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俺は右肩を抑えながら、次々と斬り込んで来る騎士の猛剣戟を躱した。
正直、卵から生まれた騎士の剣戟を躱すだけで、精一杯だった。
だが、騎士に隙が生まれた。
俺は騎士の振り上げた剣を、身を低くして神聖剣の横薙ぎで胴を斬った。騎士が腹を抑えて倒れると、今度は魔法使いが火炎の魔法を撃ち放つ。
火炎は、右足を横にずらして、そのまま横へ転がり込んで躱した。
その次は、槍使いの槍が俺の胸元目掛けて突き進んできたので、神聖剣で槍を払う。
軽いステップで、石階段まで後ずさると、愕然とした。
未だ。巨大な蝿が次々と卵を生んでいる。
卵は無尽蔵に生まれ、祭壇の床が見えなくなるほどだった。
悪臭で鼻が曲がる。
俺は一階へと逃げた。
石階段を必死に駆けていると、倒れたはずの騎士や槍使い。魔法使いに僧侶。格闘家のような上半身裸の男性などが追い掛けてくる。
石階段から這い出た俺は、回れ右して、廊下を走ってなるべく広い場所を探した。
だが……。
その時。
騎士たちと同じく。地下から這い出たシャーマンのような格好の老人が、黒い靄のようなものを右手から放った。
靄は廊下一杯に広がった。
俺は顔をしかめ。
左手で口を抑えた。
けれども、身体中が悲鳴を上げるほどの激痛が走った。
「痛ってーーーー!!」
む、無理だ!!
きっと、口を抑えても身体の皮膚から靄が浸透してきているんだ。
「ぐわっ!!」
「へ??」
その苦痛の言葉は、俺からじゃない。
ハイルンゲルトの声だった。
俺の身体から黒いオーラが溢れ出す。
肉眼で見えるほど、鮮明なハイルンゲルトの亡霊が天高く昇っていってしまった。
「嘘だろ!! 何が起きているんだ!!」
ハイルンゲルトの亡霊は、俺には強引に天に昇ったように思えた。
ま、まさかね……。
そんなことあるのかな??
だとしたら。
今の俺って……。
騎士が間髪入れずに剣を振り回し、俺を追い掛けてきた。
俺は逃げの態勢から、あることに気が付いた。
「う!! ……や、やっぱり!!」
足が遅くなっている。
力も湧いてこない。
神聖剣もとても重い。
ハイルンゲルトから授かれた力は、亡霊となって天に昇ったハイルンゲルトと一緒に、きえてなくなっていたのだ。
俺は普通の学生になっていた。