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40.私が囮になるようです

 ユーファからの情報を伝えて、セライナ探しについて何か知らないかと訊いたところ。


「明日の昼過ぎ、葬儀が終わってから森へ入るらしいですよ。弓を装備した狩人と、他の志願者で。人数は集計中ですけど」

「弓か。ということは、セライナを殺すつもりか?」

「ええ。明言はしませんでしたが、そうなることを覚悟しているようでした」

「仕方ないか……できれば殺したくはないけど、さすがに住民が納得しないか……」


 レオンも、方針について疑問を持ってはいなかった。少し心残りがあるらしいけれど。


 既にこれだけの死者が出ているのだから、下手に容赦してさらなる死者が増えることは避けないといけない。

 許容できる死者は、セライナひとりだけ。


「狩人なら日常的に森に入ってるし、動き慣れてると思う。けど、相手も強すぎるからな。視界が悪いことに変わりはないし、死角から襲われて死者を増やすことは避けたい」

「それは彼らも想定しているようですよ。数名ずつの班にわかれて、常に周囲を警戒しながら探すそうですね。木の上に人を置いて、そこでも周囲を見張ると」

「やり方としては正しいよな。けど、それでも視界が悪いと気づかれない内に接近される」

「なによクソガキ。文句ばっかり。視界が悪いとしか言ってないし」

「うるさい。……危険の少ない方法があると言ったら、お前は喜ぶのか?」

「そんなの。喜ぶに決まってるでしょ?」

「喜べ。その方法を思いついた。ルイにも手伝ってもらうけどな」


 私を見つめて、意地の悪い笑みを浮かべながら言いやがった。

 え? あれ? もしかして私、乗せられて危険な役目を負うことになった? しかも喜んでやるって形に?


「わ、私のことはあてにしないんじゃ」

「そうだ。けど霊の力は使える。遮蔽物関係なしに、ある程度周りを自由に動き回れる。生者の目よりも敵を見つけやすい」


 よく見ればレオンの目は、私ではなくその上を見つめていた。霊に作戦を教えてるんだ。


「いやいや。見つけたところで、ねえ?」

「発見したら、ルイを転ばせて知らせてもらう。あとはこっちの存在を知らせて、逃げる」

「待ちなさい! なんで敵を先に見つけたのに、わざわざ知らせてから逃げるのよ!? 見つけたなら攻撃しなさいよ!」

「お前が転けた時、嫌でも音が鳴るだろ。あと声も」

「ぐぬぬ……」


 でも! あれは好きでやってるわけじゃないし!


「俺たちじゃなくて村人たちの実績にしたい。エドガー。狩人たちに提案してくれ。森の中で相手を殺す必要はない。森の出口に落とし穴を掘って、そこにセライナを誘導するんだ。足止めしたところを、弓で一斉に狙う」

「なるほど。ですが、今から穴を掘る余裕なんかありますか?」

「そんなに深くなくていい。膝くらいの深さで転ばせるだけ。大事なのは隙を作ることだから。どうせ明日の葬儀のために、村の男全員で六人分の穴を掘ってるんだろ? 小さな穴がひとつくらい増えても、大した差はない」

「なるほど。皆も協力してくれるでしょう」

「あと、狩人たちの一班を穴の近くの木に登らせて、そこから矢を射掛けさせる。捜索と戦闘に加わらない者は屋内に退避させて戸締まりをしっかりさせておく」


 当然のように私を頭数に入れた作戦の話し合いを、レオンとエドガーが勝手に進めていく。いや、待って。私に危険が及ばないようにする方法はないの?


「女性と子供の安全の確保は、彼らも当然行うでしょうね」


 だったら私の安全も確保してよ。私も女なの。


「皆のところに戻って、提案して来ますよ。おっと」


 私の心中など知らないエドガーが教会から出ようとしたところ、入ろうとしたユーファと鉢合わせする。


 ユーファが出ていってから、まだそんなに長い時間は経ってない。

 外は暗くなっているし、狭い村の中とはいえ子供がひとりで出歩くのは危険な時間。特に事件が起こった直後だし。


 レオンも、すぐに戻ってこいと指示したわけじゃない。明日の朝にでも詳しい状況を知れれば良かった。というか、大まかな方針はさっきエドガーから聞けたし。


 だからユーファは、今日は家に帰るものだと思ってた。


 ああ、そうか。ユーファは帰っても、そこに家族はいないのか。

 両親を失った彼女がどうなるのか。どこかの家に引き取られるのかは、私にはわからなかった。


「まあ入れよ。夕食、一緒に食うか? 何かわかったか?」


 少し驚いた様子のレオンだけど、彼女を教会内に招き入れた。

 ここまで走ってきたのだろう。息が上がっている。それから、目が潤んでいた。


 泣きそうだったのか。なぜかは知らないけど。


「エドガーから、明日の動きは聞いた。森に入る人数はわかるか?」

「狩人が二十人。みんな男の人」

「そうか。他には?」

「……村の、男の人がもう三十人」


 木こりなんかの仕事で森に詳しい人や、その他村の力自慢とかかな。というか、この小さな村の成人男性の、ほとんど全員なのかもしれないな。

 危険を放置できないとか仲間の仇を討つとかで、動ける者はみんな動員する。


 けど、男性だけか。さっきレオンとエドガーが、女性と子供の安全は確保しないとと話していた。


 こういうとき、女子供は参加させてもらえない。というか命懸けの戦いになるだろうし、参加したいと思わないものだろう。私もそうだし。

 そもそも危険すぎるし、無駄に死者を増やす結果になりかねないから、これが正しいはず。


 ユーファの場合は違った。


「ユーファちゃんも、参加したかったの?」


 彼女の前まで歩み寄り、つとめて優しい声をかけたら、ユーファはゆっくり頷いた。


「ご両親の仇だもんね。待ってるだけは嫌よね?」

「わたしも、やりたいって言った。けど駄目って」


 ぽつりぽつりとユーファは話す。


「喋るの得意じゃないから。ちゃんと言えなくて。それで」

「いいのよ。ユーファちゃんが悪いんじゃないわ。みんな、ユーファちゃんまで危ない目に遭うのは嫌って思ってるだけなの。優しさなのよ」

「でも。でも……」


 それ以上言葉を続けられず、彼女は涙を流して泣いた。

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