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- VIII -

本屋に立ち寄り、前から気になっていた伝記と哲学本、啓発本を一冊ずつ。加えて野鳥図鑑を購入した。当たり前だが野鳥図鑑は僕が読むものではない。これから行く場所の子にプレゼントするものだ。その子は兄弟でもなければ知り合いでもない。前日にいた海岸近くの木の上から落ちて、倒れているのを僕が助け、そこから何故だか自然に話をするようになった仲だ。もっとも、あのお気に入りの場所もその子が教えてくれた場所だ。口うるさい幼なじみとは違い、静かで口調も柔らかく、気も利いて落ち着く。幸い怪我も大事には至らず一命は取り留めたものの、元々病弱なのもあり、今は入院生活を強いられている。バードウオッチングが好きだというのになかなか外に出られないのも酷だろうと追加で一冊加えた。





「あっ、拓海お兄ちゃん。来てくれたんだ。」


「元気にしてたか?ほら、これ…」


「わあ〜、これ鳥の本!?嬉しい。ありがとう、拓海お兄ちゃん。」


病室の窓の外を眺めていた千佳子がドアを開ける音に反応し、こちらを振り向いた。千佳子は僕だと認識すると満面の笑顔で迎え入れてくれた。彼女の入院している病室は他に誰もおらず、一人っきり。毎日のように検査を受け、副作用の強い薬を服用して辛い思いをしている姿も見たことがある。人恋しさを募らせるのも無理はなく、外の世界から来た人と接する機会を待ち焦がれていたのだろう。僕はリュックの中から野鳥図鑑を取り出し、彼女に差し出すと物凄く喜んでくれた。期待通りの反応をくれるので、こちらも素直に嬉しくなる。早速、本を開いて読み始めると夢中になって段々と口数が少なくなっていく。僕もその近くで椅子に座って自分の本を読みながら時折、彼女の読書姿を視界に入れて目の焦点を矯正する。会話は多くはない。だけれども、静かで居心地は抜群にいい。『多くを語らずとも自分が存在してもいい場所がある』ことがお互いに安心できるのだろう。


「ねえ、拓海お兄ちゃん。カラスって頭いいけどさ、悪さばかりするじゃん。ゴミ袋を漁ったり、別の小鳥を脅したり、餌を横取りしたり。なぜか知ってる?」


「どうだろう。生きる為に必要だから?」


「拓海お兄ちゃんはそう思うんだ。千佳子はね、神様に意地悪しているんだと思うの。元々、カラスは神様の言うこと聞き入れるいい子だったんだよ、きっと。でもそれを羨ましく思った別の鳥たちがカラスに嘘を言って悪いことをさせた。それじゃあ神様は当然怒ってカラスを追い出しちゃうじゃん。別の生き物たちもカラスは悪いやつだ!って嫌っちゃう。いいと思ってやったことなのに悪者扱いされて凄く可哀想だと思う。それでね、悔しく思ったカラスは頭を良くして神様や別の生き物たちを見返してやる!って考えたの。だからね、カラスは頭がいいんだよ。」


僕が思いつきで出した安易な考えを跳ね除けるように彼女は熱く語ってくれて驚いた。

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