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50.復讐すべきは

 そうだったんだ。


 マーガレットは何事もなくアシェリーを止められると思いながら、万が一に備えて自分の体の中に重要な手がかりを残した。

 大切なネックレスと一緒に伯爵に渡せば、間違いなくマーガレットからのメッセージだと伝わる。


 そしてアシェリーとの会話は失敗に終わった。アシェリーは自分の家の悪事が露呈することを恐れて、たぶん衝動的にマーガレットを殺した。


 殺す手段はちゃんとある。会ったのは高所。不意を突いて落とせばいい。


 マーガレットは、私が見ていることを期待して、手がかりとしてお腹に手を当てたまま落ちていった。

 私と目が合ったことも知覚していただろう。後は託したという意味を込めて、微笑みを見せた。


 迫る死の恐怖に抗いながら。



「マーガレット様! なんて勇敢な! 怖かったでしょう!」


 リリアが大声で泣きながら、主人に抱きついて勇気を褒め称えていた。

 そのおかげで、私は比較的冷静でいられた。


「マーガレットを殺したのは、アシェリーなのね? 彼女の家が魔道具を流出させているのは確かなのね?」


 物言わぬ死体が頷いた。


「これでわかったな。魔道具を流出させたのはドライセンの家だ。人が近づかない保管庫なら、鍵を壊して中に入っても気づかれるまで時間がかかる」


 なるほど。持ち出すこと自体は、そんなに難しくないか。


「伯爵領で重役を担ってる家なら、御用商人もいるだろう。けど、魔道具を売りさばくのにそれは使えない。だから領内のチンピラに金を渡して即席の商人に仕立て上げた」


 だけどチンピラが馬鹿すぎて、途中で盗まれることとなった。


 盗まれたことすら気づかずに彼らが村を去った後、成果物を確かめようと包みを開けて剣を手に取った瞬間、魔道具の呪いにセライナは取り付かれてしまった。


「復讐すべきはドライセン?」


 ユーファが背中の弓を握りながら尋ねた。


 復讐か。そうだな。マーガレットの死の真相が判明した今、下手人であるアシェリーを野放しにはできない。

 そもそもドライセン家とやらが悪事を働いているなら、それを明るみにしないといけないし。


 マーガレットの方を見る。

 遺体に表情はなかった。けど彼女もまた、私に期待の眼差しを向けているのだと思う。


「もう。マーガレットってば……わかりにくいのよ、あなたのヒント」


 学校にいた頃みたいに、からかうような口調で語りかければ、マーガレットは笑ったみたいに肩を震わせた。

 あの一瞬で、親友の腹を開いて中身を取り出せなんてメッセージが伝わるはずがない。たぶん、マーガレットも私にそんなことをさせたくないから、わかりにくい言伝しかしなかった。


 普通に誰かに預けたり自分の部屋に隠したら、死後にアシェリーに回収されるかもしれないから、こんな手段をとったんだろうけど。


「でもありがとう。死ぬ間際に、一番信頼できるのは私って思ってくれたのよね。そして死んでからも」


 遺体がしっかり頷いた。


 生前は死後の霊のあり方なんて知らなかったマーガレットだけど、死んだ直後から私に取り憑いていたのだろう。

 ヒントを理解できず手紙は埋葬されてしまったけど、私が真相にたどり着く機会を伺うために。


 あのパーティーの夜、私は二回転んだ。王子の前ではなく、アシェリーの前でマーガレットが主導して転ばされたんだな。

 さらに手がかりであるリリアの前でも転ばせた。

 レオンという、霊の事情に詳しい存在の力もあって、かなり早期に真相を知ることができた。けどマーガレットは、どんなに時間が掛かっても自分の遺体にたどり着かせようとした。


 その執念には報いないと。


 あの女にも、相応の罰を与えなければ気がすまない。このまま王子の婚約者として幸せを手に入れられると思うな。


「リリア。この手紙とネックレスを伯爵様に渡せば、ドライセンの家はどうなるかしら」

「取り潰されるでしょうね! ……もしかすると、当主が追放か死罪になって、跡継ぎにより家が存続するかもしれません。彼には息子がいますので。あ、でももちろん、家族も厳しく取り調べを受けると思います!」


 そう願う。リリアの口調からはそんな感情が読み取れた。


 跡継ぎか。確かに娘を悪事に加担させた男なら、息子にも同じ指示を出した可能性はある。少なくとも娘が関わっているのは手紙から明らかだから、追求はあるだろう。

 家が取り潰しになるのは可能性が高そうだ。でも。


「アシェリーはどうなるかしら」

「それは……さすがに伯爵様も、王子の妻には手が出せないかと思います。国王陛下にそれとなく伝えはするでしょうけど……」

「マザコン王子とやらが庇うだろうな。あと、そいつを溺愛しているっていう王妃様も」

「そうね。というか、アシェリーが王子に言い寄ったのはそれが目的ね」


 悪事が露呈した結果殺人を犯した彼女は、罪から逃れるために王家の庇護の下に入ろうとした。


 親に決められた婚約者を不満に思っていたはずのアーキンを誘惑して、自分が真の婚約者になる。

 そうすれば悪事を働く実家から遠ざかり、しかも高い身分が得られる。実家からは悪事の口止めと協力料が送られてくることだろう。


 うまくやったな。お城からはあまり歓迎されていないようだけど。


「アシェリー自身にも、直接手を下すべきね」

「殺すの?」


 両親の復讐に燃えるユーファが尋ねた。彼女はずっと、そこに固執している。

 彼女にとっての仇はアシェリーではなく、その父。けど、私の復讐にも協力してくれることだろう。


 でも。


「やめておけ」

「なによ。急に善人ぶって」


 クソガキの冷たい声。

 散々私に協力してくれてたのに、急にどうしたのよ。


「ああいや。復讐するなって意味じゃない。それなら俺も協力してやる。けど、殺しはするな」

「……どうするの?」

「死んだほうがマシって状態にする。けど、殺すのは絶対に許さない」


 レオンにはちゃんと考えがあるんだろう。

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