂う黒い煙のせいで、思わず咳き込む。口と鼻を抑えざるを得なかった。
「ケホッ……うーん。戦争は、こちらの方が優勢だったはずなのに……」
通小町が険しい顔をした。
ここは、市街地だけれど、逃げ惑う街の人々がいなかった。
というか、誰もいない??
みんなは、どこへ??
サンポアスティ国の兵も一人もいない??
ほんと、不気味なほど無人だなあ。
俺たちは、しばらくグレード・シャインライン国の一つの市街地を、歩き回ることにした。空には黒煙のために鳥もいない。人も焼跡のために一人もいない。辺りは時折、ぱちりとする炎の音しかしなかった。この煤ぼけた街には確かにまざまざとして破壊の跡があった。通小町が、廃墟と化した市街地の交差点で、立ち止まった。そして、通小町はニッコリ笑って、クイッ、クイッ、と親指を立てて、とある場所に向けた。俺は、その方向を見ると、美味しそうな匂いが漂う一軒のパン屋があった。
香ばしい匂いに連れられて、通小町とその店に入った。
ガラス張りの無人の店内には、派手に倒れた木製のテーブルと椅子が散乱していた。
その店の厨房に、焼き立ての大きなパンがまな板の上にポツンとあった。
「この際だから、頂いてしまおう」
「ああ……」
無銭飲食は俺、初めてだなあ。
何故かこんなところにある焼き立てパンは、とても美味しかった。
丁度、腹が減っていたから、良かった。
通小町も満足したようで、再び店の外へ出て、ソーニャたちを探そうとした。だが……。
「あ!」
俺の感が急に働いて、通小町を引っ張ると道路の脇に隠れた。と、突然。交差点の右側からサンポアスティ国の兵が現れた。
それも、大軍のような規模だ……。