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58.レオンのことは信じるけれど

 庶民の服に身を包んで髪を切ってきても、彼は私を認識していた。当然か。望んでいなかったけど、彼とは学生時代は仲良くしていた。見慣れていた。


「アシェリーを突き落としたのはお前か!?」


 そう問われて、私は足を止めた。


 アシェリーが落ちたことを誰かから聞いて、急いで向かおうとして私を見つけたのか。それとも愛しい婚約者の悲鳴を聞いた時点で、部屋に駆けつけていたのかな。

 けど、重要なのはそこではなく。


「マーガレットに続いて、アシェリーまで殺したのか!?」

「マーガレットを殺したのは私じゃない! アシェリーよ!」


 未だに私が悪いと信じ込んでいる愚かさ。私が親友を殺したと周りに言っているらしいアーキンを、許せなかった。


「マーガレット本人から聞いたわ! 彼女を殺したのはアシェリーだって! ねえマーガレット、そうでしょ!?」


 アーキンは、私のそばにいる女が何者かまではわからなかったらしい。自分の方を向いてから初めて、死者がそこにいると認識した。


「なっ……なぜマーガレットが……お前がやったのか、ルイーザ!?」


 噂の動く死体を目の当たりにして驚きつつ、なおも私を責めようとする。

 まあ、これに関しては本当に私たちが悪いのだけど。


「放っておけ。行くぞ」


 レオンがずっと握ったままの手を引きながら言う。


 でもそうはいかない。あの男には、確かに罪はない。魔道具の流出にもマーガレットの死にも関わりはない。アシェリーに利用されただけの愚かな男。

 けど、私やマーガレットを侮辱したことを許したくはない。


「わかってる。だから、あいつを屋敷から引き離す」


 私を見つめながら、レオンはなおも手を引っ張る。


「あいつにも、ふさわしい罰を下す。だからここは逃げよう」

「でも」

「信じてくれ」

「…………」


 さっきレオンは、私の演技を信じてくれた。

 レオンは生意気だけど、いつも私のために動いてくれている。


「わかったわよ。そんなの、信じるに決まってるでしょ。マーガレット行くわよ」

「おい! 待て! 誰か! アシェリーを殺した奴らがいる! 来てくれ!」


 屋敷の裏口に向かっていく私たちを見て、アーキンは足早に階段を駆け下りた。と思えば、まっすぐに追跡するのではなく、使用人のいそうな箇所に一旦走っていった。


「女ふたりに子供がひとり。それでも、大の大人がひとりで相手する自信はないんだな。味方を連れてこないと反撃されて痛い目に遭うと思ってる。臆病な奴だ」


 悠々と裏口から出ながら、レオンは嘲り笑いと共に言った。そのまま屋敷の裏の通りを歩き、より庶民の家が建ち並ぶ方向へと早足で向かう。


「いやいや。あいつ、味方を引き連れて来るってことでしょ? 危なくないの?」


 さっきアシェリーがやられたように、今度は私たちに暴力を振るおうと奴は考えているはず。かなりまずい状況ではなかろうか。


「大丈夫だよ。引き連れてくる使用人はアーキンの味方じゃない」

「ほ、本当に大丈夫なの?」

「信じてくれ」

「信じるけど!」

「いたぞ! あそこだ!」


 ああ、アーキンの声が聞こえてしまった。それから、追いかけるように走る音。足音から察するに、結構な大人数がいるらしい。

 ちらりと振り返ると、アーキンが引き連れていたのは素行のあまりよろしくなさそうな男性が五人。それぞれ帯剣していた。


「あれ! 王子の護衛! 街で飲んでたんじゃなかったの!?」

「ちょうど帰ってきたんだろうな。ほら、よく見たら顔が赤い。アーキンは動きが遅い使用人より、まだ自分の言いなりになるあいつらを連れてきた」

「呑気に分析してる場合!?」


 確実に向こうの方が強い。捕まったら何されるかわからない。


「もう少し人通りの少ない、細い路地裏に行きたいな」

「いやいや! こうなったら人目の多い所に行くべきでしょ!」


 そうなればあいつらも、容易に手出しできなくなる。少なくとも乱暴はしてこない。


「人目につけばマーガレットの扱いが難しくなる。最悪、俺の能力が大勢の人に知れる」

「それはまずいわよね! でもどうするのよ!?」

「俺と一緒に来てくれ! 走るぞ!」

「ちょっと!?」


 手を引き、駆け出した。マーガレットもすぐについてくる。

 アーキンたちも、逃さないぞとか後悔させてやるとか物騒なことを言いながら追いかけてきた。


 あの時と同じだ。理不尽に追いかけられている。


 さすがにドレスよりは動きやすい服装だけど、私は走るのに慣れてない。たぶん、すぐに疲れ切ってしまうだろう。

 それに。


「あっ……」


 恐れていたことが起こった。なにかの未練に沿ったものかもしれないし、単に疲れた私がよろけただけなのかも。

 とにかく、私はバランスを崩して転びかけて。


「大丈夫だよ。俺がいるから」


 ずっと握っていたレオンの手が離れて、直後に私の腰に腕を回して支えてくれた。

 そのまま、私はレオンに促されるまま走った。そう長くはない。私よりも追手の方が足が早いから。

 それに、路地の行き止まりにたどり着いてしまったし。


「ここまでのようだな、ルイーザ!」


 勝ち誇った様子のアーキンの声が背後から聞こえた。

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