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- IX -

「千佳子、賢いな。それだとカラスは可哀想だな、生まれた時から罰を受けているみたいで。」


『・・・生まれた時から罰を受けている?』


何気なく返答していたが、改めて自身の発言を振り返るとそのワードが僕の頭の中でうっすらと残響して味の悪い余韻を残す。彼女の意見を信用するなら、僕ら人類と非常に酷似している。神から生を受け、始まりは忠実だった。しかし忠実というものは賢者にとっては格好のカモである。十二支入り出来なかった猫も鼠にとっては都合の良い存在であり、その猫に恨みをもたれるのも無理はない。『嫉妬』という感情が人間だけでなく、他の生物にもあることに納得がいく。

騙され、禁断の果実を食らって智を得た人類がペナルティを受ける。これで大人しく出来るわけはない。毒を食らわば皿まで。智を得て追放され、生物として葦と見做されるのなら、その智を持って対抗するのが最適解だろう。このバネを利用して文明を発展させ、歴史を作ってきた。それが人類だ。神は人類が智を捨てるまで犯した罪を赦さないのであれば、それは絶対に不可能だと僕は断言する。人類の多くは狡猾なカラスになる択を選ぶはずである。





病室の窓の外から一際、幹が太くて高い木が見える。そこに小鳥たちの群れがやってきて各々、好きな枝木に止まっていく。それを見た千佳子は野鳥図鑑をベッドの頭のほうに置いて窓際に近づき、窓ガラス越しにその様子を観察し始めた。非常に楽しそうな表情をして眺めている。しかし、何だか僕にはその表情は仮面のように見えた。普段の彼女との会話は少ないといえど、笑顔を絶やさない幸せそうな顔は何度も見てきているので分かる。心の内に満たされぬ想いを持ち、それを誤魔化すように穏やかな仮面で上塗りをしている。

分かっていてもそれを追及するのは野暮である。出来ることは傍にいてやること。僕は椅子から立ち上がり、千佳子の隣で同じように鳥たちを眺めた。


「・・・なんで千佳子たちは飛べないんだろうね。あんな風に飛べれば世界がもっと広く見えるのにさ。ひょっとしたら、雲よりももっともっと上の世界にも行けそうな気がするのに…千佳子はもう鳥籠の中は飽きたよ。」


「そうだな。お兄ちゃんと千佳子の背中にも翼が有れば、もっと広い世界を知ることができるし、もしかしたら天の神様にも会えるかもしれないのにな。神様は意地悪だな。」


僕たちの背中にはなぜ翼がないのか。答えは簡単、必要がないから。神が無理矢理に飛べなくさせたわけではなく、僕ら人類側が自ら飛ぶ選択を放棄したのだろうと推察する。原罪を償う選択よりもそれを受け入れて生きていくことを僕たちは当たり前にしてきているのだ。過去も現在もおそらくこの先の未来もだろう。生物進化の過程で必要なものを特化し、不必要なものは排除される。これを考えればごく自然なことである。

しかし、病室にずっと囚われている千佳子にそんなことが言えるはずもない。彼女は僕なんかよりも遥かに狭い鳥籠の中にいるのだから。意地悪な神様のせいにする方が都合が良かった。

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