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31.なんで私が未亡人に

「日が沈んだら教会に行くぞ。エドガーに手伝ってもらう。同業者の繋がりがあるのは、使用人も聖職者も同じなんだよ」


 それはわかる。違う教会にいる神父様同士も、それぞれ会うことはあるだろう。特殊な事情だと説明すれば、権力者に内緒で手伝ってくれることもあるかも。

 でも、なんで私が未亡人? 誰の夫よ。


「架空の夫だよ。ニナに頼んで喪服を貸してもらえ。親父さんが亡くなった時のやつがあるから。リリア、使用人としての服はあるか? 特徴的なやつなら誂え直してもらえ」


 いや、勝手に話しを進めないで。


「ええっと、伯爵様に仕えるメイド服なので、領内では目立ちます……」

「そっか。お前がラングドルフ領に戻ったことは、できれば伯爵家には隠したい。マーガレットを蘇らせることもな。俺の力が偉いやつに知られるのは避けたいんだ」


 それはわかる。前も言ってたから。今回の件は、あらゆる偉い人には知られないように動かないと。

 見張りをかいくぐることは、レオンにとっても切実な問題だったんだな。


 ううん。そうじゃないの。


「あの、なんで未亡人に」

「では、新しく作りますね! それっぽい服とエプロンをください。縫合し直して、新しいメイド服にします!」

「ねえ。リリアも私の話しを」

「わかった。それでいい。酒場だからエプロンはある。なかったら新しく買おう」

「だから。無視しないで。ふたりとも」

「えへへ。私、お裁縫は得意なんですよ! 素敵な衣装にしちゃいますね! それで、ルイーザ様の使用人を装えばいいんですよね?」

「あの。なんで私がリリアの主人に?」

「そういうことだ。ということはリリアの夫は、それなりに裕福層ってことになるな。馬車持ちの商人とか」

「私いつの間にそんなのと結婚したの?」

「わかりました! 未亡人のルイーザ様のお世話、しっかり務めさせていただきますね!」

「あ、ありがとう。じゃなくて! なんで私が未亡人にされてるのよ! ちゃんと説明してよ!」

「ははっ」

「おいこら! わざと無視してたでしょ! 笑うなクソガキ!」



 結局、教会への道すがら作戦を教えてくれた。


 ラングドルフ領のどこかの村で、商人が怪我で亡くなったという話を作る。王都に拠点を構えて、周辺の領地の金持ちに商品を持っていっては販売する御用商人だ。

 遺体が教会に預けられ、本人確認のために遺族に来てもらうことに。それで、未亡人である私と使用人のリリアが向かう。


 私が喪服を着ているのは、そういう理由だ。


「未亡人なら、顔をレースで隠して帽子を目深に被っても違和感がない。未亡人の顔を無理に確認する権限までは、向こうにもないはず」


 それなりに地位のある人とはいえ、王子や爵位のない金持ちの個人的な命令。法的な拘束力はなく、こちらも金持ちであることを見せつければ、相手は面倒を避けて手を出さない。

 それでも若い女性だというのは外からは察せられるだろう。けど結婚してすぐに夫を亡くした未亡人というのも世の中にはいるらしい。だからごまかしは利く。


 アーキンたちには切実な問題でも、見張り個人にとってはそうでもない。ここに、切り抜ける隙がある。


「ちなみに、レオンはなんの役をするの?」

「馬車の御者」

「あなた、馬なんか操れるの?」


 この性格が悪い少年が、馬に言う事を聞かせられるとは思えなかった。


「できるさ。何度かやってる。エドガーが遠出する時に俺が馬車を動かすんだ」

「そうなの?」

「あいつ、お祈りする以外何もできないからな」

「あー……」


 たしかに。


「それでも、あいつがいた方が都合がいいから」


 今回の遠征にはエドガーも同行させるようだ。懇意にしている神父とかの設定。


「聖職者が乗っている馬車に手荒な真似はしないし、大した確認もないまま通すだろうさ。まさか神に仕える神父様が大嘘をついているなんて、誰も思わない」


 あなたはその神父様に、大嘘をつくようお願いするのだけど。そして神父様も、さしたる迷いもなしに乗ってくれるのだろうけど。



 だとしても。



「エドガー! ラングドルフ領に知り合いいるよな!? そいつに嘘をつけって手紙を書いてくれ!」

「レオン。いきなりそんなこと言われても、困ってしまいますよ」


 だよなあ。説明なしにお願いすることじゃない。しかも夜間に突然押しかけて。


 レオンもよくわかっているから、教会の椅子に座って落ち着いて説明を始めた。一緒に来ていたリリアの説明や、彼女から聞いた情報も一緒にやる。


「なるほど。いいでしょうラングドルフ領まで一緒に行きましょう」


 さすが神父様。予想通り受け入れてくれた。


「ですがレオン。その計画なら、別に私の知り合いに手紙を出す必要はないのでは?」

「向こうで調べられた時に、話しを合わせられる人がいた方がいい」

「確かに。では、話のわかる友に手紙を出しましょう。その商人の実在自体は、あまり考えなくてもいいのですよね?」

「商人はラングドルフ領には顧客を持たず、通り道として使ったことにしよう。ラングドルフの人間も、そこまで調べることはできない」


 レオンとエドガーで、話が素早く決まっていく。


 頼りになる人たちだ。

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