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途中、森の中で凶悪な顔の黒の骸盗賊団の一人が倒れていた。手には血塗られた斧を持っているが、見るからにかなり深い怪我をしている。腕と胸と腹にかけて矢が数本突き刺さっていて、一本は貫通していた。
虫の息だ。
「大丈夫か?」
俺は、盗賊の腕に刺さった矢の一本をゆっくりと抜いてやった。
「お……お頭……おらぁもう駄目でやす……。この森を突き抜けると……ラピス城に行けやすが……うぐっ!」
「おい! もう、しゃべるな! 酷い傷だぞ!」
俺は見かねて空の木々や枝の隙間へ向かって、叫んだ。
「通小町!!」
「鬼窪! 私に命令するなー! うりゃーー!」
空から激しい光が盗賊の身を包んだ。
すると、見る見るうちにあれほど深かった傷が癒えていく。
「うへえええー。凄いぞ。通小町!」
通小町も貴重な戦力になる。俺はこの時そう思った。性格以外はだけど……。
「う? お頭? 今何をしたんでやすか? 体の痛みがなくなってきやしたでやす」
盗賊は、すっくと何事もなかったかのように起き上がった。
「ああ、仲間に聖女がいるんだ。そいつは凄い回復魔法を使えるんだ。ほら、いや、ここからじゃ見えないか。今、空にいるんだよ」
「そうでやすか……そいつはついてやがる。それではお頭! おらぁ、ラピス城へ戻ってクシナの奴らを血祭りにしてきますぜ」
盗賊は手にした斧を持ち直し、残忍な顔をしてラピス城へと走って行った。
チュンチョンとこんな殺伐とした森でも小鳥が鳴いている。
本当にここグレード・シャインライン国は資源が豊富なんだな。
木々の隙間から零れる夕日の柔い日差しも綺麗だった。
どこかから川のせせらぎも聞こえる。
決心も固くして、俺も橋を守りにラピス城へ再び走った。
「ふふふふふふふ……こんなに豊富な資源があるっていうんなら、いずれは私が王国の……ふふふふふふ」
空からの通小町の声で、彼女の目的がわかった。
そういえば、ブルードラゴンに一緒に乗っているはずのヒッツガル師匠はどうしたのだろう?
その時。
森の遥か向こう。クシナ要塞がある方……ではない。に、大爆発が起こった。
きっと、ヒッツガル師匠だ!
あ、でも。クシナ要塞を食いとめると言ったマルガリータはどうしたのだろう? 無事だといいけど。
今は、わからないことだらけだけど、俺は頭を振って一刻も早くラピス城へ行こうと思った。