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- V -

海岸近くの木製の長椅子で伝記や哲学書を熟読する。木陰にあり、広大で青い海と空を臨みながら集中とリラックスができる静かな場所。時折吹く海風が集中で温まった体の熱を適度に冷やし、優しく肌を撫でる。ここは邪魔が入らず、非常に心地がいい。雲一つない空から差し込む太陽光はその無駄のない一枚絵に明度を加え、美しくメリハリのある光景を提供してくれている。木漏れ日を読書灯代わりにし、気休めに海鳥たちのコーラスに耳を傾けるのも悪くはない。

大学には久しく通わず、ずっとこんなことをしている。文系学部に進学したが講義で聞く内容のほとんどが既に本で読んだことのあるものばかり。馴れ合いがしたいわけでもないし、名声が欲しいわけでもない。『僕の本当に知りたいことはここにはない。』こう思うのも必然的である。

あの少女に出会った時にもう覚悟は決めている。時間をどれほど要するかは分からないが、僕の探し求めているものは最期までには必ず見つかる。論拠などないが、僕の本能がそれを求めているのだ。何かに導かれて心を狂わされている…そうしろと。もう引き返すことなど出来はしない。





「拓海!やっぱりここにいた。ここで本読むの本当に好きだよね〜。講義サボってばっかで、単位は大丈夫なの?」


「またお前か。いいだろ別に…ほっといてくれ。」


「ほっとけるわけないでしょ!!アンタの親戚から『拓海は引っ込み思案だから幼なじみの沙希ちゃん、よろしくね』って頼まれているんだからさ〜。」


「・・・・」


またうるさいのが来た。こいつ海堂沙希は僕の両親が死んでから、まるでお姉さん気取りで毎日のように祖母の家に来ては僕に絡んでくるようなやつだった。まあ彼女に助けられた部分も多くあって、僕自身も内心はそんなに嫌悪しているわけではなかったけれども。大学生になってからは住まいもお互い遠くに離れ、祖母も老衰で旅立っていったから一人静かに過ごせるかと思っていたのに…実際はこれだ。せっかく見つけた最高のロケーションがこいつにバレてしまって以来、ここには不定期で訪れるようにしていたが、その効果はあまり得られなかった。次第に人のあしらい方が身に付いて気にもならなくなったのか今じゃ、どうぞお好きに。といった感じだ。


「ねえ、拓海は自分の将来をどう考えているの?その本を読んでばかりいてそれが分かるの?」


「・・・逆にお前はどう考えているんだ。自分の将来を。」


「私は元々、宇宙や惑星に興味があったから天文学者を目指しているよ。それだから大学で今の学科を選んで勉強してるわけだし。宇宙や惑星ってまだまだ未知のことがいっぱいあるんだよ。ロマンチックな物語もそこから生まれているものも沢山あって憧れるし。知らないことを知るってワクワクするじゃん!」


ケチの付け処もない筋の通った返答だった。『未知のことに興味がありワクワクする』といった部分は僕と同じ動機。ただ根本的に違うのは彼女の目指しているものには具体性があって、僕の目指しているものにはそれがないこと。もっと言うなら彼女は選択に迷いがほとんどなく、対して僕は暗闇の中で手探りで彷徨い続けているという違い。

口うるさいヤツだが、素直に彼女を尊敬する…僕にはそんなこと出来ない。

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