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23.競い合う仲だった

 さすがにそれ以降は、話の内容ゆえに声のトーンは落としたようだけど。


「それはなんとなく察せられた。死んだ理由は?」

「ルイーザ様に負けたから。公的にはそうなっています。どちらがアーキン第二王子殿下の婚約者となるかの勝負に、お嬢様は勝てなかった。家の期待を一身に背負った勝負での敗北に心を痛めて、時計塔から自ら身を投げ出したと」

「そんなはずはないわ。マーガレットが自死を選ぶはずがない」

「ええ。伯爵様もそう考えているため、私に調査を命じたのです!」


 油断すると、リリアの調子はすぐに戻ってしまう。騒がしいのは元の性格か。


「待ってくれ。婚約者の座を巡って戦ってた? ルイが?」

「なんでちょっと笑ってるのよ」

「お前が王子様と結婚ってだけでも想像がつかないのに、そうなるよう努力して競い合ってたとか無理があるだろ」

「まったく……気持ちはわかるけど」


 心底馬鹿にした態度は別として、言うことはもっともだ。


「私だって家から命じられなかったら、そんなことはしないわ。マーガレットも同じでしょう。でも事実として私とマーガレットは競っていた。いい? 対立せず、競ってたの」

「どっちが王子様の気を惹けるかを? 色仕掛けとかしたのか?」

「このクソガキ」

「まあまあルイーザ様、子供の言うことですよ! レオンさんも、あまり失礼なことを言うものではありません! いいですか、王族の婚約者選びは、妃にふさわしい人格と教養と知性があるかが重視されます! 王家の妻として対外的な公務を行い、卒なくこなすことが求められますから! マーガレット様のように! ……もちろん、お互いを深く愛していることが絶対条件ですが」

「愛し合う、か。この場合王子様が選ぶ側だよな。そいつが愛する女ってどんな奴だ?」

「それは、ルイーザ様の方がお詳しいはずですね! 噂では、聡明で人々を導くリーダーとしての素質がある方と聞いていますけど!」

「まさか」


 普段のレオンと同じような、心底相手を馬鹿にするような嘲笑が漏れてしまった。


 誰がそんな噂を流したかは知らない。たぶん、あの愚鈍な男のパートナーはそんな人がいいと望む王家や宰相たちだろう。

 肝心のアーキンは全く違う望みを抱いていたのに。


「あの男は女を内面で選んだりしないわ。外面が全て。嫁は自分を引き立てる飾り物程度にしか思ってない。で、どんな外見がいいかといえば、美人で肉付きのいい女。特に胸元のね」


 あのパーティーの場で王子の隣にいた、よく知らない女。ああいうタイプが好みだろう。


「あー……」


 レオンが私の胸元を見ながら気まずそうな声を出した。


「確かに、ルイじゃ色仕掛けはできないよな。努力で嫁の座を勝ち取ったんだな。すごいと思うぜ。……でも、ルイだって細身できれいな体だと俺は思う」

「そうですよ。ほっそりしていて、似合うドレスの選択肢が多いと私も思います!」

「ふたりともありがとう……気を遣ってくれて」


 優しさが辛かった。


 あと、レオンの言ってたことも正しい。王子を落とすには色仕掛けは有効。私には使えない技なだけ。マーガレットもやらなかったな。フェアじゃないし、令嬢としてもふさわしくない方法。

 そもそもお互い、そこまで婚約に乗り気じゃなかったし。


「なんで乗り気じゃない結婚を競ったんだ。そこがわからない」

「家のためよ。そこから先は、地図を見ながら話しましょう」

「この家に地図なんかあったかな。王都の市街地を描いたやつならあるかも」

「王家直轄領とその周りの地形図を描いたものは?」

「酒場だぞ。なんでそんなものが必要なんだ。……教会にはあるかも」

「今から行くには、ちょっと外が暗いわね。仕方ない、描いてあげるわ」


 羊皮紙にインクで簡単に地形図を書く。


 王都のある王家直轄領の北側には、ふたつの家がそれぞれ治める領地があった。ふたつとも王家領に隣接しており、ちょうど王都の真北に境界が走っている。

 西側がマーガレットのいたラングドルフ伯爵領。東側が私の家、ジルベット公爵領。


 ふたつの領地は隣接しているとはいえ、行き来は容易ではない。山脈がふたつの領を分断するように走っているからだ。というか、領の境界を山脈の稜線に沿って決めたと言うべきか。

 この山脈は、王家直轄領の北部まで伸びている。


「山岳地帯が、それぞれ三つの領に存在する。ここまではいい?」

「わかった」

「ところでレオン、貴族がなんで偉いかはわかるかしら」

「知ってる。親が偉いからだ」

「…………」


 私の唐突な質問に、レオンは即座に答えた。

 間違ってはないけど。


「親が偉いから、その地位が子供に受け継がれて偉くなる。子供は何もしてないし、なんなら親も何もしてない。そいつのさらに親が偉かっただけだから。たまたま偉い家に生まれただけで、偉そうに振る舞うことができる特権痛いんだけど」


 生意気な口を閉じさせるために、私はレオンの二の腕をつまんで力を込めた。


「スコップ持つのを躊躇うほど非力なのに、暴力は振るおうとするんだな」


 黙らせられなかった。非力で悪かったな。

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