46
少し経って王の間から人々が帰ってから、俺はソーニャと一緒にラピス城の最上階から階下へと降りていった。俺は降りたり登ったり、森の中を走ったり戻ったりで、疲れていた。
「オニクボ。もう考えたか? 王になれるのは大変な幸運なことだ」
「へ? え? ああ……さあて! 飯だ飯だ!!」
さすがに息切れをしてきた。だけど、階段を二人で並んで降りる。真っ白なドレスを着た隣のソーニャにそう言われると、俺は嬉しくって恥ずかしかったんだ……。
この俺が王様とはねえ……。
まだ高校生なんだけどな。
あ! あれれ??
そういえば、ソーニャはもう王女で、俺とは一つ年上なだだけだった。
なんだかとても疲れていたし、王様になる自信を無くしてしまった俺は項垂れた。そんな俺に、ソーニャが階下へ降りる前に着替えてくると言った。
ラピス城の4階にある王室で、ソーニャが白いパーティドレスというラフな格好に着替えてくると、ひたすら待っていた俺に「すまんな」と掌をヒラヒラさせた。
「大食堂に行く前に少し話さないか?」
と、真っ白なパーティドレスのソーニャが王室の窓の外のベランダをその白い指で指差した。
「え? いいけど」
照れた俺は、勿論俺は断る理由もないので、のこのことついて行った。
ラピス城の王室のベランダは、やはり石造りだった。見たこともないオレンジ色のバラが植えてある花壇が至る所に備え付けられている。満月は相変わらず空でデカい顔をしていたが、幻想的な光でベランダ全体を、花壇に、俺に、ラピス城の壁面。それに、ソーニャを、包み込んでいた。
「さっきも言ったが、すぐに決めなくていい。戦争が終わるまでな。だが、この戦争はすぐに終わらせたいんだ。わかるか? オニクボ? これは国の民。その全ての問題でもあるんだ」
ソーニャはそういうと、遥か南の方を向いた。そこには広大な緑と海とボンっと頭を出した山が連なっている。その向こう端に広々とした大陸があった。その大陸には多くの建造物があるのがここからでも見えた。
「あれが、グレード・シャインライン国か??」
俺は、今まで守っていたのは、橋の上のここラピス城だけかと思っていたが、考えてみれば、当然グレード・シャインライン国っていうからには、多くの建造物も国民もいるのだろう。
「ああ……。あ、そうか。オニクボは見ていないのか。我が国の本国を。私は辛いことがあったら、いつもここへ来て遠い本国を見ているんだがなあ」
「あ……ああ。そういえば、見た時がないな。あっちの大陸にあるのか? 南の方に?」
「ああ。そうだ。それに、それはそれは美しい国だぞ」
ああ、そうか。
グレード・シャインライン国は……。
緑豊かで資源がたくさんあるんだった。
「知っているよ。周辺の強国がその資源が狙うほどなんだろ?」
「ああ……先々代よりもかなり前からな。土地が良かったんだ。みな元々美しいのだよ」
ソーニャはそう言うと、肩まである金髪をかき揚げて青い瞳で見つめて、悲しく笑いかけてきた。辺りに吹く生温い風が冷たい夜風になってきた。
俺は疲れた体が次第に癒されてきた。
「今度、見せてやろう。オニクボが守ってきたもの全てをだ……」
「……ああ、期待してるよ」
そして、しばらく沈黙の後に、ソーニャは俯き加減で片足で地面にある花壇から落ちたバラを蹴って言いにくそうにしていたが。
ついに、こう言った。
「オニクボ。実は、今までまだ早いと思って隠していたのだが、その神聖剣には秘められた力があるんだ……」
「へ?」
「前にハイルンゲルトから聞いた。そして、ある技も生み出したんだとも」
「???」
「あのライラックと同じ。そして、私も少しはあるんだが。四大千騎士は皆持っているんだ。その力は……真実の力だ。神聖剣にはその力がふんだんに
秘められているんだ」
「力……って、ソーニャって千騎士だったのか?!」
「王の間で言ったはずだ。私に変わって千騎士になるのだと……」
「ああ、そういえば!」
冷たい夜風が少し強くなってきた。
俺は寒いので、盗賊衣装のマントを羽織り直した。
ソーニャは寒くないのか、パーティドレスが風になびくのをそのままにしている。
「その神聖剣には、もともとある真実の力をハイルンゲルトが独自の剣技に合体させた技……鋼雲剣というのが封じられているんだ」