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61.マーガレットとのお別れ

 あのプライドだけは高かった男がこうなるのか。もう、私たちに関わろうとは思わないだろう。

 アーキンの横っ腹を、思いっきり蹴り上げたところ、くぐもった悲鳴が上がった。


「マーガレットはどうする。蹴る?」


 彼女はゆっくりと首を横に振って否定した。

 マーガレットの死は、このクソ王子とは無関係だ。復讐は、さっきアシェリーを落とした時に完遂した。あとはお祈りをして冥界に行くだけ。


 ここでお別れは寂しいな。


「じゃ、教会へ戻りましょう」


 言いながら、私はレオンの手を握る。


「……なんだよ」

「なんとなく握ってみたくなって」

「血で汚れてる」

「レオンが頑張ってくれた証拠でしょ?」

「…………」

「よく頑張ったわね。偉い偉い。けど、次からは何をするつもりか、あらかじめ言ってほしいな。追い詰められた時、かなり怖かったんだから」

「……ごめん。怖がらせて。霊を目くらましにするって言ったら、やっぱり嫌がるかもって」

「たしかにね。でも、さっきは頼もしかったな。それに、レオンも私のこと、頼りにしてるってわかって嬉しい」

「うるさい」


 俺たちなら勝てる、か。私の体質と霊の力でレオンは男たちを倒した。

 復讐に、私をちゃんと参加させてくれていた。


 レオンはちょっと照れたように、そっぽを向いてしまったけど。こういう所はかわいいのにな。


 それからもうひとつ。


「ところで、さっき私が転びかけた時、レオンは支えてくれたわよね?」

「……そうだっけ? ほら、急いで走らないといけなかったから。人通りのない所まで誘わなきゃいけないから」

「そっか。でもありがとう。あの時のレオン、ちょっと格好よかった」

「そうか?」

「そうよ。だからできれば、これからも支えてほしいなって。転ぶ前にね」

「……考えておく」


 お、意外にも否定しなかった。

 感謝されるのって、レオンにとっても嬉しかったのかな。


「レオンのくせにかわいいじゃん!」

「あ! おい! なにするんだよ!」


 歩きながらレオンの体を抱き寄せて頭を撫で回す。相手は子供だから普通の仕草だ。

 レオンは顔を赤くしながら抗議したけど、それもかわいかった。


「ふふっ」

「え? マーガレット?」

「…………」


 背後からついてきているマーガレットから、少し笑ったような声がした。気がした。


 気のせいだろうな。死体は喋らない。笑いもしない。

 でも、マーガレット自身はきっと、私たちを見て幸せだと思ってくれてる確信もあった。



 教会には既に、みんな戻ってきていた。


 リリアによれば、ドライセン家のお取り潰しはほぼ確実とのこと。今夜突然起こった家族への不幸から、取り調べは一日延期になったけど、ドライセンの当主はむしろ真実を早く明かしたいと考えているそうだ。

 魔道具の剣は、既にラングドルフに回収された。現物を確認してから、再び厳重に保管されるという。


 ドライセンに怪我を負わせて、呪いの恐怖から素直にさせたユーファも、少し誇らしげな表情を見せていた。

 普段あまり表情を変えないことを考えると、かなり喜んでいるのだろう。


 リリア自身は仕事先の屋敷ではなく、教会に戻ってきた。伯爵様からは、旅で疲れてるだろうから屋敷で休みなさいと言われたそうだけど。


「皆様と顔を合わせないわけにはいきませんから! それにマーガレット様とも! なので、協力頂いた神父様たちと話すことがあるからと、戻ってきました!」

「そう……嬉しいわ、リリア」


 そうだな。リリアも、マーガレットと最後の時を過ごしたいよな。



 未練の晴れたマーガレットは、あとは冥界に行くだけ。

 王都で会った老紳士と同じ。今度は私がお別れをしないといけない。


「マーガレット様! こうしてあなたを直接見送ることができること、光栄に思います! 後のことは心配なさらないでください! あなたの最後はご立派なものでした! 生涯忘れることはないでしょう!」


 リリアがマーガレットの手を取り語りかけると、マーガレットの方から抱擁を交わしてきた。

 元気すぎてうるさいメイドと、何一つ言えない死体。バランスは取れてるかな。心は確かに通じ合ってるようだし。


 次は私の番だけど。


「えーっと……マーガレット、元気だった……わけないか。ええっと、えっと、何話せばいいのか、全然わからなくて」


 マーガレットの死は悲しい。死の間際、私を信じてくれてたことは嬉しい。死後もずっと私のそばにいてくれたこと、心強い。

 けど、いざ何を伝えればいいかなんて全然わからなかった。学校にいた頃は、何も考えずに馬鹿な話をいくらでもできたのに。いつもマーガレットがドジな私をからかって。私もそれを受け入れて笑って。


 ああ、そうか。


 私からじゃない。マーガレットの方からも、言いたいことがあるはずなんだ。

 けど、彼女は口が聞けない。だから私が引き出さないと。


「あのね。私、マーガレットのために頑張ったの。何もできてないかもしれないけど。周りに助けられてばかりだし、役に立ったのは私じゃなくて特殊な体質なだけかもしれないけど。でも私も、頑張った! ……褒めて、くれる?」


 体温の失われた冷たい手が、私を撫でた。

 冷たいはずなのに、なぜか温かく感じた。


「ううっ! マーガレットー!」

「…………」


 泣きじゃくる私を、マーガレットは抱きしめてずっと頭を撫で続けてくれた。

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