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51.復讐の準備をしましょう

「わかったわ。じゃあ、レオンならどうやって復讐を実行するつもりか、教えてくれるかしら」

「そこは俺任せなんだな」

「ええ。私には思いつかなくて。口汚く罵るとかしかできないから」

「それは得意そうだけどな。わかった、考えてやる。リリア、情報収集だ。殺人犯がマザコン王子と一緒に街に戻る日程を調べてくれ」

「わかりました! ドライセンのところの使用人に探りを入れますね!」


 そうだった。あのふたり、城に居づらくなってこっちに来るんだった。

 直接片をつけるにはちょうどいい。


「エドガーは街の聖職者と協力して、噂を流してくれ」

「噂ですか。どのような?」

「死体が墓地から自ら這い出てきた。これは不吉なことの前触れだって。事前に、ここの神父には手紙を出してるだろ? それに関係した案件だと言えば、すんなり応じてくれるさ」


 ちらりと、マーガレットが埋葬されていた場所を見る。遺体はまだ私のそばに立っていて、再び埋められる気配はない。

 そのままにしておくのか。


「異常事態を引き起こしたのは、伯爵様のお屋敷の地下に眠る魔道具が、何らかの形で目覚めたと付け加えるんだ」

「なるほど。持ち出されたとは言わないのですね」

「そこまで具体的にする必要はない。けど、後ろめたい奴は震え上がる」


 アシェリーと、その父親のことか。


「ユーファは弓の腕を磨いておけ。ドライセンの野郎を一撃で、殺さなくても大怪我させられるように」

「今でもできる。二射以上、やっていい?」

「いいぞ。確実に当てろよ」

「うん」

「ねえレオン。私は?」


 他のみんなにはそれぞれ指示してるのに、私にはなにもない。


「あー。ルイは……俺の近くにいてくれ」

「なによそれ」

「そばにいてほしいんだ」

「……そう」


 やるべきことを教えてほしかったのだけど、少し恥ずかしそうに目を逸らしながら小声で言うレオンを見ると、抗議する気が消え失せた。

 生意気なクソガキだけど、頭はいい。そうした方がいいって言うなら従うまでだ。


 その後、墓を掘り返した土を乱雑に周囲に散らし、マーガレットが自ら出てきたように偽装してから教会に戻った。



 翌朝、街は噂を流すまでもなく騒がしかった。


 マーガレットは領地の支配者の令嬢で、つまり有名人だ。その死体が勝手に無くなったのだから、騒ぎになるのは当然。

 墓地があるのは金持ちの住む一角であり、庶民が気軽に立ち入る場所ではない。異変を察した貴族連中がすぐに人をやって墓地への立ち入りを禁じたから、現場を見ることができた人間は少ない。


 けど、噂はどうしても広まってしまう。そこにエドガーから依頼された聖職者たちの口で、もっともらしくい内容が付け加えられれば、もはや止めることはできない。

 しかも場所が場所だから、噂は貴族たちの間でも着実に広まっていった。


 もちろん、ドライセンが悪いという形には、まだなってない。魔道具を保管しているのは伯爵の家だから、伯爵が何か失態をやらかしたのではと人々は考えていた。娘の死体が消えたことも、それに関係していると。

 マーガレットの実家は何も悪くないのに、そう言われてしまうことに不憫さを感じなくはないけれど。


「ドライセンの当主は今頃震えてるだろうさ。そして伯爵家も、噂を払拭するために必死になる。本当は誰が悪いのかを、徹底的に調査することになるさ」

「なるほどね。既に地下の魔道具を調べてるところかしら」

「たぶん。金持ちが噂に動揺して簡単に動くとなれば恥だから、調査は内密にやってるだろうけど……ああ、娘が関わってる事案だから、動く理由はあるな」


 想定よりも事態が好都合に動いていることに、レオンは満足げだった。


 そんな彼は私とユーファを連れて、街の金持ちエリアを歩いていた。もちろん、ドライセンの屋敷を下見するためだ。

 宿敵アシェリーの実家だけど、私の顔を知っている者はここにはいない。庶民の格好で堂々と歩いた。


 もちろん、高くない服を着た者がいると、周りはいい顔をしない。成人したばかりのわたしと、ちびっ子ふたり。きょうだいに見えるのかな。バカなガキたちが噂を聞きつけて墓地を見物しに来たとか思われてるのかも。


「気にするな。堂々と歩こう。あれがドライセンの家だな」


 基本的に他者への遠慮がないレオンの振る舞いは、こういう時に頼れる。ユーファもさすが、表情を変えることなく姉や兄についていく姿を演じている。

 私だけが挙動不審だ。いや、私は悪くない。これが普通のはず。


 それはともかく、ドライセンの屋敷が見えた。


 古めかしい立派な屋敷だ。門構えも歴史を感じさせる。けど、所々に真新しい金色の装飾具が取り付けられていて、バランスが悪い。

 きらびやかで派手な要素を付け加えて、荘厳なお屋敷が台無しになっている。門の柵から見える庭も、派手な花が咲き乱れていて落ち着きがない。


「当主の執務室は二階のあの部屋。窓が開いたとしたら、ユーファは中の人間を狙えるか?」

「……」


 ユーファは答える代わりに、道沿いに植えられている街路樹を指差した。


「地面からだと塀に遮られるけど、あれに登れば可能か。登れるか?」


 頷き。


「じゃあ、それでいこう。帰るぞ」

「早いわね」

「後のことはどうにでもなるから」


 レオンの言うとおりにするしかないか。



「アシェリーと王子は、明日にはこの街に来るそうですよ!」


 教会に戻ってから少しして、リリアも帰ってきた。

 明日か。その頃には噂は街中に広まっているはず。アシェリーは、さぞかし居心地の悪い気分になるだろう。


「随伴する人間の情報はあるか?」

「いえ、そこまでは。王子の側の情報ですし」

「まあ、そういうものか……王子が護衛なんかを連れてたら面倒かなって」

「そんなの連れてくるに決まってるでしょ? 王子様よ?」

「そうなんだけど。どの程度なのか気になったんだよ。上級騎士とかが厳重に守っているようだったら手出しがしにくい」

「確かに」


 あんな女でも王子の婚約者。屈強な護衛を出し抜いて彼女に接触するのは困難だ。


「やりようはあるけどな。大したことがないように祈ろう。リリアは引き続き情報を集めてくれ」

「かしこまりました!」


 いい返事だなあ。

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