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四幻獣の巫女様  作者: 楪 逢月
第十一章 春雷を以て全てを
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四百十一話「神と幻獣のぶつかり合い」

「……って、怪我!?」


 てん、てん、てん、と。衝撃の光景を前に、まるで昔見たアニメのように脳裏に三つの点が過ぎった。というか、それくらい困惑して思考が止まってしまったのだ。いやこれ、どういう状況!? 私は確か衆人環視の中寝かされて、そしてアダマくんに法術をかけてもらっていただけのはず。それがどうして起きたらこの有様なのか。

 慌ててシロ様に事情を尋ねようとしたところで、私はまたしてもショックを受けることに。なんと、ぼろぼろになった布団の上で私を抱えていたシロ様の顔に傷がついていたのだ。いやついていたのが徐々に消えていっている、と言う方が正しいか。恐らくは先程出来たばかりであろう傷は、クドラの瞳の効果で私が触れる頃には血の線だけ残して跡形もなく消えていた。というかよく見たら、シロ様血まみれでは!?


「な、何が、何が起こって……!? シロ様、なんでそんな怪我……?」

「問題ない。少々出血はし過ぎたが、左目が暴走で傷つくことはなかったのでな」

「出血をし過ぎただけで大分大惨事だよ!?」


 部屋の崩壊っぷりが半端なく最初は気づけなかったが、よくよく見れば辺りには血痕がちらほら。何があったのかはまるでわからないが、シロ様は先程の傷のようなものを作っては再生して……というのをかなり長い間繰り返していたのではないだろうか。

 本人の証言曰く何故か左目……私があげた黒い方の、今となっては『クドラの瞳』なる産物に変わったそれは傷つかなかったようだが。けれどその効果で死なないからといって、傷を負って血を流していい理由にはならない。なんでこんなことになったのだろう。シロ様は今暴走と言った。それが指し示す意味は……。


「……私の、せい?」

「……ミコ」

「私が寝てる間に何か、暴走、したの?」


 もしかしてシロ様のこれらの傷は私のせいなのではないか? 私が何か暴走したせいで、シロ様は大量出血に至る傷を全身に浴びせられたのではという推測。その結論に辿り着いた瞬間、ひゅっと喉の奥が詰まって一気に呼吸がしづらくなった。私が、シロ様をこんな血まみれになるくらいに、傷つけた? その『もしかして』は強烈な一撃となり、私の頭を殴り付けた。


「ごめ、ごめん、ごめんなさい……! どうして、なんで、私……!」

「ミコ、」

「また私のせいで、私の大好きな、大切な人が……! ごめんなさい、ごめんなさい、いや、いや……!」


 呼吸もままならないまま、パニックに陥ってひたすらに謝罪を繰り返す。どうして、なんでそんなこと。なんで、なんでなんでなんで? 糸くんを制御出来るようにと学んで、ちょっとは使いこなせた気になって。でも、もしかして、それが良くなかったのではないか。そうやって力を強化したから、今回のことが起こってしまったのではないか?

 無自覚のうち私はあの時とまた同じことを繰り返し、大切な人を傷つけたのかもしれない。そう思うと本当に、心から消えたくなった。涙が勝手にぼろぼろと溢れて、声は回りづらくなった酸素を使って意味の無い言葉の羅列を繰り返すのみ。どうしよう、どうしよう。やっぱり私は誰かを傷つけるだけのいらない子で、今度はシロ様まで……。


「ミコ!」

「っ、」


 そんな一種の恐慌状態になりかけた私を、ふと強い腕が抱きしめた。聞き慣れた声が強い音を以て私の名前を呼ぶ。すると、何故だろうか。私の思考はその抱擁にぴたりと鎮められ、脳内に残ったのは聞こえてくる鼓動の音だけ。私よりもずっとゆっくりだけれど、確かに生きていることを教えてくれるシロ様の音だけになった。


「……落ち着いたか?」

「……う、ん」

「ならいい。そして最初に言っておくが、この事態はお前が招いたものではない」


 自分でも不思議なくらいに落ち着いて、呼吸が楽にできるようになったこと。それを怖々とした頷きだけでシロ様も理解してくれたらしい。ゆっくりと身を離して元の状態……最初抱き上げられていた状態まで戻すと、シロ様は私がちゃんと理解できるようにかきっぱりと告げる。この大惨事は私が引き起こしたものではないのだと、そう確かに。


「夢覗きの儀式。それに長老が失敗した。夢を釣り上げるところまでは順調だったが、その後状況は予期せぬ事態を迎えた」

「……予期せぬ事態?」


 そこからシロ様は軽い混乱状態の私でもわかるよう、どういう経緯でこうなったのかを説明してくれた。なんでもこの儀式は本来、眠っている相手からゆっくりと記憶を引き上げそれを水晶玉に映すものだったらしい。当然そんな記憶を映せるような水晶玉は希少性が高く、映す前の引き上げる過程でも高価な材料をいくつもと必要とする……というのは今は置いておいて。ひとまず、私の夢を一旦引き上げること自体にはアダマくんは成功した。


「ああ。引き上げたと思った瞬間お前の記憶は長老の制御を離れ、お前へと戻った。しかしその時お前の中にはお前のものでは無い、恐らくは神の法力が渦巻いていた」

「…………」

「それがお前の記憶を包んでいた長老の法力と最悪の干渉事故を起こした。レイブ族の長たる長老と、推定神の法力。力の強い者同士の法力が干渉し合い暴走し合い、この事故とへと繋がったわけだ」


 しかしそこで問題が発生。私の記憶を引き上げたタイミングでアダマくんはそれを制御できなくなってしまい、落ちてしまった記憶は私の中に入るもそこで法力の暴走が巻き起こってしまった。アダマくんの法力と私にあの夢を見せていた人……恐らくは神様の法力が、激しく干渉したのではということらしい。

 予期せぬままぶつかりあった二つの法力暴れに大暴れ。法術の失敗どころか、用意していた道具は全て大破。そんな中皆がこの部屋から避難したところで外から誰かが結界を張り、なんとか被害をこの部屋だけに留めた。そして今に至るとのこと。


「……皆、怪我は……?」

「すぐ避難したから無事だ。が、ヒナとアオは酷い表情だった。早めに顔を見せた方がいい」

「…………」


 話を聞いて最初に気になったのは、シロ様以外の人が怪我をしていないかということ。だがそこは大丈夫らしい。それにひとまずほっとするも、続いた言葉に心は重くなる。酷い表情、か。それはそうだ。こんな事故が起こった以上二人には、そしてこっくんにも。きっとすごい心配をかけてしまったに違いない。だからシロ様の言う通り早く顔を見せてあげるべきで、でも。


「……これに関しては想定外が重なったところがある。過去の記憶を拾い上げるだけならば、神の法力はそこに無い。術は問題なく成功しただろう。しかしミコ、お前はまた神の夢を見た……いいや、見せられたな?」

「うん……」


 ……過去の夢を引き上げるなら、それは私にとってはただの記憶。法力同士の干渉は発生しないはずだった。恐らくはアダマくんも、そのつもりで儀式に挑んだのだろう。けれど今回私はまた彼女の夢を見た。それは彼女側からの干渉であり、恐らく彼女は法力を使って私に夢を見せている。その影響か何かでアダマくんの術が失敗し、この大惨事になった……というわけだ。

 しかしそれなら、今回の件は私が夢を見たから起こったのではないか。私がたとえば、いくら記憶を思い出すとは言え彼女のことを考えすぎたから。もう少し上手く調整できていれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。ちゃんと上手く成功して、今頃は皆で私の記憶について話せていたのかもしれない。……なんて、考えても無駄なのに。本当に制御できたかどうかも分からないのに。どうして私はいつも、こんなことを考えてしまうのだろう。後ろ向きに考えたって、いいことはないのに。


「偶然か、或いは想うことが彼の者を呼び寄せたか。どちらにせよ、今回の件は誰かに想定できることではなかった。お前に……いや、誰にも咎は無い」

「……!」

「誰にも、何も出来なかった。その無知が罪ならば、我とて同じ罪になる」


 けれどそんな思考は、すぐさまシロ様に掬い上げられた。情報が少なく、それを想定できる人なんて誰も居なかった。だから私のせいでも、誰のせいでもない。そうきっぱり言い切るシロ様の声に嘘はなくて。いつも通りのその声に私はまた涙が目頭に滲むのがわかった。


 でも。


「……シロ様はどうして、私を抱えてたの?」

「…………」


 ただ安心して「良かった」と、「慰めてくれてありがとう」と抱きつく、その前に。確かめなければいけないことが一つある。私のその質問に、シロ様はぴたりと閉口した。そう、今の話を聞くならシロ様も避難して暴走が終わるのを待っていればよかったはず。だと言うのにシロ様は何故かこの場に留まり、私を抱き上げる形で暴走による被害をその身で受け続けた。

 それが何故かは、わかるような気がして。けれどどうしても、本人の口から聞かなくてはいけないような気がして。そして長い長い沈黙の末、私を抱え直したシロ様は渋々口を開いた。


「お前に危険がないか見張るためだ」


と。

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