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43.こんな怪物だなんて聞いてない

「どの方向だ!?」


 レオンの問いかけは私ではなく、転倒させた霊たちに対してのもの。レオンへ言葉を投げかけることはできない彼らだけど、姿が見えるのならば意思を伝えるのは可能。

 例えば、敵がいる方向へ道を作るように靄を晴らすとかで。


「そっちか! おいルイ、立て!」


 私に呼びかけながら、私じゃないある一方をレオンは睨んでいた。方向は把握しながら、まだ相手の姿は見えていない様子。少し横にずれて、なんとか探そうとしている。

 そして姿は見えずとも、敵がいるのは間違いなかった。レオンの以外に、土を勢いよく踏みしめてこっちに近づいてくる足音が聞こえた。これってつまり。


「おい! 早く立って逃げろ!」

「ひぇっ! ひえぇ……!」

「があがあがあがあああああああ」


 直後、人間からこんな声が出せるのかという叫びが聞こえてきた。


「ちょっ! なによこの声!? 怖いんだけど!」

「セライナが暴れた時、この叫びをしてた」

「だよねー! いや待って教えて欲しいわけじゃないのよユーファちゃん! むしろ知りたくなかったの!」

「いや、知るべきだろ敵が近づいてくる情報が」

「ぎゃがあああああああ!!」

「嫌なの知りたくなかったのよ! ねえ! これどんどん近づいてきてない!?」

「そりゃな。確実に俺たちを見つけてるだろうから」

「ひえぇ……」

「せめて立って逃げろ!」


 完全に腰が抜けた私は、四つん這いで手足をばたつかせながら逃げる。確かに走って逃げた方が早いな。


「ユーファ、敵の姿は?」

「見えない。でも近い」

「音でわかるんだな。倒せそうか?」

「わからない」

「そうだよな……」

「通り過ぎた」

「え?」


 姿の見えない敵が、接近していると思ったら音が一瞬遠ざかったらしい。こっちに真っ直ぐに接近するのではなく、側面を通り過ぎた。木々に身を隠しているから、そんなこともできる。


「それって私たちは見逃されたってこと!? よ、良かった……助かったああっ!?」


 こっちに来ないなら一安心と立ち上がった私だけど、直後にまた転けることになった。

 一瞬前まで私がいた空間を、鉄の刃が横に薙ぐのが見えた。


 レオンとユーファだけが、敵が通り過ぎたと認識したけど実際は、少し離れた箇所にいた、一番どんくさそうな私を先に始末するべく動いていたと言うべきだった。

 間一髪、私は霊に助けられた。


「ぎがぎゃぎぎががゃああああ!」

「きゃー!」


 ひとりの女性が私を見下ろして、人間とは思えない叫びをあげている。手には、女性が扱うにはサイズがちょっと大きいかなという剣を片手で握っていた。

 ああ、わかるとも。これがセライナって人なんだな。ちょっと盗み癖がある困った村娘。


 元からこんな風貌だったのかは、存じ上げないけど。


 目は血走っていて、こぼれ落ちるのではと心配になるほどに見開いている。脂ぎった長い黒髪は乱れていて、しかも泥で汚れている。叫ぶために開いている大口から涎が垂れることなどお構いなしな様子だ。

 これが人間なのか。


「ルイ! さっさと逃げろ!」


 レオンの声と、足音。そうだ逃げないと。でも、恐怖で体が震えて動けない。

 私が呆然とセライナを見上げている間にも、彼女は自身には重いと思われる剣をゆっくり振り上げて、私へ向かって落とそうとして。


 瞬間、彼女の肘に矢が刺さった。そのせいで狙いが逸れて、剣は私の横へ振り下ろされる。


 さらにバランスが崩れたセライナの腹にレオンの飛び蹴りが炸裂。体重で言えばレオンの方が負けているけど、勢いでなんとかした形だ。セライナがドシンと音を立てて倒れる。


「立って。逃げて」

「ひ、ひゃい!」


 ユーファが弓を構えながら私たちの方へ近づいてくる。狙いをつけては放ち、セライナの腕や手を確実に射抜いていった。

 胴や首といった急所は、レオンの体と重なっているから狙えないのか。そのレオンはナイフを握り、セライナの喉へ思いっきり斬りつける。


 確かに切れた。ざっくりと切り傷ができて、血が流れる。なのにセライナはまだ動けていて、女性とは思えない力でレオンの体を跳ね飛ばした。


「痛っ!?」

「レオン!?」

「だ、大丈夫だ! おい化物! こっちだ! 来い!」


 地面に投げ出されたレオンはすぐに立ち上がり、森の外へ向かって一目散に逃げていく。正確には、セライナを引きつけに走る。

 元からこういう作戦だ。落とし穴まで敵を誘導する。

 セライナはといえば、切り裂かれた喉を片手でしっかりと押さえて出血を止めて喉を繋げた。いやいや、どう考えても人間業じゃない。


「ぎゃ、ぎ、ぎがはっ、」


 そんな状態でも叫ぼうとするのは止めず、その度に傷口から血が流れるけどお構いなしで、セライナはレオンを追いかけた。


「えっと! ねえユーファちゃん! 私たちはどうすればいいでしょうか!?」

「こっそり森から出る。ついてきて」

「ふぁ、ふぁい!」


 慌てすぎて変な返事になってしまった。


 そうだった。私たち本当は、森に入ってはいけない存在だった。なのにセライナを、他の狩人たちが待ち構える落とし穴まで誘導するって作戦だから、よく考えれば無茶苦茶だ。

 レオンは最初から、自分が囮になるつもりだったのか。

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