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4月.初めての環境、初めての友達。




 俺が通うこととなった此処――雅-魅剣学園は、都心からは少し離れた場所にある高校である。だからこそ全寮制、だなんて場所取るシステムを取れるのだろうと俺は思った。

 学校そのものは他の私立とは何等変わりない――といっても私立校自体充分広いしな――し、寮だって広いといえば広いけど、少しお高い偏差値の学校ならば別におかしくはない広さだと思う。要するに、この学校の凄いところは他にあるのだ。……ぶっちゃけそんなに溜めて言うことでもないんだけれどな、考えれば直ぐに分かる。


 ――そう、学費の安さ。

 詳しい金額はよく知らないけど、他の私立校と比べてしまえば雲泥の差、都心から離れているだなんてリスクは全然無くて、今時よくあるお受験競争の指定校としても有名なのだ。

 ちなみにこの俺、梁瀬静流はそんな有名校に指定校推薦を頂きました。ふっ、頭脳の明晰さを自慢してやったぜ。――友達が出来なくて勉強しかやることが無かった、なんてことは断じて無い。……無いからな!!


 とにかく、これから通う雅-魅剣学園――魅剣学園と称される訳で――のことは、施設が充実している高校――くらいに思っていれば良いと思う……うん。



「次、梁瀬!」

「え――あ、はい!」


 教室の一角、梁瀬という苗字から窓際ど真ん中をゲットした俺の耳に飛び込んできたのは、清々しく響く担任教師の声。格好良い、のかどうかはよく分からないけど、それなりに若い眼鏡の男性教師が俺に視線を向けている。

 そうか、今は自己紹介タイムだった。今までそういうイベントで名前を名乗ることすら億劫だった俺としては、今初めて開放感に満たされている。名前を名乗れることが嬉しいって初めて知ったぞ!



「梁瀬静流です、部活とかはまだ決めてないんですが、これから皆と楽しくやっていけたら良いなって思ってます」


 嗚呼、皆の視線が俺を捕らえている。アレは興味の視線だ、決して今までのような、義務的意味を込めた視線ではない……! 特に真ん中の列の一番後ろの君! 俺を見ていないじゃないか! 良いぞそのカンジ! お前に興味ねぇしー、みたいなソレ!!(※感受性が少しイカれていますが正常です)

 立ち上がっての自己紹介を終えれば、小さいながら拍手が鳴る。やべぇ、このとりあえずしとけ、みたいな拍手が心地良い!! 俺が何かすれば鳴るあの大喝采みたいな拍手じゃないことに感激を覚えてるぞ俺!(※精神的も少しイカれていますが正常です)


 そしてなんやかんや考えている間に自己紹介タイムが無事に終わって、数分の自由時間がやって来た。この高校って遠方から来た人も多いから友達作りが大変みたいだ、直ぐ様近くの人に声をかけるクラスメートの姿を見てそう思うけれど――俺はどうしよう? ていうかぶっちゃけ、今まで友達居たことなんて稀だし? そんなもん忘れちゃいましたよ、ええ。

 ……どうしよ。



「やーなーせ!」


 そんな時であります、背後から肩を叩かれました。

 本気でびっくりして後ろに振り返りつつその手を掴もうとしたら、その手を綺麗に掴み損ねて叩き落として、机と椅子の狭間に突き落としました。

 その時その腕がグキッて言いました、これぞ梃子の原理ー、――じゃなくて!!


「わー! ご、ごめんごめん!!」

「い、痛ったぁ……お前勢いつき過ぎや……こっちがフレンドリーに話しかけたんが馬鹿みたいやんか……」


 反時計回りに振り返った俺の後ろに居たのは、普通に俺の後ろの席の人でした。机にうなだれているけど多分そう、うん、多分。確か名前は……――


「ごっ、ごめんね――横谷君」


 だった気がする。


「へーきへーき、少し痛かっただけや、そんな心配しなくてええて」


 合ってた、良かった。

 横谷君はさっき俺が突き落とした方とは逆の手――要するに右手をヒラヒラと振れば、にこやかな笑みを俺に向けてくれた。うああ……良い人や……! ……俺は感化されやすかった。



「んじゃ改めて。こうやって同いクラスになったんも何かの縁、せやからお互い仲良くしよな?」

「う、うん、ありがとう、宜しくね、横谷君」

「阿呆、仲良うしよなーっつってんに、苗字で呼ぶ奴が居るかい」


 名前でええよ、横谷君は呆れ顔から一転して再び笑顔で言ってくれた。よ、横谷君を名前で……? そんな、良いのかな、俺なんかが呼んでしまって……!


「じゃ、じゃあ……――柾臣くん?」

「おう、上出来や静流!」


 ぐふはぁっ!! 名前で呼ばれた!! 超嬉しい……!!!!


 しかしこんなことで悦っていては只の変人だと思われてしまう。俺はあくまでその感情を外に出さぬよう心掛けた。普通に笑えてるよな、俺……?


「中学の知り合いとか、あんまし居ィへんくてなぁ……。静流は誰か居るん?」


 変な笑い方をしていなかったようで何より。柾臣くんはだるっだると言わんばかりにべちょん、と机に伏せながら俺を見た。


「え、ううん、全然。此処受験したの俺だけだし、だから友達も誰も居ないんだよね」


 っていうか何処行ったって俺に友達なんて居ないけどね! ちっきしょー!


「そかそか、まあ魅剣やもんなあ、競争率半端無いし」

「あははっ、そうだね」

「……」


 ……ん? どうしたんだろう柾臣くん、急に黙り込んじゃった。俺の顔に何か付いている、とでも言うのかじっと俺を見遣る柾臣くん。……まさか、何かヘマったか……?


「ま、柾臣くん? どうかした?」

「――……ん? あ、嗚呼、何でもあらへんよ、気にせんといて」


 けれど彼、柾臣くんは俺にへらり、と笑顔を向けてくれれば右手を舞わせてそう言った。気にするなと言われたからには気にしないけど、気にならないと言えば嘘になるかな。


 その後も暫し柾臣くんと適当な話で盛り上がって、本日の学校は終業を迎えた。初日だからね、こんなもんだろ。もう少しくらい柾臣くんと喋っていたかったなー、とは思ってたけど、この後はこれから住むことになる寮の自室に行かなければならない。明日から学校だし、早めに行って早めにあの段ボールの山を整理しなければ。


「それじゃ静流、また明日なー」

「うん、じゃあね柾臣くん!」


 そういうことで柾臣くんも忙しいだろうから、ぞろぞろと寮に帰る生徒の波に紛れるようにして俺達は別れた。


 高校で初めて、そして久しぶりに出来た友達――横谷柾臣くん。出だしは順調だ! だなんて浮かれた気持ちを隠さずに、俺は足取り軽く自室へと向かうのだった。








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