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四幻獣の巫女様  作者: 楪 逢月
第十一章 春雷を以て全てを
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四百三十九話「夢辿り」

「……成程、つまりあの人はリンガ族と」

「ああ、そうだ」


 場所、今度こそは現実のアダマくんの屋敷にて。私が起きた瞬間にわんわんと泣いて縋り付いてきた女の子たちを慰めた後、私は儀式の成功を集まっていた面々によって聞かされた。そしてその後に、何が起こったのかも。


 賢者達からの妨害も防ぎ切り、こっくんによる神様の法力鎮圧作戦も成功。諸々の準備の甲斐あって、私の夢は無事に用意していた宝石に収まったらしい。そうなると後はその宝石の夢を引き出して見るだけ。

 儀式が成功して夢を宿すようになると夢見石と呼ばれるようになるそれから、アダマくんは早速夢を引き出した。なんでも一度夢を宿せば何度だって見ることが出来るようになるので、取り敢えず観客であるレイブ族達を満足させようと上映したのだとか。誰もが見えるように中心に大きな水壁を張って、そこに私が見た彼女に関する夢の最新の記憶を映し出した。そしてそこで、皆は異常事態に気づいたのだ。


「まさかリンガ族が直々にやってくるとは。しかもあの角……現在の神主でも不思議じゃない」

「……神主ってのが、リンガ族における長老とか教皇的な呼び名なんです、……なの?」

「ああ。お前はそれに目を付けられたというわけだ」


 最初の夢写し。そこに描かれたのは、私と彼女の記憶じゃなかった。今回の記憶は私の中にだって残っている。あのぞっとするほど美しくて、それと同じくらい不気味な雰囲気を詰め込んだような彼。アダマくん曰くリンガ族であり、恐らくは敵対存在である彼が、私達の夢に侵入してきたのだ。

 神主、リンガ族におけるトップの名称。その可能性も十分に考えられるらしい、あの人が。道端の石ころでも見つめるような冷たい瞳と開いた瞳孔。あの金色を思い出す度に背筋に氷が落ちるような感覚になる。あれらは間違いなく無関心で、それと同時に殺意だった。私という人間に興味は無いけれど、邪魔だということは認識しているような。


 ……まぁ、その辺は一度置いておくとして。話を戻そう。神主と思しきリンガ族が私の夢に出てきて、そうして水壁に映された時、会場はパニックになったらしい。神様が出てくる夢、と聞かされておきながら現れたのが人類の敵だったらそうなってもおかしくはないだろう。

 だがそれ以上に、シロ様を筆頭に家の子達が混乱に陥った。私が夢であんな危険分子と出会っていたことと、夢覗きの儀式が終わったのに中々目が覚めないこと。それに何かしらの因果関係があるのではと焦りだしたのだ。そうしてその推測はあながち間違いではなかった。


「夢の終わり、神様がお姉さんを逃がした。だけどあいつは、諦めなかった」

「……それでお姉ちゃんは、迷子になっちゃったんだって」


 こっくんが私に何かしらの守りを施す横で、腕にしがみついたヒナちゃんが涙声で告げる。夢の記憶は今回は私にもある。あの男の人と相対して、そうして殺されると思った時。突如私の背後に彼女が現れて、私を逃がしてくれたのだ。だけどそれは夢の終わりではなかった。事情は詳しくはわからないが、彼にとって私はとんでもなく邪魔な存在らしく。みすみすと逃がすわけにはいかなかったと、そういうことである。

 彼は彼女の力で現実へと逃げていく私を、引き寄せて殺そうとしていた。その力が衝突しあった結果があの夢と現の世界。シロ様が迎えに来てくれて現実に引き戻してくれたからよかったものの、仮に私があそこで眠っていたとしたら夢の世界へと逆戻り。私は彼と再会する羽目になっていたんだとか。ぞっとしない話である。


「だからタァパくんがミコ姉と一番繋がりが深い人、つまりシロくんに夢渡り?の術をかけてくれて、引き戻しに行った……であってるよね?」

「ああ。お前が言っていた、我があの男の姿に見えていたというのはそういう理由だろう」

「そっか……」


 そうしてぞっとしたのは私だけではなかったらしく。映された夢を見て異常事態に気づいたシロ様達は、すぐに行動に移してくれた。このままでは私が殺される可能性もあると、私の夢に渡る方向に儀式をシフトチェンジ。恐慌状態だったレイブ族達を見守っていてくれた教皇様に任せて、アダマ君達と私の救出作戦に移ったらしい。

 そこで活躍してくれたのがタァパさん。タァパさんは何でも普段は夢に関する研究をしているらしく、今回の件でアダマくんに侍っていたのも影の一族というよりはそちらが理由だったんだとか。夢に関する法術に関してはアダマくんよりも知識深い彼は、シロ様に私の夢に入るための法術を施してくれた。そのシロ様に手を引かれることで、私は無事に帰ってこれたというわけである。最初シロ様の姿がタァパさんに見えていたのは、その時かけた法術の名残だったとのこと。


「タァパさん、今回もありがとうございました。下手したらその、死ぬところだったので……」

「いえいえ〜! 仕事なんでね! それにミコさんは、長老様にとっても大切な人だから……」

「ううん……」


 ……この軽い様子を見ると、本当に?なんて疑いが首をもたげるのだけど。きゃっ、と自分の体を抱きしめてふざけたタァパさん。そんな彼に突き刺さる視線が一つ、二つ、三つ、四つ。誰がその視線を向けたかに関しては黙させていただく。とはいってもわかりきってる気がするが。あとその大切な人って、人と書いて実験対象って読むやつだと思います。


「……ともかく。ミコ、お前は暫くその白いのと糸とやらを繋いで眠った方がいい。名を交換しあっている、と聞いた」

「あ、うん。まだあの人が諦めてなくて、夢に現れるかもしれないってことだよね?」

「そゆことそゆことー。まぁもっかい女神様と交信しない限りは可能性なんてゼロに近いですけどもー。俺もシロくんに法術かけとくから、暫く二人は夢でも一緒ってことですねー」

「…………」


 とのツッコミはこの場を凍らせることにしかならなそうなので黙っておくことにしつつ、アダマくんからのお医者さんのような忠告に私は素直に頷いた。あの人と一人で向かい合うことになるのは二度とごめんである。それを想像するだけで眠れなくなりそうだし、シロ様が夢にまで付いてきてくれるというのは正しく私にとって渡りに船の提案だった。

 でもシロ様としてはいいのだろうか。夢を共有するなんて、プライバシーの侵害も甚だしいと思うのだが。と、そこでシロ様をちらりと見つめたところ。タァパさんの言い方が嫌だったのか不快そうな顔をしていたシロ様は、しかし私と目が合うとその表情を引っこめて小さく頷いてくれた。問題ないということらしい。それなら心から安心してよさそうである。柔らかな色を湛えた二色の瞳に、安堵から小さく笑みを浮かべると。


「そこで安心された顔されると、我らが長老の負けが確定って言うか。いや逆にノー意識ならワンチャン……?」

「黙れ減給するぞ」

「ヒェッ……地獄耳の独裁政治……」


 何故か突然、アダマくんがタァパさんの頭をどついていた。何も聞こえなかったが、また何か余計なことでも言ったのだろうか。こころなしかシロ様の視線も胡乱げになった気がする。そんなに変なことを……? 何を言ったのかちょっと気になってきた。


「……ともかく、お姉さんの夢を見ない? 俺も一通り守護の法術かけ終わったから。ヒナとアオもおまじないは終わっただろ?」

「うん! お姉ちゃんがわるい夢見ませんように……って」

「ミコ姉、これで大丈夫だからね!」

「三人とも…………!」


 けれどその一瞬浮かんだ好奇心は、すぐに私の中で奥底にまで沈められる。ぎゅっと両腕に抱きついた天使達からの笑顔と、私の背後で何やらずっと術をかけてくれたらしいこっくんの優しい声に私の心はいっぱいいっぱいになったからだ。私をこんなに案じてくれるとは、なんていい子達なのだろう。その思いやりだけで、悪夢なんてしっぽを巻いて逃げ出す気がした。

 そうして私がヒナちゃんとアオちゃんに感謝のハグを贈り、そしてこっくんに感謝のハグを贈ろうとして逃げられている内。その間に夢を見るための準備は淡々と進んでいき。そうしてレイブ族達を宥めていたという教皇様が戻ってきたところで、私達は全員で私の夢を見ることになった。どこか見覚えのある宝石を、アダマくんが手のひらに置く。それが始まりの合図。


「……ミコ、我の隣に」

「うん」


 一応はシロ様と糸を繋いで、そうして隣に座って。そして私は水壁に私の夢が映される瞬間を今か今かと待っていた。アダマくんが場に集まった全員を見遣る。全員が全員、準備万端なのを悟る。そして夢は水壁に映された。私が彼と出会った夢に始まり、私がこの里で見た時の夢。そしてピリア村、ウィラの街。そうやって見ていた夢を、遡るように。

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