表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四幻獣の巫女様  作者: 楪 逢月
第十二章 母なる存在への革命
494/512

五百一話「変わらないもの」

 ひとまず下僕どうこうに関しては人前で口にしてはいけないことをアオちゃんと約束しつつ。その後、うきうきと「ヒナちゃん起こしてくるね!」と自分の新たな姿を大好きな仲間にお披露目しにいったアオちゃんを見送って。そして私は、言葉に詰まった。

 何にって、珍しく拗ねたように唇を結んだシロ様にである。こっくんと同じく、予言を成就させたからか明らかに見た目が変わったアオちゃん。そんな彼女を前に色々と思うところがあったらしい。尻尾が現れていれば、不機嫌にたしんたしんと床を叩いているであろうご機嫌の斜め具合。その一端というか大体の原因は……恐らく私だ。


「……お姉さん、どうしたのあれ」

「ええ、と……まぁ、色々……?」


 流石に無視出来なかったらしく、不思議そうな表情で問いかけてきたこっんくんに引き攣った笑みを返しつつ。さてはて、どうしたものか。多分シロ様の不機嫌の理由は、『自分が皆と同じように変化しなかったこと』ではない。そんなことで拗ねるようなタイプでは無いのだ。

 ならば何故、なんて。そんなことはいちいち頭で考えなくたって、とっくに答えが出ている。ごめんと告げるように片手を立てて顔の前へ。こっくんに目配せを送れば、首を傾げながらもその意図は汲み取ってくれたらしい。小さく頷いてくれたこっくんに笑いかけつつ、私は珍しく不機嫌を全身で表現するシロ様へと近づいた。


「……シロ様」

「……なんだ」

「ええっと、その……」


 向けられたのは、不満をありありと物語る瞳。シロ様にしてはレアな子供っぽい一面にふっと口元を緩めつつ、私は背中側で手を重ねながら考える。今思っていることをどう伝えればいいだろう。いや、いいか。思ったままを、ただ素直に伝えれば。


「シロ様の言葉、疑ってなんかないから」

「…………」

「何も変化が起きなくたって、目に見える形で保証されなくたって。シロ様が私に誓ってくれたことを、約束を、私は一つだって疑わないよ」


 なんとなく、わかる。きっとシロ様が今不満そうなのは、見た目に変化が起きていないからなんて理由じゃない。自分が周りに置いていかれたからなんかでもない。私への言葉を、私が疑う理由が出来てしまったこと。それが不満で仕方ないのだ。

 シロ様は私に誓ってくれた。例外と不殺の誓いを。前に進んだ先に掴んだ答えを、その意味も教えてくれた。そこに嘘偽りなんて一つもない。私達の旅は確かに終わったのだ。だけど自分の見た目に変化が訪れていないことが、私に疑念を抱かせているのではないか。私が「変わってないね?」なんて声をかけたことが、そんな一抹の不安を抱かせたのだろう。だから。


「だってシロ様が約束を破ったことなんて、ないでしょ?」


 君の言葉を疑うことは無いのだと。それを告げれば、若干黒いオーラに包まれているように見えた少年の姿が和らいだ。というか、あからさまにそれらのオーラが消えた。目の前に立つのはいつも通りのシロ様。落ち着き払って、いつでも刃を構えられる姿。それに微笑めば、無表情のまま私を見上げた少年が頷く。


「……ならば、いい」

「……うん。変なこと言ってごめんね」


 どうやらお許しを貰えたらしい。ほっと一息吐けば、こちらを窺っていたこっくんからサムズアップを一つ頂いた。ナイス!ということらしい。ナイスも何も、私が怒らせてしまったようなものなのだけれど……まぁ、有難く頂いておこう。ぐっと親指を立て返せば、こっくんの口元が僅かに和らぐ。どうやら私も普段の調子に戻っていると気づいたらしい。

 ……よくよく考えてみれば、最近はこっくんに負担をかけすぎなような。来て早々に族長様の診察、それからは情報収集。比較的物腰穏やかで話せるタイプゆえ、話し合いにも積極的に参加してくれていたし。その上で族長様の夢への侵入方法を探してもらい、更には私のメンタルケアまで。ううん、仕事が多すぎる。もう少しこっくんの負担を減らさなくては。


「へっ、えええ……!? あ、アオお姉ちゃん!? び、びょうき……!?」

「ええ!? ち、違うよ!?」

「だっ、だって……!? ぞ、ゾクチョウ様みたいになっちゃうんじゃ……!」

「…………」


 ひとまず、今ヒナちゃんとアオちゃんの間に起こっている混乱くらいは私が。天蓋越し、聞こえてくるのは両者パニックになっているらしい女の子たちの声。それに足を進みかけたこっくんを手で制し、私はヒナちゃんが眠っていたベッドへと向かっていく。直にフルフも騒ぎ出し、この部屋で一番賑やかになったその場所へと。











「……ん、んん……? ああ、おはよ〜、ミコちゃん達」

「あ、教皇様……」


 そんなこんなで、朝に起こったちょっとした騒動を鎮めた後。昨日夕食時に決めていたよう、またしてもアオちゃんのご両親の部屋へと向かっていた私達。しかしそこで出会ったのは、昨日からすっかりと姿を見失っていた教皇様で。


「そういえば昨日、途中から姿が見えなかったですけど……」

「長老くんからの頼まれ事があってね〜。無事任務完了して、その後はソウちゃんの傍に居たの」

「頼まれ事……?」

「まぁ、それはおいおい」


 そういえば、図書館でちょっとした騒ぎが起こった時辺りからずっと姿が見えなかったような。あの晩餐会にも参加していなかったし……と思い問いかけるも、曖昧に美しい笑顔で流されてしまい。もしかして、聞いてはいけなかったことだろうか? 

 アダマくんからの頼まれ事、というのは少し気にかかる。このタイミングでのそれは、決して今回の件とは無関係ではないような気がしたのだ。だけれど若干笑顔に滲んで見える疲労感を前にすると、無理に問いつめることははばかられてしまい。多分またあの俺様何様長老様に無茶振りをされたのだろう。二人の関係はよく分からないが、傍から見ていると我儘な弟となんだかんだ甘やかす姉……のようなイメージだ。


「それで、ヒゴンさんから聞いたのだけれど。ソウちゃんの夢に入るって、本当?」

「事実だ。アオを先導に、我が侵入し奴を斬る」

「ふーん? まぁ単体の戦力として、今この世界に君に適う人はそう居ないわよね〜」


 下手に歳上なのも大変なのだな……と同情を込めて教皇様を見つめていると。突如緩い笑顔を引っ込めたかと思えば、彼女は真剣な表情でこちらを見返した。切り込んできた、その表現がしっくりとくる問いかけ。恐らく聞きたくて仕方なかったのであろうその問いに、私より前に出たシロ様が淡々と答えを返す。その答えに対する返答すら、どこか意味深で。


「それで、ここからが本題なんだけど」

「……嫌な予感がする」

「あら〜、こっくんったら辛辣。でもまぁ、アタリかも?」


 すっかりと昇りきった太陽に照らされて目覚め、わずかにざわめき出した城内。聞こえてくる小さな物音に話し声は、恐らくは使用人の方々が働いている証だ。だけれど貴賓室が近いからか、私達の周りに人は居なく。

 まさしく内緒話にはびったり。唇を釣り上げた教皇様に、こっくんが露骨にげんなりとしてみせる。多分こっくんには、彼女の言いたいことがわかっていたのだろう。そしてそれは私も同じだった。こっくん曰く、族長様の夢に同時に入れそうなのはアオちゃんも含めて最大三人。そのうち二人目はシロ様。まだ、空きはある。


「私もその夢の旅に、同行させてくれない?」


 その空きに、親友が大好きらしい彼女が滑り込んでこないわけがないのだと。華やかな笑顔に込められた圧に、私は口の端を引き攣らせる。シロ様が前に立ってくれていなかったら、足を思わず引いてしまうような。そんな押しの強さが、今の彼女にはあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ