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7.霊の性質についてです

「では、全ての霊を去らせるには一体一体の未練を解決しないといけないの?」

「それも無意味。お前はどうやら、霊を引きつけやすい体質らしい。祓った端から新しいのが憑いてくるから、周りから霊が消えることはない」

「そんなことを気楽に言わないでくださいな……。体質ってなんですの?」

「そのままだよ。霊は生前に関わるものにしか憑けないのは、さっきも説明したよな。つまり移動の自由がない。物や場所に憑いた霊は特にな。人に憑いても事情は同じで、その人に着いていくしかない。そして一度霊となってなにかに取り憑くと、憑依先を変えるのは不可能」

「つまり、あの世に帰るしかできないということ?」

「それも無理」


 ばっさりと言い切った。


「人が死んだ時に葬式をわざわざ開くのは、そうしないと冥界に行く道が開けないからだ。あそこまで大袈裟にやらなくてもいいけど、弔いの言葉とお供えがなければ死者は冥界に行けない」

「お供えって?」

「死者に手向けるもの。葬式や墓参りにお供えするものをイメージすればいい。花、酒、故人の好きだったもの。それから塩」


 塩については覚えがある。ファラちゃんにやってたやつだ。それに。


「さっき、私にぶちまけた物ですわね」

「そうそう。霊が一瞬だけ離れただろ?」

「すぐに戻ってきましたけれど」

「よほど未練があるらしい」

「あなたの祓う力が弱かったからではなくて? 弔いの言葉? 言ってたことも、いいかげんでしたし」

「ははっ! かもなー。俺、神父じゃないし。それにファラは帰っていっただろ?」


 悪びれる様子もなかった。


 まあいい。彼の話を聞くに霊とは。


「つまり、霊はこの世ではなにもできないってこと?」

「そう。そして霊にとっては、この世に存在することは苦しみを伴う。どうやら、息苦しいらしいんだ。ずっと水の中にいて窒息しているような感覚らしい」

「えぇ……」


 絶句してしまった。それはちょっと想像がつかない苦しみだ。


 それを、さっきまで小さな女の子の霊が感じていた。少し心を痛めたのだけど。


「気にするな。霊が自分で選んだ道だ。普段は霊が見えないお前がどうこうできることじゃない」

「そうは言いましても」


 慰めてくれているのは察せられる。けど、割り切れない。


「さっきのような、小さな女の子の霊が他にもいるのですか?」

「さあ。霊ひとりひとりの素性は俺にもわからない。わかるのは存在と大体の数だけ」

「使えない目ですわね」

「本当になー」


 彼はまた、ケラケラと笑った。


「でもいいじゃねえか。一体は救えた。たぶん、他もいつかは救う機会もあるだろう。未練を晴らしてやればいい」


 呑気なこと。


 いや、それより大事なことが。


「どうして私の周りには、あんなにも霊がいたの? 私にまつわる未練がある死者など、あまりいないはずですわ」

「そうだな。さっきのファラちゃんのことも、お前の知人じゃないよな」


 そのとおり。私はしっかり頷いた。


「霊は取り憑く対象を変更できない。けど例外があったらしい。それがお前だ」

「例外?」

「なんでそうなったかは知らない。霊を引き寄せやすい体質みたいなものかもな。とにかくお前の体は、他の物に取り憑いた霊が移動できる唯一の対象らしい」

「なんでそんなことに」

「知らない。けど、動きようがない物に取り憑いた霊にとっては、まだ動いてくれるお前の方が魅力的に思えたんだろうな。あと、どうやらお前に憑くと、霊はちょっと楽になるらしい。さっきからお前の周りを楽しそうに飛び回ってる。今まで見てきた霊にはありえない動きだ。息苦しさが緩和されてるのかもな」

「つまり?」

「霊たちにとって、お前は格好の憑依先。物語で読んだことあるか? 砂漠を彷徨う旅人が見つけたオアシスのありがたさを」


 誰がオアシスだ。


「楽に時間を過ごしながら、なんとか未練を果たすことはできないかと万に一つの機会を待つ。そんな使われ方をしてるんだよ、お前は」

「冗談じゃないわよ!」


 ああ。たとえクソガキ相手でも気品をと、令嬢っぽい口調を心がけてたけど素に戻ってしまった。いや、それどころじゃない。


「なんとかならないの!? 私、ずっと周りに霊が飛び回ってる状態なの!?」

「いいだろ別に。何もしなければ見えないだけだし」


 確かにピンクの粉が漂ってない今は、奴らの姿は見えない。でも、だったら良いって話じゃない。


「それに、実害もない。霊はこの世界に干渉することはできない。よく、幽霊屋敷では食器がカチャカチャ鳴る音がすると言うけど、あれは嘘だ」

「つまり、霊がなにか悪さすることはないってこと? いるだけ? 何もしない?」

「あー。一個だけ例外があって……お前を転ばせる」

「……は?」

「俺も驚いたな。霊も百体くらい集まれば、細身の女を押して転ばせるくらいのことができるんだな」

「誰が貧相な体よ!」

「痛っ!?」


 瞬間、私の手がレオンの背中を思いっきり叩いていた。バシンと大きな音が夜の通りに響く。


「なにすんだよ! 別に貧相とは言ってないだろ! すらっとしてて綺麗な体だって言ったんだよ! デブって言われた方が嬉しかったのか!?」

「え、あ。これは失礼しました……痛かった?」

「子供扱いするな」

「子供のくせに。十二歳とかでしょう」

「そうだけど」


 やっぱり。

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