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四幻獣の巫女様  作者: 楪 逢月
第四章 飛べる小鳥は星火の夢を見る
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百四十七話「質問タイム」

「じゃあ色々話してもらうからね!」

「…………」


 そんなこんなでちょっとした? ハプニングもありながらも今後の方針を決めた私達。話も終わったことだしと部屋を出ていったレゴさんを見送ったその数分後、私はシロ様に詰め寄っていた。いや残念なことに大して動けないので、位置は変わらずベッドの上のまま。詰め寄ってるのは心情だけなのだが。

 ふんふんと鼻息荒く息巻く私に大して、シロ様はスンとした真顔である。ちなみに現在はシロ様もヒナちゃんも自分のベッドへと戻っていた。本当に軽く頭痛がしたというか、どこかにトリップしてしまってたと言うか、それだけなので。どうせ意識を失ってもベッドに倒れ込むだけだと言った時の二人の顔は相変わらず心配そうではあったが、納得はしたのだろう。とはいえ、先程よりも注意深く見られているような気がしないではないが。


「……まずお前の話が先だろう。先程の頭痛と、北に行きたいと言った理由はなんだ」

「ええ? そう聞かれても、特に話せることはないしなぁ」


 ほら、これである。どうやら話云々よりも私の状態の方が気がかりらしい。詰問するかのような厳しいシロ様の口調に眉を下げながらも、私はゆっくりと首を傾げた。そう、話せることなんて無い。強いて言うなら知らない人の声が聞こえて、どうしても北に行かなきゃいけないと思っただけ。神様のお告げみたいなのを受け取った、とでも言えばいいのだろうか。頭がやばいやつだと思われなければいいが。


「うーん……起きる前に夢を見ててね。それを思い出したと言うか、急に記憶を引き出されたと言うか?」

「夢?」

「うん。正直殆ど覚えていないんだけど、北に行って……あと、何しろって言ってたんだったかな」


 まぁ二人がそんなこと思うわけがないので、とりあえず話せることは全て話しておくこととする。とはいっても、やっぱり情報量なんてないに等しいレベルの話なのだが。要領を得ない私の話に、厳しく眉を寄せたシロ様。その表情の理由が、私の記憶力の低さに呆れているとかでないといいのだけれど。

 

「さっき見たの、覚えてないの?」

「う……! いやなんか、夢ってそういう感じ、だしね……?」

「そうなの……?」


 違った。呆れてる、というか疑問を抱いていたのはヒナちゃんの方だった。心底不思議そうな声音に気まずさと身体上の問題からぎこちなく振り返れば、そこには純粋無垢な瞳でこちらを見つめるヒナちゃんの姿がある。うぐ、とても胸が痛い。決して馬鹿にしているわけではないのだろうが、こうも無垢に「どうして?」と問いかけられると自分がとてつもなく馬鹿なような気がしてくる。別にヒナちゃんにそんな意図はないのに。

 頬を引き攣らせながらも雑に誤魔化せば、こてりと首を傾げながらもヒナちゃんは頷いてくれた。そう、夢はすぐ忘れるもの。私の記憶力に問題があるわけではない。そもそも寝起きに色々情報量を叩き込まれた時点で、曖昧な夢を覚えておけるわけがなかったのだ。私は悪くない。……多分。


「……まぁいい。それで、話だったか」

「! うん。シロ様がディーデさんと喧嘩した話でしょ、二人が私が寝てる間どこで何をしてたかでしょ、それと北に行くって決めた理由と……あ、あと馬の話! 今どこでお世話してるの?」


 それ本当? と言わんばかりのピュアな視線にじりじりと押し負け始めていた私。しかしそんな私に救いの手は差し伸べられた。これ以上私を絞ったところで建設的な話は出来ないと悟ったのか、話を聞いてくれる気になったらしいシロ様。私はその声に出来るだけ急いで振り返りながらも、矢継早に問いかけた。そう、聞くことはいっぱいあるのである。目眩がしそうな程に。


「はぁ……ならまず、兵団でのことから話すが」

「うん」


 私の言葉で思ったよりも話すことが多いことを悟ったのだろう。疲れたように細い溜息を零しながらも、シロ様は口を開いた。さっさと話して終わらせる。そんな態度が透けて見えないでもないが、私としては話してくれるならなんでもいい。シロ様の私への態度がこんな感じなのはいつものことだし。


「最初に言っておくが、喧嘩はしてない。したのは手合わせだ」

「……手合わせ?」

「結論から話せば、キメラの討伐に我が関与していたことが気づかれていたらしい。それを見極めるためのテストだとあちらから呼び出しを受けた」

「て、テスト……?」


 けれど話は大分斜め上のところに飛んで。予想だにしていなかった話に、言葉をオウム返しすることしか出来ない。キメラの討伐にシロ様が関わっていたことがバレた。まぁそこまでは多少しょうがないかな?とは思わなくもない。だって小柄な少年があんな大きな化け物を薙ぎ倒して回っていたら、それは目立つだろう。いくらシロ様と言えど姿を消せるわけではないし。

 だが疑問なのはそこからだ。何故関与していたことがバレて、テストと言う名の手合わせが始まるのか。別にシロ様はここの兵団に入るわけではないし、テストを受ける必要はないはずだ。まさか戦闘力を認められ強制的に入隊させられそうになった、とかだろうか。いや、だとしたらシロ様がテストを受けるわけがない。


「ボコボコにしてやった」

「何してるの!?」


 しかし聞きたいことを尋ねるよりも早く、要らない情報だけが与えられる。ふんとどこか自慢気に語るシロ様に私が出来ることと言えば、突っ込むことくらいだった。勝敗なんて聞かなくてもわかっているのだから、諸々の疑問に答えてほしいのだが。さりとてその突っ込みは、ちょこちょことシロ様のベッドに寄っていったヒナちゃんによって打ち砕かれ。


「シロお兄ちゃん、かっこよかったよ!」

「そ、そっか……」


 はにかんでそう笑われてしまえば、それ以上私に出来ることはない。私が一々首を回してるのに気を遣ってか、一度伺いを立ててからシロ様のベッドに座ったヒナちゃん。確かにそうしてもらえれば、一々ぎこちなく首を回さなくていいからありがたい。ヒナちゃんの優しさに感涙でむせび泣きそうである。今しがた暴力全開のお言葉を賜ったばかりなのもあって。

 折りたたまれた膝に、跳ね回ったことで疲れたのかぺしょりとしているフルフが乗る。そのヒナちゃんの優しさにか、それとも褒めてもらった礼なのか、ぽんぽんとヒナちゃんの頭を撫でるシロ様。うん、絵面があまりにも可愛い。もうこれだけ可愛いなら何でもいいかな、と思うレベルだ。私はそっとシロ様がディーデさんをボコボコにしたという情報を忘れることにした。ディーデさん、ごめんなさい。そんな謝罪の言葉と共に。


「……え、ええと。なんでテスト、なんて話になったの?」

「ああ。我はあの時途中から姿を消してキメラを倒していたのだが、姿を露わにしてた時に助けた男が居てな。そいつが我のことを兵団に聞いたらしい」

「ちょっと待ってほしい」


 とにかく気を取り直して話を再開した私。けれど開始数秒でまたしても疑問点は浮いてくる。姿を消して倒していた? まさかついにシロ様は光速レベルのスピード感を手に入れて、それでキメラをしばき倒して回っていたのだろうか。それは最早チーターとゴリラのキメラである。いやシロ様は虎なのだが。

 おかしい。疑問を解決するために話を聞いているはずなのに、次々疑問点が出てくる。叩けば叩くほど出てくる埃じゃあるまいし、この現象は一体何なのか。私としてはさらっと全容を聞いてそっかぁ、って感じで話を済ませたかったのに。


「……言っておくがあの呪陣を改良して符にしたのを作っておき、それを使っただけだぞ」

「あ……」

「法力の消費が激しいのが難点だが、使い勝手はいい」


 けれど存外疑問はあっさりと解決して。ああそうか、あの呪陣を使っていたのか。確かに符にしてぺたりと貼り付ければ、人間でも使えるかもしれない。よかった、私が知らないうちにシロ様までもがキメラに進化したわけじゃなくて。シロ様にはゴリラ……じゃなかった。虎のままで居てほしい。


「……えっとつまりその符を使う前に助けた人が居て、その人が兵団かなにかにシロ様のことを問い合わせたのかな? それでシロ様のことが割れたけど、その情報が確かじゃないからディーデさんがテストしたと」

「それでボコボコにした」

「それはもういいかな」


 特に異論や訂正がなかったということは、つまりそういうことなのだろう。どうしても主張したいらしいそれから目を背けつつ、私はようやく納得が出来たと安堵した。まず二人がしていたのは喧嘩ではなく手合わせで、それには一般の人からのタレコミ?が確かなものなのかを確かめる意図があった。シロ様が途中から姿を消して戦っていた以上、他に目撃者が居なかったのだろう。

 それで戦うことになって、シロ様が勝ったと。うーん……団長が華奢で儚げな雰囲気の少年にボコボコにされる光景、か。ディーデさんの威厳に影響が出ないよう、出来るだけ目撃者が少ないといいのだが。だが「かっこよかった」とはしゃぐヒナちゃんのにこにこ顔を見るに、その可能性は低い気がする。ディーデさん、本当に色々すみません。


「でもよく受けたね? 面倒事になるから、って断りそうなのに」

「クドラ族は決闘を断らない種族だ。相手が誰であろうとその掟は破れない」

「な、成程……」


 内心で二度目の謝罪を重ねながらも、冗談交じりにからかってみた私。もしかしてディーデさんの強さに興味があったのかな、という期待はしかし一瞬で砕け散ることとなった。どうやらクドラ族にそういう掟があっただけのことらしい。今回のは決闘ではないような気もするが、シロ様の中では決闘カウントなのだろう。クドラ族は相変わらず戦闘民族である。


「ちなみにいくらか報奨を貰った。あそこに置いてるから後でお前の鞄にしまえ」

「……ウン」

 

 とりあえずこれに関しての話はこれで終わりである。指で指し示された先、いつか討伐者ギルドで見たくらいにぱんぱんに膨らんでいる袋を見て口の端を引き攣らせながらも、私は頷いた。報奨、ということはお菓子などの類ではなくお金なのだろう。気の所為でなければ結構な大金のような。お金はあるだけあればいいが、あまり多いとトラブルの元になる。いやまぁシロ様の活躍に対する正当な対価と言えば、そうなのだけれど。


「……じゃ、じゃあ次の質問です。私が寝てた間、二人はどこで何をしてたの?」

「……ヒナ、話してやれ」

「! うん」

 

 宿生活でお金がいくらか減っていたし、丁度いい。ラッキーだったのだ、うん。明らかに使ったものを遥かに上回る余剰が返ってきたことは気にしてはいけない。と、自分に言い聞かせながらも、私は次の質問をした。とにかく現実逃避がしたかったのである。例え他の質問にトラップが潜んでいる可能性があっても、今の話よりはマシだろうと。

 こほんと咳払いをしつつも、二人を見つめた私。すると話すのに疲れたのかなんなのか、そこでシロ様は話し手をヒナちゃんへとバトンタッチした。まぁ話が聞けるならどっちの話でもいいのだが。話が振られて嬉しいのか、ぱぁっと瞳を輝かせたヒナちゃんのおかげで心が和む。しかしこの時の私は知らなかった。まさかこの無邪気な表情をしたヒナちゃんによって、さらなる爆弾が投下されることになるとは。

 

「わたしね、戦う訓練をしてたの!」

「……えっ」


 その爆弾は残念なことに、そして非常に申し訳ないことに、シロ様がディーデさんをボコボコにしたという情報よりも激しく私の脳を破壊した。

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