表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/63

56.少しは私も頼りなさい

 とにかく執事は、突如三本の矢がドライセン家の当主を襲ったことを不思議そうに説明した。エドガーにとっては、矢の数以外は知ったことではあるが、初めて聞く話に対して驚く素振りを見せる。


「なるほど。私に、襲撃者の心当たりがあります」

「本当ですか?」

「はい。ここ数日街に広まっている噂と関連があります。襲われた方にお会いしても? もしかすると、お祈りが必要になるかもしれません」


 執事は恐縮しながら、エドガーを屋敷に案内することとなった。


 屋敷の中は慌ただしかったが、神父の姿を見ると皆足を止めて頭を下げた。やはり聖職者の立場は気持ちがいい。


 彼らに祈りのポーズを返しながら、当主の書斎へ入る。

 仰向けになった男が、顔と両腕に包帯を巻いていた。優秀な使用人の手で処置を受けていたらしい。

 けど、既に血が滲んでいる。肩や手のひらを射抜かれた以上は、しばらくは両手とも使い物にならないだろう。


 ドライセンの当主は、なぜ神父がこの場にいるのかと不審そうな顔を見せた。


「あなたは、魔道具の呪いがかかっている可能性があります」


 不審な顔は、即座に怯えへと変わった。


「な、なぜ……」

「理由はわかりません。しかし、伯爵様の亡き娘の遺体が墓から這い出た件や、魔道具が屋敷から流出した件と、関わりは深いと思われます」

「な、なぜそんなことが言えるのだ!?」

「地元の神父に聞いたことがあります。伯爵家が封印している魔道具には、弓の名手であった魔族を封印したものがあるとの噂です」

「ゆ、弓!?」


 ドライセンは自らに刺さっていた矢を思い出して、ガタガタと震えだした。


 もちろん、そんな魔道具の存在などでたらめだ。あくまで伝聞の噂だから、後でそんなものは無いと言われてもどうにでもなる。


「魔族の実態が封印されたのではなく、その怨霊のようなものらしいですが……それが、因縁を持つ者を襲うそうです。その瞬間だけ、実態となる矢が出てくると。魔法というのは不可思議ですね。本体は怨霊のため、決して捕まえることはできない」

「あ! まさか私が追っていたのに、その向こうにいた神父様が気づかなかったというのは」

「そういうことでしょうね。姿を消せるのでしょう。そして、奴は再びあなたを襲う可能性が高い」

「ひいぃっ!?」


 ドライセンが情けない悲鳴をあげた。


「魔族も無差別に人を襲ったりはしない。もしするなら、あなたよりも狙いやすい相手は街にいくらでもいる。あなたが狙われるのは、ちゃんと理由があるのです」

「な、なにが理由だ! そんなこと、俺は知らんぞ!」


 恐怖のあまり、他人向けの口調を取り繕う余裕すらなくなっている。


「何も知らない! 知らないんだあ! 俺は魔道具に何もしてない! してないからな!」


 したと自白しているようなものだった。


「そうですか。私はてっきり、魔族戦争時代のあなたの先祖が作った因縁だと思っているのですが」

「……へ?」

「もしあなたに後ろ暗いことがあるなら、魔道具の本来の持ち主にすべて打ち明けて罰を受け入れてください。そうでなければ、さらなる災いがあなたの身に降りかかるでしょう。あるいは、ご家族の身にも危険が及ぶかもしれません」

「そ、そんな……」


 彼の目には、まだ葛藤の感情があった。己の悪事を白日の下に晒すなどできないと。

 勝手にすればいい。いずれにせよ、制裁は下るのだから。


「では、私はこれで。陰ながらあなたの幸せをお祈りします」


 神父としての建前から、それだけ言ってエドガーは部屋を出た。

 部屋の前には、屋敷中の使用人が集まっているようだった。当主が怪我をしたなら、それもわかる。


 来客に構っている暇などないだろうな。



――――



「ここがアシェリーの部屋だな。鍵がかかってなきゃいいけど」

「かけてるでしょうね」


 マーガレットに怯えて引きこもってるらしいから、メイドが食事を持ってくる時以外は出てこないらしい。

 そして食事はさっき摂ったばかりとのことだから、同じ手は使えない。


「じゃあ、俺がメイドっぽい声色で開けるようにお願いするか」

「待ちなさいよ。あんたの声で騙せるはずないでしょ」


 男の子の生意気な声だ。さすがに騙せない。


「私がやるわ」

「できるのか?」

「任せなさい。メイドは小さい頃から日常的に見てきたもの。喋り方なんて簡単に真似できるわ。というか、あなたも全部自分でやろうと考えないこと。ちょっとは私にも頼りなさい」


 私の復讐でもあるのに、私には何の役割もない。寂しいじゃない。


 レオンのやり方はどうも、全部自分で背負い込もうとしてるみたいで、ちょっと心配になるし。


「もっと大人を頼っていいのよ」


 そう言われたレオンは、ちょっと驚いた顔をしていた。

 すぐに、表情をほころばせた。


「そうか。じゃあ任せる。ノックはマーガレットがやって」


 指示をしながらレオンは私の手を引いてドアの前から離れた。代わりにマーガレットが前に出て、コンコンとドアをノックする。

 いや待って。私がやるって言ったけど、もうちょっと心の準備する暇とかくれなかったの? いやたしかに、さっさとやるべきだけど!


 ええい仕方ない。やってやる。私の演技力を見るがいいわ。


 これでも学校では、学芸会で役をもらったんだから。お祭りのシーンで踊ってるモブのひとりだけど。でもその中では目立ってたのだから。転んだからなんだけど。


 とにかく、やる時はやるのだから!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ