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- II -

神の命に背いた天使。それは今もまだ下界にいるのだろうか?既に罪を償い、天界へと戻っているのか。或いは翼を失い、人間として生きていく道を選んだという可能性もゼロではない。

その昔、神殺しに挑んだモノたちも多くいたと聞く。無論、相手は絶対的存在。逆らおうものなら絶滅まで追いやられるであろう。システムから生み出されたエンティティなんて所詮、替えはいくらでもいる。作成も抹消も改変も容易く、歯車要素でしかない。…運命を受け入れるか、抗うかの二者択一になるのは必至だ。

神はたしかに存在する。僕はそう信じてやまない。いや、そうでなければいろいろと説明がつかない。何よりも、僕がここに存在している理由を説明できるものが誰も居なくなってしまう事が一番怖い。もし、下界にまだ堕天使がいるとするなら僕の心は畏怖よりも興味の方が勝る。神の側近に居たモノたちからのヒントはかなり有力。そんなチャンスは絶対に逃したくない。


『真実を知ってしまったら、それはもう人ではなくなる…』


それでもいい・・・





少女は再びピアノを奏でた。先程の平穏な世界の雰囲気とは違い、今度は情熱的な生命の強さを感じるテンポの早い曲。胸打つ心臓の鼓動、流れるマグマのような熱い脈動、全てを取り込み燃やし尽くす劫火のゆらめき。鍵盤を打鍵する指先も激しく素早い。

天使は美しく自然豊かな世界だけでなく、激しく活発な生命たちの活動をも見てきているのだと主張しているようである。


「私は人は美しいものだと思っています。原罪を背負いながらも叡智や技巧で文明生み出し、それが隆盛して発展を遂げる。そして諸行無常・盛者必衰。いつかは衰え、儚く散っていく。散りゆく定めにあるはずなのに、残された種はまた同じように花を咲かせようとする。堕天使となった者も罪を拭って天界に帰ることをせず、下界に留まる者も多いと聞きます。・・・不思議ですよね。一体何故なのかしら。」


「・・・君は、君がもし堕天使だったら同じように下界に留まることを選択するのか?天界に帰り、天使である方が原罪を背負わず、生きること・死ぬことの苦悩を味わうこともなくていいはず。それでも下界を選ぶ?」


僕の言葉に少女は再び演奏の手を止めた。少女の表情は全く迷いのない様子だ。


「意地悪な質問ですね。私でしたら下界を選ぶかもしれないです。たとえ大空を舞い、地上を俯瞰して見られる翼を持っていたとしても、それはただの傍観者でしかありません。短命でありながらも美しい生命活動の真理を知ることは出来ない。・・・なんでしょうね。明確な根拠があるわけではないのですが…『興味があるから?』そんなところですかね。」


今まさに問いに対する答えを探し求めて彷徨っている僕と同じ理由。


『興味があるから。自身が知りたいから。』


根拠もなく希薄な感じもするが、十分な理由ではないかと思う。対象物に対する理解を深めたい。もっとその先を見るなら『分かり合いたい。想いを共有したい。』になるのだろうか?少なくとも敵対心は持ち合わせてはいない。むしろ味方と言える存在だろう。考えてみれば僕たち人間もその味方を多く増やしてきて、共生・団結して現在まで生きてきているのであろう。非常に美しい形ではある。

彼女が天界より下界という選択肢を選んだのも大いに理解できる。

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