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30.見張りの状況について

 その日のお喋りはここでおしまい。リリアはこの街で宿を借りて滞在しているらしく、そこに戻っていった。


 宿屋にずっといるよりは、この酒場の二階に住んだほうが安く済む。そう提案してみたところ、彼女は勢いよく食いついた。明日からはここに泊まってもらうか。

 たぶんニナたちも拒絶はしないだろう。


 私への捜索が今も続いているとわかった以上、おおっぴらに外を出歩くのは気が引ける。だから日中は店の手伝いで過ごした。

 お客さんが来る前の時間帯に、野菜の皮むきなんかの仕込みとかだ。


 昼過ぎの頃には、リリアが聞き込みから戻ってきた。城勤めで今日が非番の使用人を見かけたから、話しかけて事情を聞いたらしい。

 運がいいというよりは、そういう人がいるのを把握してたんだろうな。普段から交流を持って相手の素性を知った上で、話しができる人を多く確保しているのだろう。


 昨日と同じ私の部屋に三人集まって話し合う。レオンは当然のように私のベッドに座っていた。気に入ってるのかな、そこ。


「人が置かれているのは、それぞれの領土の境目らしいです! 道があるところに、少なくともひとり」

「それぞれの領土というのは?」

「王家直轄領と、ラングドルフ領及びジルベット領の間です!」

「ラングドルフ領も対象なのね……」


 うちの家と王家領の間だけなら、マーガレットを復活させるのに障害はなかったのだけど。


「第二王子の命令で動く人が数人。あとはドライセン家の者が人を用意したとの噂です!」

「へえー」


 ドライセンはアシェリーの姓。つまり、第二王子妃の実家が私を探している。


 大事な婿に大勢の前で恥をかかせたのだから、嫁の家が関わるのは理解できなくはない。嫁入りする側が、しかも領主ではない家臣の家が出張りすぎだとは思うけど。


「私の家はどうなの?」

「実のところ、数日経っても見つからないことを鑑みて、公爵家は諦めたそうです! 無駄な人員を割くべきではないと! 良かったですね!」

「ええ、そうね……」


 実家に探されなくて済んだというのは、いいことなんだろう。障害がひとつなくなったのだから。

 仮にも十八年家族だった相手に諦められて、娘がどこに行ってもいいとなった事実に、ちょっと寂しさもあるのだけど。


「なのでルイーザ様捜索の主体は、王家とドライセン家となりますね!」

「ドライセンなんだな。伯爵様、ラングドルフ家じゃなくて」

「ええ! ラングドルフ家は事態に手を出さず、静観の構えです!」

「そっか。家臣がここまでおおっぴらに動いてるのに静観か。王家との婚姻はラングドルフにも影響があるだろうに」


 あるだろうな。金鉱山の採掘権は今更動かないにしても、王家との関係が深まるのは伯爵も関わりがあること。

 家に仕える者が王家に嫁ぐのだから、ラングドルフの王室に対する立場も少しは上がるというもの。


「まあいいや。金持ちどもがどんな思惑で動いてるかなんか、どうでもいい」

「いや、どうでもよくはないでしょ」

「俺の仕事は、死者を冥界に送り届けるだけだ。それに関する情報さえあればいい」


 私の背景にも、もう少し関心を持ちなさい。


「あの、もうひとつ情報がありまして。アシェリー様とアーキン第二王子が、ラングドルフ領に向かうらしいです」

「なんでまた」


 リリアの遠慮がちな報告に、私は怪訝な顔をした。


「奥さんのご実家に婚姻の挨拶をする目的だそうですが、そのまましばらく滞在するそうです」

「城の居心地が悪くなって逃げていったか。目下の奴しかいない所なら、思う存分威張れる」


 相変わらずレオンは、会ったこともない相手の行動に手厳しい。


 逃げていったの主語は、恐らくアーキンの方。アシェリーなら、領内には伯爵という目上の者がいる。

 お屋敷に引きこもって一歩も出ないとなれば話は別だけど、そうもいかない。

 王家との婚姻なのだから、伯爵家とも大いに関係すること。伯爵様と面会を命じられることもあるだろう。


 どうも今回の婚約、伯爵の預かり知らぬところで行われていたらしい。当人同士と、マザコン王子が大好きな王妃だけが知っていたこと。

 ま、アシェリーが断固として面会拒否をすることもできるだろう。王家の威光を使うとかして。


 その後、伯爵家と財務官の家の関係がどうなろうとお構いなしだ。


「ルイと顔を合わせるとかなら別だけど、今回の目的とは無関係だからいいだろ」


 お構いなしなのはレオンも同じ。彼には本当に関わりのない他人事だ。


「王都から北へ向かうルート全部に見張りがいるんだろ? だったら取る手段は三つだ。南から王都を出て、ものすごい迂回をして北側からラングドルフ領へ行くか、見張りをぶん殴って強行突破だ」

「前者はともかく、後者は論外よ。迂回も、できれば嫌。もうひとつの手段はなに?」

「リリア、金持ち父さん共は道の見張り以外に、なにか探す手段を用意したか?」


 私の質問に答えろクソガキ。


「あー。実はですね。人手が足りないのを向こうも気にしていまして、王家領の北部とラングドルフ領南部の宿屋に人相書きを配ったそうです……」

「なるほど。似顔絵……というよりは、該当する特徴のある人物を探せというお触れか。金髪で綺麗な青い瞳。それから貧乳」

「はい! そんな内容と聞いています!」

「あんたたち……」

「ひいぃっ!?」

「ははっ。怒るなって。そんなもの、いくらでも誤魔化せるから」


 怒った私にリリアは怯えてくれたけど、クソガキは涼しい顔をしていた。


「いいでしょう。そこまで言うなら、あなたの策を聞かせてもらいましょうか。理由を作ると言ったけど、どんなものかしら? 全部の道に見張りがいて、宿屋にも泊まれない。どうするの?」

「なんでお前がピンチなのに、ちょっと嬉しそうなんだよ」

「う、うるさいわね! さっさと言いなさい!」

「宿屋には泊まらない。行く先々の教会に泊めてもらう。あと、俺たちの身分を偽る。ルイお前は、遠方に出稼ぎに行ってる夫が死んだと伝えられた未亡人だ」


 ……は?

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