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四幻獣の巫女様  作者: 楪 逢月
第十二章 母なる存在への革命
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四百四十五話「代償と選択」

「……まぁいい。貴様の言う通り、ミツダツ族の領地に向かうのはほぼほぼ決定事項だ。そして仮にあのリンガ族の男が関わっているならば、ミコ達が行く道理もある」

「……うん、そうだね」


 教皇様の勢いに若干呆れてはいたものの、アダマくんとしても族長様の様子を見に行くことは必要だと考えているらしく。咳払いを一つ、佇まいを正して告げた青年に私は小さな頷きだけを返す。族長様のことが心配なのは勿論そう。アオちゃんに会わせてあげたいのも当然のこと。それらは大前提として、その上で私達には彼女の……神様の予言がある。

 まだ推測に過ぎないが……この旅は、アオちゃんにとって何か意味があるものなのではないだろうか。彼女の言っていた、「姫は革命の旗を掲げる」の部分。それを成すためのものであったり、とか。とはいえ革命にも、旗にも、何一つぴんと来ていないのが現状ではあるのだけれど。


「だとして、旅路はどうする気だ教皇」

「……飛んでく?」

「その方法をこいつらの全員が取れると本気で思っているのなら、一度自分の脳味噌を取り替えることを視野に入れるんだな」


 革命。それは理不尽な支配を受けていた人が、権力者を倒して権威を手に入れる……といった意味合いで使われることが多い気がする。だけどアオちゃんはどちらかといえば族長様の孫で、権力者側の方だ。アオちゃんの上に立っている人はその両親や族長様くらいのもの。仮に革命を起こす相手を彼らと仮定するにしても、アオちゃんを愛してくれていた家族にアオちゃんが革命する理由はないような。ううん、わからなくなってきた。

 と、色々考えている内に話は進んでいたらしく。教皇様の無茶ぶりへ容赦ない毒舌を浴びせたアダマくんに、私は表情を引き攣らせた。いやまぁ、言っていることは正しくはあるのだが。流石に言い過ぎじゃないだろうか? ほら、教皇様が涙目になっている。いつもよりなんというか……抜けている?気がするが、多分親友のことで気が気ではないのだろう。その辺を考慮してあげて欲しい。


「……話を戻す。事は一刻を争う、故に今回もゲートを作るのが確実だろう」

「!? ちょっと、それ本気で言ってるの……!?」

「俺は冗談は好かない」


 しかしそこで涙目だった教皇様の表情が、二人のやり取りで若干緩んでいた空気が、一気に真剣なものへと変わる。ゲート。それはズェリの街から、レイブ族の住まう本拠地であるここ黎明の杜に移動する時にアダマくんが使ってくれた術だったはず。急いでいる今の状況において、喉から手が出るほどに欲しい移動手段だが……何故、教皇様はそんな顔を?


「……その、前も思ったんだけど。あのゲートって、気軽に使っちゃいけないものなの?」

「そうとも言える」

「そうとしか言わないわよ……! あのね、アレには代償が付き物なの!」


 待て、そういえばあの幻夜遊路で初めてアダマくんと話した時も。教皇様はゲートを使うことに反対の姿勢を見せていたような。ゲートは長距離移動を一瞬でこなす反則級の法術だ。しかしそれほどの術が、一個人の法力だけで賄えるとは思えない。教皇様の反応を見るに、もしかして何かしらの反動や代償があるのでは。

 そう思って問いかければ、アダマくんは煙に巻くような言い方をした。さりとてここには真実を知っている人がもう一人いる。気色ばんで肩を怒らせた教皇様は、一度アダマくんを睨みつけた後にこちらを振り返った。そうして眉を八の字にしたかと思えば、恐る恐ると口を開く。


「……あのね、ミコちゃん。アレは寿命を代償にする、レイブ族の長老のみが受け継ぐ三大秘術の一つなの。だからおいそれと使うものじゃないんだから!」

「寿命……!?」


 だけどそれは、予想外の事実で。寿命を、減らす……? それは禁忌には指定されていないのだろうか。いや待てよ、アダマくんは既に私達をここに呼び寄せる時に一度その術を使った。ということはアダマくんの寿命は、勿論その時にも削れて……?


「レイブ族の寿命は長い。幻獣人の中でもミツダツとそう大差ない程だ。寿命の少しくらい削っても支障はないが」

「そんなんだから長老ってのは毎回短命なのよ……! 今まで術の継承が途切れてないのが不思議だわ!」

「記録を途切れさせることなど、俺達には有り得ぬ話だ」


 ひゅっと心臓の辺りを空気が掠めたような感触。それは教皇様の、「長老は短命」という言葉によってより鮮明になっていく。言い返す彼の言葉もろくに頭に入ってこない。アダマくんは最初は怖かったけれど、今となっては友達のようなもので。だから心は明確に告げる。それをしては、アダマくんの寿命を減らしてはならないと。だとして、そのために私に何が出来るのだ。


「……この女の戯言で躊躇いが生まれたようだな、孫娘。だとして、どうする?」

「……!」

「急がねばお前の祖母が死ぬことになるかもしれない。お前は家族を喪失することになるし、族長の死は今において相当な痛手だ。その結果がお前の身近に居る者を更に喪わせることになるかもな」


 ……だって、そう。アダマくんの言っていることは正しい。教皇様を一度鬱陶しそうに見やったかと思えば、目隠し越しの瞳が射抜いたのは顔色がまた悪くなったアオちゃん。彼はそんな美少女の様子を気にも留めずに、つらつらと客観的な事実だけを語っていく。選択肢によって変わる、そのリスクの大小を。

 事は一刻を争う。アオちゃんが家族を喪うことにならないように動くのもそう、世界の滅亡が迫っているこの時に族長様を喪う訳にもいかないのもそう。故に私達は急いで族長様の元へ向かう必要があるわけで。それにアダマくんの寿命を代償にする……という判断は、今の状況において必要な犠牲であるのだと。それは正しいとは言いたくないけれど、非常に合理的な選択だ。


「あ、たしは…………」

「ちょっと長老くん……!」

「黙れ教皇。……お前が選べ、お前に資格があるのだから。大して親しくもない男の寿命を減らすか、祖母や大切な人を喪う危険を受け入れるかを」

「っ、……!」


 その選択を、アダマくんはアオちゃんへと迫る。恐らくは押せば受け入れると思ったが故。或いは、この状況下において誰よりも道を選ぶことにふさわしいと思ったからか。アオちゃんの瞳は揺れていた。迷っていた。泣きそうな色を瞳に浮かべながらも、泣くことはしない。だけれどそれはまるで、海の中で溺れてしまったかのように苦しそうで。


「……そこまで。アオ、そんな思い詰めなくていいよ」

「こ、っくん……」

「今、ちょっとした方法を思いついたから。長老の受ける代償を減らせる方法を」

「えっ……?」


 どうにか第三の選択を。アダマくんの寿命を縮ませずに、族長様の元へと急ぐ方法はないかと頭をはたらかせていたところ。どうやらそれについて考えていたのは私だけではなかったらしく、緊迫したこの空気の中やけに冷静な声が上がった。こっくんの涼やかな声が、この状況を変えたのだ。

 優しくアオちゃんの頭を撫でたかと思えば、ちょっとだけ得意げに微笑んで。それに小さく声を上げたアオちゃんを、目を見開いた教皇様を、興味を引かれたように視線を動かしたアダマくんを。それら全てに小さく頷くと、こっくんは最後に私の方へと視線を向ける。その理知的な黒い瞳を、信頼できなかったことなんてない。


「……そんなわけでお姉さん。アレ、ばらしていい?」

「……! うん。それが必要なら、勿論」


 だからこっくんが今までわざと隠していた、私の糸くんのもう一つの力。付与のことをばらすと言われても心配なんて何一つなくて。笑顔で頷けば、小さく微笑みを浮かべて頷いてくれたこっくん。彼は付与の力のことをこの場にいる面々に告げると同時に、こう告げた。


「代償の次第によっては、お姉さんの付与の力を使って退けることが出来ると思う」


 と。

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