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サンポアスティ国 女王の間 別名ライオン宮
「おや?」
女王の傍のライオンの一匹が総毛だった。
アスティ女王が不審に思って小首を傾げた。ライオンを窘め。右手で玉座の後ろにある。とある武器をそっと探った。
未だに鬼窪のことを案じていた西田は、エスニックな巨大な窓ガラスの窓際でサンポアステイ国の兵の隊長と話していた。
「今、鬼窪くんはどこにいますか? 怪我とかしてない?」
「はい。目下、箒に乗った聖女と共に、ここブルー・アクア・クイーンへと向かっているとのことです」
「箒? 聖女? なんのこと?」
「いや、事実を言ったまででして……」
突如、黒い影が空から現れて、巨大な窓ガラスが割れた。
アスティ女王の傍の一匹のライオンが激しく咆哮した。
「きゃー!」
「な、なんだ!! 」
何が起きたのかと、サンポアステイ国の隊長は、武器を構えたが、瞬時に何ものかの武器で喉元を掻き斬られ絶命した。西田は反射的に窓ガラスから女王の傍へ転移した。巨大な窓ガラスから現れたのは、酷い形相のオニクボだった。すぐさま、多くの見張りのサンポアスティ国の兵が倒れる。
「ふふふふ、会いたかったぜー! やっと会えたぜ。ここにいるのはわかっていたぜ。俺さまは憎い相手だと臭いでわかるんだぜ。さあ、血を巻き上げて踊ろうぜ! 苦しい苦しいブラッディ・ダンスだ!」
「お主! 黒の骸盗賊団の頭領のオニクボか?!」
「鬼窪くん?? え??」
オニクボは人差し指を面前に上げてから、窓の下の遥か下方を指差した。
「あいつは、まだ空にいるんだ。誰にも邪魔なんて野暮なことは……」
「??? 鬼窪くんのパパもこの世界に来たの?? 鬼窪くんのパパって、こんな顔だったっけ??」
「だー!! ややこしい!! 黙れこの!!」
やたら首を捻り出す西田に向かって、オニクボが短剣を投げた。だが、サンポアステイ国の近衛兵の一人がそれを叩き斬った。
それと同時に、オニクボが目にも止まらぬ猛スピードで、近衛兵たちの袂へ次々と入り、即座に短剣で全ての近衛兵の手足や胴に傷を負わした。
「うっ!」
「……」
「……」
途端に、近衛兵たちが苦しみもがいて、倒れだした。
「毒か! お主のその髑髏のナイフ……噂では聞いたことがあるが。この世には解毒剤がないといわれるガルナルナ砂漠のサソリの毒が塗ってあると……」
アスティ女王が玉座の後ろからグレート・バニッシュ・スターを取り出した。
「ははっ、有名人ってな辛いよなあ。行くぜ!!」
オニクボがアスティ女王にじりじりと接近していく。女王の傍銀色の二匹のライオンが立ち上がった。
だが、西田がその間合いに割って入った。
「本当に鬼窪くんのパパじゃないのよね??」
「パパ?? 黙れバカが!!」
西田はそれを聞いてホッとすると、右手を素早く挙げた。女王と西田の身体から徐々に強い光が発せられる。
「強制転移!!」
「な?!」
オニクボの目の前で、アスティ女王と西田が忽然と光の中へと消えた。