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超高速で飛ぶマルガリータの大きな箒の上で、俺が考えていたのは、学校での模試を完全に忘れてしまったこと、通小町も何故ここへ来たのかということ、秋野は本当にモテ男だったのだろうかということ、グレード・シャインライン国の王となってソーニャと結婚したら、俺はどうなってしまうのだろうということだった。
風を切る音で耳が痛かった。
「もっと早く! もっと早く飛んで!」
マルガリータがそう叫ぶ。
サンポアスティ国の兵たちの撃つ。両手が自由だからライフル銃で狙い撃ちしてくる。だが、発砲音が兵たちを軽く通り過ぎる俺たちの真後ろで聞こえる。
当然、弾は当たりはしない。
風を切る音が轟音に近くなるにつれ、サンポアスティ国の王城がよく見えてきた。マルガリータはそこの庭園の隅っこに降りるために減速をした。大きな箒を上手に操って、滑空する。その間に、俺はサンポアスティ城全体を見ることができた。緑色の蔓や城壁を伝う水流によって、内部は見えなかったが。だけれど、ここからでも、女王の玉座が垣間見えた。
豪奢な巨大なガラス窓の内側にいる女王と目が合った。
浅黒い肌の美しい妙齢の女性だ。
両脇には、ライオンが寝そべっている。
その隣には……またしても、俺の同級生がいた。
「な?! 西田!!」
それも、俺のもっとも身近な存在。
西田 円という名の……幼馴染だった……。
マルガリータが大きな箒で庭園の隅に着地した。
俺は急いで神聖剣を抜き、サンポアスティ国の兵を迎え撃つ。
元々、着地点の庭園には見張りの兵が数十人もいた。
茶褐色の鎧を寸断していくと、吐血したサンポアスティ国の老兵の一人が、俺の顔を見て驚いた。
「お、お前も……い、異世界人か?!」
「ああ。そうだ」
「どうりで、強いわけじゃー!」
そう言った老兵が斬りかかってきたが、袈裟斬りでさばく。老兵が事切れると、俺は軽いステップでサンポアスティ国の兵を次々と、唐竹割り、横薙ぎ、逆袈裟に斬っていった。
マルガリータが後ろで口笛を吹いた。
「相変わらず鮮やかねえー。鬼窪くん。その調子で女王の間まで行きましょう」
「お、おう! 何故か体が勝手に動くんだ」
俺とマルガリータは、庭園から緑色の蔓と流れ落ちる水流を避けて、東の門を神聖剣で叩き割って、城内へと突入した。