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24.婚約の理由は

「まあまあ。レオンさん、確かに権力は世襲制です。けれど地位には責任が伴うものです! 領民を守り、生活を豊かにして街を発展させなければいけませんからね!」


 おお。リリアいいことを言った。

 そうなのだ。貴族は領民の生活に対する責任があるんだ。


「守るって、なにから?」

「もちろん、他国からの侵略とか。古くは魔族との戦いとか」

「貴族は戦いになったら、民間人から徴兵して戦場に行かせるものだろ? 守るんじゃなくて戦わせる」

「そ、それは……」


 その通りだけど。


「生活を豊かにすると言いながら、税を搾り取って苦しめてるし」

「そ、そういう貴族もいるけど! うちは違う……と思う……」


 娘に、あのろくでなしの王子と婚約するよう命令した公爵家だけど、領民からは慕われてた……はず。ちょっと自信がない。


「あと街の発展って言っても、大きく便利になるのは貴族が住んでる中央部だけだろ? 端にある農村部は恩恵を受けられない。貴族が暇な時に遊ぶ施設だけが増えていく」

「ま、待って! 辺境に住んでる人も、たまに街に行けば楽しめるし! ちょっとは恩恵があるはずよ!」

「レオンさん。あまり意地悪を言わないでくださいな」


 リリアは、生意気なクソガキ相手にも優しい声で説明する。


「確かに領民全員を幸せにするのは簡単ではないです。戦争もかつてはあって、領全体を守るために領民に犠牲を強いることもありました。けど、領地あっての領民。支配者あっての領民なんですよ!」

「それはそうだけど」

「皆が幸せになれるよう、貴族たちは知恵を絞って日々考えているんです! その方法は、なにか一つの正解があるものではありません! 贅沢しているように見える貴族たちを、単純に悪いと決めつけてはいけません!」

「そっか。わかった。話を遮ってごめん。それで、領民の幸せのために努力する偉い貴族は、どうしたんだ?」

「この山の王家直轄領の領域で、金が採れることがわかったのです!」


 レオンはリリアにタメ口を聞きながらも、素直に彼女の言葉を受け入れた。ニナが言ってた、心を許したってやつかな。


 リリアは笑顔でうなずいてから、説明を続けてくれた。

 彼女もラングドルフ家の人間。マーガレットとも普段から手紙のやりとりをしていて、事情はよく知っているのだろう。


「元々この山脈では、少量の金が採れていました。ラングドルフ、ジルベット双方の領域で、です! それが、領地の財政にかなりの潤いを与えていました!」

「それで利益が出るから、領民から取る税は少なく済むってことよ」


 それはすなわち、領民の幸せに繋がる。


 ほら、私の家はちゃんと領民のこと考えてる。横暴なだけの権力者じゃないのよ。

 うん、そのはずだ。まさか支配者層で、金鉱山の利益を独占して自分たちだけ贅沢してるとかはないはず。ないわよね?


 正直、税を取られる側の民の生活をよく知らないから、私には何も言えなかった。


 それはともかく。


「王家直轄領ではこれまで、鉱石資源が見つかったことはありませんでした。金を掘るにしても、やり方がわからない。なのでラングドルフかジルベットのどちらかに委託することにしました!」

「王家からの仕事の依頼よ。報酬というか、取り分もそれに見合ったかなりの額。双方とも、その仕事をなんとかして勝ち取ろうとしたの」


 両家が王室や城勤めの宰相以下、関係する政治家や貴族に持っているコネを総動員して、自家に仕事を寄越せと働きかけた。

 在学中だった私にも指示が来た。同学年であるアーキン第二王子と接近しろ。あわよくば婚約しろ。


 それで、王家に対する発言力が増す。


 同じ内容の手紙がマーガレットにも来て、ふたりしてくだらないと笑い合ったものだ。

 家の命令だから一応は聞いてやった。あの愚鈍な男に話を合わせて、好きになってもらうよう心がけた。


 まあ、うまくは行かなかったけど。


 彼の前で何度も転んでしまったのが原因。今思えば霊の仕業だったのだけど、醜態を晒し続けたのは事実だ。


 なんの未練があったのかは知らない。王子に纏わるものかもしれないし、土地にまつわるものかもしれない。案外、全然関係ないことだったのかも。

 今となっては確かめられないな。


 マーガレットは転んでないだけ、私よりは王子との関係はうまく行ってた気がする。他の条件はほとんど同じだったし。


 学業の成績も二人揃って低かった。あの馬鹿王子よりは多少上だったけど。

 それぞれお嬢様育ちで、普段の振る舞いも似通ってた。容姿も同程度だったな。あ、胸はマーガレットの方があったな。家格はうちの方が高かったけど。


 けど、マーガレットも家の命令で嫌々王子との交友を持っていた。嫌になるねと、毎日のように話していた。


 家が些細な争いに参加している以外は、私とマーガレットは隣接した領地の貴族として親友の関係だったのだから。


 とにかく、お互いにやる気のない競争が数カ月続いて、突然終わった。


 始まりと同じく、手紙で告げられた。

 金鉱山の委託事業は我がジルベット家が手にしたこと。それから、国王陛下と女王陛下との話し合いの末、私とアーキン第二王子の婚約が正式に決まったことが手紙には綴られていた。


 学園から離れた王城の政治行為の末に、全て決まったらしい。私やマーガレットの出る幕はなかった。


「おかしくないか? ルイの関係ないところで鉱山の話が纏まったなら、婚約の話は打ち切りになるはずだろ? なんで婚約まで決まったんだ?」


 婚約から採掘委託に繋げるという流れなのに、これでは因果が逆。レオンの疑問はもっともだ。


「鉱山関係なしに、王子と婚姻して王家に公爵家の血筋を入れたかったのよ」


 家がより強い権力に擦り寄るための典型的な手段だ。

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