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5月.家政婦が、見た……?



 ふう、これで完☆璧。

 俺はピカピカになった――というか、俺がやったんだけど――我が自室の共有ルームを見て、爽やかに笑みを零した。前からそこまで汚かったという訳では無いんだけど、ほら、ここに来てもう一ヶ月になる訳だから? 一ヶ月もお世話になったこのお部屋様に恩返しということで。

 ――とまあ、部屋の掃除をした理由を慌てて述べてみたけど、ぶっちゃけ特にこれと言った理由は無い。ただ五月に入ったということで、GW(ゴールデンウィーク)なる行事があったというだけ。五日間に渡る休日をのんびり過ごしているのも勿体無いし、親元へ帰るなんてことをする予定も無い。


「だったら、掃除するしか無いよねっ! って訳です」

「……そう」


 エプロンと三角巾をばっちり装着して、稜先輩に古典的だと苦笑されたはたきを片手に、今さっき帰って来た稜先輩に急に始まった大掃除の理由を説明した俺。


「まあ、良いんだけどな? でもオマエ一人にやらせたの悪ィなーって思ってよ」

「いえ! 俺、掃除好きですから!!」


 声を大にしてそう言えば、稜先輩は今一度、ピカピカになった部屋を見回した。


「料理も出来て掃除も出来んじゃあ……オマエ、良い嫁さんになるな……」

「え、ホントですか! やった!」

「褒ー……めてねぇんだけどな、うん、いや、褒めたのか? ……アレ?」


 やった! 家が家なだけあって、俺はとっとと婿養子に行きたいと思っているものだからそれは嬉しい一言だ!

 言った先輩本人は自分の発言に自信が持てなくなっているようだが、今の俺には一切合切関係ない、というか聞こえていない。元気百倍シズパンマーン!! ――少し自重しよう。

 さあって、この調子でキッチンの掃除も――そう俺が口走った時、先輩が元々鋭い視線を俺に走らせたんだけど、何かを言おうとしたらしい言葉は、部屋に鳴り響いたインターフォンによって遮られた。


「あ、俺出ますね」

「あ、嗚呼」


 一体何を言おうとしたんだろうか、気になっていない訳では無いけど、今はお客さんを待たす方が失礼にあたるだろう。恐らくは稜先輩のお客さんなんだろうが――だって俺友達柾臣くんしか居ないもん――、何となくそうなっている規則に従って、俺は外へ繋がるドアを開けた。



「はーい!」


 なるべく元気良く、をモットーに返事をすれば、開け放ったドアのその向こうに居たのは。


「あ、えと、すみません」


 麗しきも可愛らしい少女であった。

 少女は小さく、本当に小さく頭を垂れれば、ちらりを俺を一瞥した。驚いたような表情で彼女を見ていた俺はすっかり目が合ってしまい何だか気まずいんだけれど、俺は取得していたけれど使う機会が無かったスキル:社交性をフル活用して言葉を紡いだ。


「ええと、どちら様ですか? 稜先ぱ――有哉木先輩のお知り合いの方で?」

「有哉木……! やはりここが……!」

「え、あ、あの?」


 有哉木――あまり聞きなれないその苗字を耳にした瞬間、少女はカッと目を見開いて片手を顎に置いた。……え、何? この子知り合いじゃないの?


「え、あ、すみません、アナタ様はこのお部屋の家政婦様か何かでしょうか?」

「俺ですか? や、違います、普通にこの部屋の人です」


 そういえばそうだった、俺家政婦みたいな格好してたんだった。こ、こんな格好でお客様を迎えてしまったなんて俺としたことが! 今思えば結構恥ずかしい!!

 慌ててエプロンと三角巾を外していれば「ということは、有哉木がアナタ様にそのような家政婦染みたことをやらせて……!」なんてことを口走ったものだからちゃんと否定をしようと――したんだけどね。


「家政婦様、御免!」

「へ? いや、だから俺は家政婦じゃなくて――ちょっと君!!」


 決意を秘めたようにぐん、と視線を上げた少女――と言っても年齢俺と変わらそうだけど――はそれだけ言って俺の横をすり抜け部屋へ侵入した。……ちょ、ちょっと靴脱いで!!


「有哉木稜! 貴様がここに居るのは分かっている! 抵抗せずに出てくるが良い!」

「ちょ、ちょっと君!?」

「あ? 誰だったんだよ静――だあッ!!」


 先輩は、丁度冷蔵庫から清涼飲料水を取り出しているところだった。何時だって眠そうなその表情をこちらに向ければ、あからさま目を見開いている。どうやらこの少女は歴とした先輩の知り合いだったらしい。

 当の少女はというと、きょろきょろと部屋を見回しては「なんという清潔な環境……!」と驚いていた。へへっ、凄いだろ、これ俺がやったんだぜ。自慢したかったがここで話をややこしくするのはどうかと思ったので黙っておくことにした。


「お、ま、何で魅剣に居んだよ!」

「ふんっ、愚問だな。今年からここの生徒となったからに決まっておろう!」


 稜先輩は飲み物片手に空いた手で少女を指差し、少女は腕を組んでそう吐き捨てる。何か変わった口調の子だなぁ……。


「オマエの頭で入れる程魅剣甘くねぇだろうが!」

「ぐっ……う、五月蝿い! 私は推薦コースだから良いんだッ!」


 うん、どうやら仲は良いようだ。

 すっかり蚊帳の外に追いやられてしまった俺は、仕方がないのでソファに座っておくことにする。この騒ぎ、何時終わるんだろうなぁ。




「――でも、柾臣は特進で入った」



 とか。

 ……アレ? 今知ってる名前が出てきた……? 座ったソファの後ろで繰り広げられてる会話に視線を向けてみたら、ちょうど真剣な表情で固まっている先輩が目に入った。


「……嘘だろ?」

「本当だ、この部屋も柾臣に聞いて知った。貴様だという保証は無かったが――そこの家政婦様に聞いたのでは?」

「……静流、本当か」

「え!?」


 驚いていた先輩の視線が俺に向いた、って、ていうか怖ぇ! 疑問符になってない疑問とか超怖ぇ! な、な、何か俺、悪いことしたのかな……。


「え、えと、ま、柾臣くん……には、稜先輩の話は特に……」

「本当か」

「はい! な、名前なら、多分言った、かも、しれま、せん」


 沈。

 怖い、とにかく怖い、少し前とは違った意味で涙腺が崩壊しかけた時、「そうか、分かった」と、先輩が笑った。おおおおおおおおおおお、こおおおおおおわかったあああああああ!!!!!!


「名前だけで見つけてくるとか、オマエ等何なんだよ……」

「ざまあみろだ」

「俺が、何の為に、ここ……に――ッ!」



 先輩の何時もの笑顔を見てすっかり安心し切っていた俺は、とりあえず崩壊しかけた涙腺に防波堤を張ることに必死だった訳だけど。


「なっ、――お兄ちゃん!?」


 少女の方の発したその言葉に再び気が向いて振り向いてみたら。




 ――苦しそうな、膝から崩れ落ちたであろう稜先輩がそこに居た。






「せ、先輩!?」


 な、何!? 何があったの!? 俺は何が起こってるんだが全然意味が分からなくてとりあえず少女同様に先輩に駆け寄ってみるけど、先輩は「何でも無ぇよ、何でも」だなんてあからさまな嘘を吐くだけだった。どう見ても苦しそうなのにそんなことを言うんだから、ええと、本当にどうしよう。


「……おい、兄上」

「オマエは……本当にころっころ呼び方が――」

「そんなことはどうでも良い!! 貴様、まさかルームメイトである家政婦様に言ってないのか!?」


 ……うん?

 苦しそうではあるが本当にそうでも無かったのか、稜先輩は立ち上がって歩き出す。息が荒い気もするんだけど、……俺の気の所為だったら良いな。


「お、おい! 何処へ行く! 未だ話は――」

「悪ィ静流、ソイツ、俺の妹なんだわ。……適当に持て成しておいてくれ」

「は、はい」

「兄上!!」



 ばたん。

 きっとそれは、先輩の部屋の扉が閉まった音。俺は結局最後まで何が何だか分からないまま、ただただ先輩の後ろ姿を見ているだけだった。本当に一体何があったんだろう、ていうか柾臣くんの名前も出て来たし、……ええと。


 今はとりあえず、



「あの、お茶出しますんで――靴、脱ぎません?」



 部屋の中だから、ね。






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