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「さあ、鬼窪くんも乗ってちょうだい。このまま私たちもラピス城へ行くわよ」
「ああ、わかったよ。それより……」
「マルガリータよ。三人も乗って大丈夫なのか?」
俺とヒッツガル師匠を乗せて、心配も余所に、マルガリータは大きな箒へ普段と変わらない口調で「飛んで」と言った。箒はグングンと空へと……上がらなかった。
「きゃーーー、重い! 重い! 全然飛ばないわ!」
「無理するなよなあ」
「だってー、クシナ要塞が微動だにしないんだもん。だけど、恐らくクシナ皇帝はラピス城を再び侵略するつもりなのよ。胸騒ぎがするんだもん」
ヒッツガル師匠が小首を捻り。
「ああ、あり得るね。マルガリータの言うことも一理あって、クシナ皇帝はこちらの動きに不穏なことがあれば、すぐに戦争を吹っかけてくるぞ。という意味なんだろうなあ」
「そうですよ。お師匠」
それにしても、マルガリータもきっとどこかかしら抜けてるんだろうなあ……。
あるいは、それだけ不安要素があるんだろうなアレに……。
俺だって不安だった。
クシナ要塞がいつ再びラピス城へ進行してくるのかと思うと。
うーん……不安だ。
「俺は走って行くよ。マルガリータとヒッツガル師匠は先に行っていてくれ!」
仕方なく俺は箒から飛び降りた。
トンっと地面へ着地すると、今度はラピス城の方へとまた戻ることになった。
ラピス城へ戻る道すがらに、俺なりに考えた。
クシナ要塞には、きっと何か目的があるんだよ。
マルガリータとヒッツガル師匠は、警戒をしていた方いいって言うし。
たぶん、ただ何かの理由で、これ以上侵略ができなくなっただけなんだよ。
それはそうと、腹減ったなあ……。
ラピス城へ戻ったら、何か食おう。いや、何かがわかるだろう。
うーん……。
ラピス城に繋がる橋へとたどり着いた。
だけど、あれほど激しかった戦争は終わっていた。
俺も不気味な気分になった。
何故かっていうと、静かすぎるからだ。
辺りは打ち捨てられた死骸以外何一ついないし。
オニクボもいないし、黒の骸盗賊団の姿もない。
当然、クシナ要塞の騎士もいなかった。
みんな、忽然と消えてしまった。
あちこち死体だらけの無人の橋を延々と渡っていて、思った。
あれ??
何か変だ。
死体にはラピス城側の騎士が一人もいない。
こちら側は全て黒の骸盗賊団の死体だった。
ほとんどが石造りのラピス城の石門に入ると、ラピス城側の騎士の一人に、石でできた王の間へと案内された。
石の階段を登り切ると、そこは、ラピス城内の最上階にあたる部分だった。
この部屋は初めてなんだよな。俺。
そこも石造りで……もう、どこもかしこも石しでしかできていないんじゃ……。
なかなかに広い部屋だった。
部屋の両側に鎧を着た銅像が並列してある。
そして、質素な玉座だけがポツンと奥の方にあった。
王の間の玉座にソーニャが座っていた。今は白い鎧姿ではなく。王女様らしい白いドレスを着ていた。その玉座の隣に分厚い鎧を着こなしたガーネットがいる。
俺は白いドレス姿のソーニャにしばらく見惚れいた……。
綺麗だなあ……。
うん?? 見たことない奴が二人いる!
玉座の前に一人は堂々と立っていて、もう一人は平伏していた。
立っているのは、漆黒の鎧を着た美形な白髪の青年だ。もう一人は平伏していて、ガルナルナ国の旗が縫ってある赤いマントを着た細身の男だった。
でも、知っている奴もいた。
あれれ?? それも意外な奴。
羽帽子で顔が見えにくかったけれど……。
なんでこんなところに?!
生徒会長が?!
「あんた猪野間だよな?」
「あら、鬼窪くん。久しぶりね。ちゃんと勉強やってる?」
「その恰好? それに、羽帽子にクシナ要塞の旗が……」
猪野間は学生服である紺色のブレザーを着ていて、クシナ要塞の旗が縫ってある羽帽子を被っていた。
「鬼窪くん! シッ! 静かにして!これからラピス城のソーニャ王女とガルナルナ国の使者とクシナ要塞のクシナ皇帝陛下が、三カ国協議を始めるから。そして、休戦協定を結ぼうとしているのよ」
「あのソーニャが?? 休戦協定を??」
「そうよ……私、思うんだけど。それだけサンポアステイ国っていうところはとても強いんじゃないのかしら」