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45.ユーファも一緒に

「彷徨える死者たちよ、どうか鎮まり、主の元へ戻りたまえ。現世は死者のいる場にあらず、生者と別れを済ませ、冥界へ――」


 教会にて、エドガーが長ったらしい祈りの言葉と共に私へ聖水を振りかける。この教会の前の主、クレソンさんが用意していたものだ。


「レオン、どう?」

「五人、冥界へと去っていった」

「死んだ人は六人だったわね。ということは、あとひとり……」

「いや、五人のうちのひとりは、セライナだ」

「あ、そういう……いいの? お葬式はまだなのに冥界行って。てか、行ってくれたんだ」

「不本意な死を遂げた未練はあるけど、死ぬ前の数日間の苦しみから解放された喜びの方が大きかったらしい」

「苦しんでいたのね……」

「そうだ。大人しく行ってくれて、よかった」


 ちょっと魔が差して、盗めそうなものを盗んだだけの貧乏人。そんな人間には重すぎる罪を背負ってしまった。

 こんな世の中、さっさと去りたいと考えても不思議ではないか。


 それとは別に、ふたり残ったということは。


「お父さんとお母さん?」


 ユーファが私よりも先に正解を口にした。


「たぶん、そうだ。確証は……」

「うあーっ!?」


 霊の声は聞こえないし、見えても正確な個人の判別は無理なレオンの代わりに、私が正解を示すことになった。ユーファの両親と、それに協力する二百人あまりの霊に転ばされる形で。


「も、もっと穏当な形でやってくれないでしょうかユーファちゃんのご両親さん!?」

「なあ。あんたたちを殺した原因は排除できた。娘さんはもう安心だ。これ以上、なんの未練がある?」

「きっと、幼いユーファさんのこれからが気になるのでしょうね」

「びにゃー!?」


 エドガーの言葉と同時に、起き上がった私はまた転んだ。肯定の合図なのはわかったけど、他にないのだろうか。


「リリア! 私を抱きしめて! 転ばないようにして!」

「は、はい!」

「ユーファさんが誰か、安心できる方に引き取られなければ満足しないのでしょう。この村の人ではない、ということでしょうか」

「みょぎゃー!?」


 リリアは間に合わず、エドガーの推測に答えた霊の返事で私は三度地面に投げ出された。


「仕方ないな。ユーファ、俺たちと来い。この村よりは広い世界を見せてやる。霊を冥界へ送る手伝いをさせてやる。お前の弓の腕は、何かの役に立つはずだ」

「おおっと!?」


 今度こそ、私はリリアの腕と胸に抱き止められて転倒を阻止できた。彼女のデカすぎる胸を押し当てられることに不満がないではないけど、この際だ我慢しよう。


「うん。よろしく……」


 ユーファは少し照れた様子を見せながら、レオンに手を差し出して握手した。


 なんだろう。このクソガキが歳の近い女の子と仲良くしてるの、ちょっとムカつく。


 けど、心強い味方ができたのも確かだ。彼女の弓の腕は褒めるべき。さっきの戦いを見ても明らか。

 旅をするのに、野生の狼とか賊とかの危険は知らされていたのに、それへの対処は不安を覚える程度のものしかなかった。


 けど戦える彼女がついてきてくれるなら、一安心だ。


「では、改めておふたりを、冥界へ送りますね」


 あ、私はまた聖水をかけられるのね。いいんだけど。


 私のそばにいる霊を見ながら、レオンは頷いた。今度こそ、ご両親は安心して冥界へ旅立ったのだろう。

 私もユーファの仲間として守ってあげないといけないな。守られる側かもしれないけど、年長者の力を見せないと。


「ねえ」


 両親を送ったユーファが、レオンに話しかけている。距離が近いわよ。このクソガキと仲良くなっても、ムカつくことが多いだけだから避けた方がいいわ。


「あの剣、なに?」

「あー……」


 セライナを狂わせた剣を、レオンは魔道具と言っていた。その説明を受けていなかったな。


 ユーファにとっては両親が死んだ原因のひとつ。気になるのは当然。


 ちらりと教会の礼拝堂の隅を見る。あの剣を収めた箱は、教会に預けられることになった。扱いを間違えれば人が死ぬ道具が近くにあることは、ちょっと怖いな。


「そのままだよ。魔法のかかった道具。人が魔法を使えなくなった今では、忘れ去られたもの。でも、今も魔力が残った物が存在する。魔法の実在を今に伝える証拠」

「魔族との戦争の時代には使われていたの? 人間の魔法使いが?」

「使われてた。魔族の側も使ってた。戦場だけではなく、街で暮らしてる人も使ってたらしい。武器だけじゃなくて日用品もあったってことだ。……金持ち限定だけどな。昔はありふれたものだったらしい」


 その歴史は知らなかった。けど魔法があったなら、それを使いやすくする道具があってもおかしくはない。

 魔法が廃れるのと同時に、魔道具も人々の記憶から消えていったのだろう。


「えっと、その中に……触った瞬間に狂って、周りの人を殺して回る剣があったってこと? 危なくなったら隠れて、また機会を伺うとかそんな使われ方をする……武器?」


 戦争の時代と言っても物騒すぎやしないだろうか。


「たぶん人間が作ったものじゃない。魔族が人間の陣地に置いて、混乱を誘うために作ったんだ」

「なんて卑劣な相手なの……」

「そういうものなんだよ、魔族は。結局戦争が終わってから、放置することもできずに回収された。そういう魔道具もあるんだ」


 それが、今も残っているということか。

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