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39.剣の出どころ

 たぶん他の死者たちも同じ。この村に愛する家族がいることだろう。亡くなった神父様も、愛する村の行く末が気になるはず。

 なるほど。葬式を開いた程度で、半分でも行ってくれれば御の字だ。


 ユーファも微かに目を見開いた。彼女にとっての、精いっぱいの感情表現。


「あなたが……お父さんたちの未練を、晴らしてくれる?」

「努力する。俺も聖職者だから、彷徨える霊を放ってはおけない。原因がわかってるなら対処する。どうしても目につくからな。俺が霊を見れるってこと、誰にも話すなよ?」


 さっきと同じ念押し。ユーファは無言で頷いた。


 レオンが少女に真実を話したのは、霊のためなんだな。


 もちろん、私たちの通り道にいるらしい人殺しを放置できないって理由もあるだろうけど。

 でも今回は危険すぎないだろうか。相手は正気を失った上に武器を持っている。こっちは争いごとにはまったく向かない人間ばかり。


 レオンは前向きなようだけど。


「よし。じゃあまずは、情報の整理からだ。村が今回の件についてどうするつもりか、知ってることがあれば教えてほしい。セライナを放置はしないはず」

「……狩人で集まって森を探す予定」

「そうか。詳しい日時はわかるか? 神父が来て、予定が変わったかもしれないけど」


 ユーファは首を横に振る。


「そっか。ユーファの両親も狩人だったよな。ユーファ自身にも、狩人の知り合いはいるか?」


 頷き。


「わかった。狩人たちに、日程について探りを入れてくれ。動員する狩人の規模も」


 頷き。


「他に、なにか知っていることはあるか?」


 無言。話しづらい相手だけど、レオンはだんだんコツを掴んできた様子だ。


「例えば、セライナについて。さっき俺が村長から聞いた以外の情報は」

「あの剣……」


 言いかけて、彼女は口をつぐんでしまった。

 無口だからではなく、言うべきか悩んでいるらしい。


「いいじゃない。言ってみ……」


 レオンが私に手のひらを向けて制止のポーズ。何を生意気な。女の子の前だからって格好つけちゃって。


「ルイーザ様! レオンさんを見る目が、なんか怖いですよ!」

「う、うるさいわね! あんたは黙ってなさい!」

「ふぁい!」

「リリアもだ!」


 ユーファが私たちの声にピクリと身を震わせるのが見えて、ふたりして口を閉じた。


「ごめんな。あのふたり、馬鹿なんだ。ついでに言えば未亡人でもない。これも、みんなには内緒だぞ」


 ユーファは戸惑ってるようで、微かに眉が下がっていた。けれど頷いてくれた。


「ありがとう。だから俺も、セライナの剣について君が見たことは誰にも言わない。だから教えてほしい」

「……セライナが暴れた日、商人が来た」


 ユーファがゆっくり話した内容をまとめると、こうだ。


 この村にも商人は何人か訪れる。ラングドルフ領の金持ちを顧客にしている者が通り道として使い、宿屋に泊まったり時折安い商品を村人に売る。

 けど、その日来た商人は見かけない顔だった。


 来たのは昼すぎ。この村に泊まることはなかったけど、遅めの昼食は食べた。


 あまり態度がいいとは言えなかった。数人の護衛を伴っていたけど、全員が昼間から酒を飲んでいた。大きく儲けることができる案件を抱えていたらしく、将来はこんな暮らしがしたいとか口々に夢を語っていた。

 ユーファは、セライナがその商人の馬車に近づくのを見たという。キョロキョロと人目を気にしていたらしい。


「なるほど、剣の出どころがあるとすれば、その時盗んだと考えるべきだな」


 レオンの言葉に、ユーファは頷いた。


「その商人は、かなり程度の低い奴だな。剣一本とはいえ商品を盗まれるなんて。普通は、食事の時でも護衛のひとりを見張りにつけてるものだよ。あと昼間から酒を飲んだりしない」


 ユーファはまた頷いた。村を訪れる商人を、これまで何度も見てきているのだろう。


 セライナが剣を手に入れた理由はそれだろう。そんなに金目のものを持ってなさそうな商人だけど、多少の稼ぎにはなるだろうと無人の馬車から一本拝借した。

 もしかすると、盗んだのが剣だったのは本人もわからなかったのかも。抜き身の剣を運んでたとは思わないし、商品なのだから布なんかで包んでたと思われる。


 とにかくセライナはなにかを盗み、それが剣だと発覚した後に殺戮を働いた。

 事件があった時には、昼食を取るだけだった商人は村を去っていて、村人たちは事件の重大さのあまり商人のことは忘れた。


「凶行に及んだ理由はわからないけど、剣の由来ははっきりしたな。剣そのものが何かはわからないけど。あと、セライナが危険な奴だって言うのも変わらないけど」

「これからどうするよの。わからないことがわかったって、意味ないじゃない」

「セライナの居場所を確かめて、どうにかして止めるかが重要だ。俺たちも手伝うことになるかな」

「俺たちって……まさか、私にも手伝えって言うの? 私、荒っぽいことは苦手なのよ」

「お前には期待してない」

「それはそれでムカつくわね」

「だったらルイが自分で、セライナを止めるか?」

「絶対に嫌」

「まったくこいつは……」


 なによため息なんかついて!


「作戦は俺が考えて、エドガーから村人たちに伝える。神父の言うことなら、大人は聞いてくれるからな」


 自分で言うべきじゃない。レオンはそう考えていた。

 大勢の村人にとっては、自分は神父に付き従うだけの御者。そりゃ、人に言って聞かせるためには権威が必要か。


「ユーファ、さっき言ってたこと、頼むぞ。狩人の数が知りたい」


 ユーファは頷いてから、教会を出ていく。レオンはそれを見送りながら。


「実際のところ、今の方針では狩人たちの命が危ない。ひとりも殺さないようにするなら、別の方法を取らないと」


 深刻そうに口にした。

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