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序章.彼の名前は梁瀬静流。


「――……、」


 俺は某私立高校の校門前に立っていた。ぞろぞろと流れるようにそこに吸い込まれる人々の波の中一人だけ堂々と立ち尽くし、校舎を見つめる俺。きっと浮いているだろう事実からは目を逸らしている、だから言わないでくれ。




 ――今日此処から、俺の人生が始まるんだから。






 保育園児だった頃。


「しーくん、おかーさんにしーくんとおえかきしたお話をしたら、しずるくんには絶対ごめーわくかけちゃだめよって言われたのー」


 どうしてかな? 俺を見て、同じ保育園の友達は首を傾げた。その話を横で聞いていた保育園の先生は、


「そんなことは無いのよ? しずるくんだけが特別な訳じゃないの。先生にとってはみーんなが特別よっ!」


 そう言ってニコリと笑った。小柄で優しくて、皆から好かれる先生だった。

 けれど、そう聞いた次の日に悪ふざけをして階段から落ちた俺と友達を見て、


「しっしずるくん……!? どうしよう……しずるくんに何かあったら私、クビになっちゃう……!!」


 友達のことを気にせずにそう言ったのを聞いて嫌いになった。




 小学生になって。


 授業参観日の時に、


「梁瀬ー! お前授業中寝てただろー?」


 と言ってきた友達に対して、そのお母さんがニコニコと俺達を見ていた。

 けれど。


「梁瀬君に何言ってるの!! 失礼なこと言わないのって何時も言ってるでしょ!? 後で御家族から何か言われたら――!!」


 その友達がそう怒られているのを見た。それから余り話さなくなったのを覚えている。




 中学生になって。


「梁瀬君、おはようございます」


「梁瀬君、おはようございます、今日も良い天気ですね」


 もはや誰も俺に近付く者は居なかった。近付く者といえばただ金目当ての腐れた輩のみ、後は同級生からの敬語の嵐だ。宿題を忘れた時だって、


「何時提出してくれても構わないですよっ! い、急がないで良いですから!!」


 そう担当教師に言われたことは数えられる程ではない。教師にまで敬語を使われた長い三年間。



 俺の武勇伝は他にもあるが、それを今語るには時間が少な過ぎる。

 第一、それを説明するなればきっとたった一言で済むだろう。


 父親は某有名大学卒業後に設立した会社――今では大手IT企業の一角を担うそれ、梁瀬財閥のやり手社長。

 母親はその父親と共に会社を支えるやり手女秘書。



 そしてそんなやり手二人の間に生まれた息子こそがこの俺、――梁瀬静流その人であるからして。



 ひとつ怪我をすれば母親が大袈裟に事を荒立て、その幼稚園の先生の人生ごとぶち壊しそうになった。

 ひとつ俺が友達との悪ふざけした話をすれば、お宅の子の所為でうちの子が汚れた事をした、だの言って。


 人生の敗北、というものを知らない両親二人は何時だって傲慢で高飛車で、それでいて常識ってもんが抜けてるからタチが悪い。裕福な思いはしてきたが、楽しいと思えたことは数少ない。両親を恨むつもりはないけれど、そういう生活にはもう懲り懲りだ。






 ――だからこそ。俺は今日ようやく、そんな生活からおさらばするんだ。

 高校に進学するにつれて俺が選んだ高校は、自宅から二県も離れた場所に存在する全寮制の高校。リムジンやらロールスロイスやらが出入りするどでかい門があるとか、玄関に入ってすぐのリビングに豪勢なシャンデリアがあるとか、中庭のみで野球出来んじゃねぇかとか、使用人居過ぎじゃねぇかとか、そんなことを思わなくても考えなくても良いように。

 ――自由が無いとか楽しくないとか生きてる心地がしないとか!!


 世間から贅沢と罵られようとも、両親に全力で反対されようとも、俺は今日この時から自由を手に入れるんだっ!! 家との絶対疎遠――それが俺の選んだ方法だった。






 では冒頭に戻ろう。


 俺は大地を踏み締めて、その流れに流されるように校門をくぐった。

 一学年の総計は千人を越えているこの高校、そんな中で俺が見つけられるなんてことがあるはずもない、梁瀬という苗字も一人ではないしな。



 俺は梁瀬静流、梁瀬グループ御曹子梁瀬静流ではなく、ただの一高校生、梁瀬静流だ。


 今日から始まる明るい人生に心を踊らせながら、俺は力強く歩み続けた。





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