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俺は今も近くに浮かんでいるクシナ要塞が、いつ襲ってくるのかと気になっていた。正直、かなり心配だったんだ。
クシナ要塞が本気を出しせば、恐らくいとも簡単にラピス城が破壊されてしまう。つまりは終わりだ。クシナ皇帝は確かにカッコイイ人だったけれど、そんなことはしないとは言い切れない。
だから、俺は大食堂にいる時にマルガリータに不安からサンポアスティ国をこっちから攻めてしまおうといいだしたら、それを聞いたソーニャは「じゃあ、なるべく早い方がいい」と言った。
大食堂の食事の後に、その足で軍会議室へと向かうこととなった。
大食堂から肌寒くなってきた廊下を渡り、深夜の石階段を登っている途中。通小町が俺の隣を追い抜き、こちらに真っ正面から向かい何やら薄ら笑いをした。
「ふふふふふふ……鬼窪。お前、ここグレード・シャインライン国の王様になるんだってな。あのお前がねえ。歴史、数学、現代文ダメな男が。でも、これで野望に一歩近づいるじゃないか。ふっふふふふふ……」
「野望って??」
「いや、こっちの話だ……。お前さえ良ければこの戦争後に、優秀過ぎる聖女を王様のお傍に……って、いや! 違うっしょーー!! だから、優秀な私に国の半分を譲ってほしいーー!」
「?? 通小町? 何が言いたいんだ?」
肩で息をしている通小町がここラピス城へ来てから、どうして今まで俺たちの味方になっていたのかはわかったが……。
「ふふふ、まあ、いい。とにかく国を譲ってくれ」
「う……」
そうだ。通小町は、俺と真逆かも知れない。
俺は国を守り橋も守っている。けれど、通小町は国を奪うことを考えているんだ。それじゃあ、通小町は周辺の強国とまるっきり考えが似ているじゃないか。
俺は即座にニッコリ笑って……。
「却下……」
「ウ、ウッキーーー!! この学校一の秀才をーーー!!」
それから、俺は寒さが増してきた石階段を白い息を吐きながら早々に登っていった。通小町も白い息を吐いて、悔しそうにハンカチを噛みながら俺の後を追ってきた。
そして、しばらくして、俺の隣へ来ると。
「なあ、鬼窪。秋野のことだけどな」
「ああ、元の世界のことか」
「秋野……。あいつさ、学校では恋人が一人いたんだ……」
「うん? ……それ本当か?」
俺は通小町の言葉が信じられなかった。
秋野に恋人が??
「ああ、そうともだ。だけど、その恋人……あのいじめのリーダーやってた石塚の妹なんだってさ」
「……そ、それも本当か??」
「妹も秋野を庇ってたんだってさ。けど、いじめのリーダーの石塚がどうしても、許せなかったことが一つあったんだよね。それで、秋野をいじめ続けていたんだ……。なあ、鬼窪。お前。元の世界の学校で、あの生徒会長の猪野間と顔見知りだったんだろ」
音もなく二人で石階段を登りながら、俺は少し考えた。
もう夜更けだ。
きっと、深夜の3時頃だろうな。
城内には風はないけど、空気は殊更に寒かった。
それはそうと、通小町は何を言っているんだ??
そりゃそうだろう。
なんたって、生徒会長なんだからさ……。
全校生徒を集める時など行事がある時は、決まって壇上にいたりと。
猪野間を知らない奴なんて学校にはいないはずだ。
「それが何だ? 通小町は何を言いたいんだ?」
「猪野間も秋野を庇っていたんだ」
「??? ……え?」
「あいつ……秋野は……教室では隠していたけど、いわゆるモテ男だったんだ」
あ、あの秋野が……モテ男??
石階段の狭い踊り場でしばらく佇んだ。右手の奥にはこの城の軍会議室へ続く扉が見えていた。俺は混乱する頭を振って、再び歩いてから石扉を開ける。