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59.レオンの勝ち方

「逃げ場はないぞ。大人しく屋敷へ戻って、ドライセンさんの前で懺悔しろ。アシェリーを殺したのは自分だと。その死体をなにかの細工で動かして街を混乱させたのも、自分だと。まあその前に……」


 アーキンは、仮にも王族だとは思えない卑下た笑みを見せた。


「このまま官吏に引き渡す前に、俺の恨みを晴らさせてもらわないとな。俺の宮中での評判を不当に貶めた悪党め」


 彼は、私を舐めるように見つめていた。


「信じられないくらい貧相な体だが、顔はいい。楽しませてくれよな」


 周りの男たちも、剣を抜いてこちらに下品な笑いを浴びせかける。


 もしかして、まずい状況なのでは?

 けど、レオンは相変わらず余裕綽々な様子で。


「王族ってのは、どうしてこう考えが卑しいものかな」


 子供ながらよく通るよう声を上げながら、私を庇うように前に出た。その手はローブの中に突っ込んでいる。

 中でナイフを握ってるのだろう。でも、武装した年上の男を複数相手して勝てるものだろうか。


 アーキンたちも勝ちを確信しているのだろう。この、態度の大きい庶民の子供が何者かは知らないが、軽くあしらえると余裕の表情を崩さない。

 そんなレオンに馬鹿にされ、怒りの表情を見せた。しかし本人は気にする様子もない。


「なあ、アーキンだっけか。あんたが偉そうな振る舞いをできるのは、なんでだ?」

「は?」

「親が偉い、以外の理由を言え。まともな理由を言えたら許してやってもいい」

「知るか! 舐めたことを! おい、お前たち!」


 アーキンが仲間に指示を出すのと、レオンがローブの中から手を抜くのは同時だった。


 レオンが持っていたのはナイフではなく、ピンク色の粉末が入った瓶。ローブの中で既に蓋を開けていたらしいそれを振れば、息を吹きかけるまでもなく周囲に拡散していき。

 瞬間、周囲が闇に包まれた。


 私はその理由を知っている。マーガレットも最近までそこに含まれていたから、わかるだろう。

 レオンは普段から霊たちが見えている。そして霊たちは、レオンの視界を塞がないように常に意識していた。今も同じ。


 アーキンたちだけが、急に視力を奪われたことに戸惑っていた。


「おい! なにがあった!?」

「何も見えない! どうなってるんだ!?」

「アーキンどうすれごはっ!?」


 混乱する手下が、指示を仰いでいる途中で殴られたらしい。


 霊たちが気を利かせて、私の前からもどいてくれた。レオンが敵のひとりに接近して、思いっきり腹部をぶん殴ったのが見えた。

 彼は剣を取り落として、腹を押さえてうずくまった。敵がすぐ近くにいるのに武器を手放した彼にレオンは容赦なく追撃として、顔面を蹴り上げた。


「おごっ」


 そんなくぐもった声と共に、男はひっくり返って後頭部を石畳にぶつけて悶絶している。


 アーキンも他の男たちも、相変わらず視界を塞がれていて状況がわかっていない。霊たちが敵の視界だけを奪うよう、それぞれの顔の周りに集合していったから、私も周囲の状況がよく見えるようになった。


 レオンはさらに、別の敵へと肉薄しながらローブから取り出したナイフで切りつけた。敵の、剣を持った腕にざっくりと切り傷が作られる。

 ぎゃあと悲鳴が聞こえて、そいつは剣を手放してしまった。その時には既に、レオンは次の敵に迫っていた。


「畜生! なんだよこいつ!?」


 男のひとりが、レオンが暴れていることだけは察して、周りをキョロキョロ見回しながら剣を振り回していた。

 どれだけ動いても視界は晴れないし、剣もめちゃくちゃに振ってるだけで相手を攻撃できる感じではなかった。けど。


「ごっ!?」


 振り回してる途中で別の男の頭部に剣が当たった。持ち主の方が素人なものだから、刃が当たったわけではない。けど鉄の棒で殴られるのは相当に痛いだろうな。彼はそのまま地面に伏すことになった。

 仲間を倒してしまった男にも相応の報いが来た。レオンによって腕を切り裂かれた上に、背後に回られて背中も切られた。


 剣を持った敵はあとひとり。彼も視界を塞がれてる以上はレオンの敵ではなく、仲間と同じように腕に深い切り傷をつけられた上に顎をすくい上げるように殴られて昏倒した。


「みんな。こいつらに見えるようにしてやってくれ」


 レオンが霊に語りかければ、彼らは一斉に従った。黒い靄が、一斉に私の後ろに隠れた。


 男たちは自分の腕から血が流れるのを見て悲鳴を上げた。戦いに憧れはしても、自分が傷を負って痛みを味わうことを想像もしていなかった哀れな者たち。

 わけがわからないうちに、見下していた子供にやられた屈辱よりも、流した傷から命の危機を連想して恐怖に慄く感情の方が強いらしい。


「おい。お前ら」


 レオンが地面を踏み鳴らしながら声をかければ、彼らはびくりと身を震わせた。


「お前たちは酔った勢いで互いに喧嘩した結果で傷を負った。公爵令嬢ルイーザ・ジルベットはその傷とは関係ない。そうだな?」


 作り話をレオンは言い聞かせた。手にしたナイフを見せつけながらだ。


「もし本当のことを誰かに告げると言うなら、今度は殺す。わかったか?」


 男たちは怯えながら、猛烈な勢いで頷いた。


「わかればいい。さっさと失せろ。酒場で飲み直すといい。喧嘩した経緯は忘れたって言えるくらいに酔い潰れろ」


 逃げることを許された途端に、彼らは我先にと走り出した。


「おい! お前たち! ちっ……」

「お前は逃げるな」


 自分もと踵を返したアーキンの背中にレオンは肉薄し、飛び蹴りを食らわせた。アーキンはたまらず転倒。


 なおも這って逃げようとする彼を、レオンは体重をかけて踏みしめた。

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