表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

春に溶けゆく雪だるま

作者: 夏月七葉

 雪が降る。静かに、しんしんと、白が積もっていく。

 見渡す限り、白一色だ。森も土も雪に覆われて、周囲の音という音を吸い込んでいる。

 その白色の中に、僕は佇んでいた。不思議と寒さは感じない。ただ美しいこの風景を、目に映す。

 こんな雪の日は、よく弟と一緒に雪だるまを作った。いつも二つ――大きいのと小さいのを一つずつ。そして笑い合うのだ。「僕達みたいだね」と。

 弟が成長して、今はもう雪だるまなど作らなくなってしまった。だが、この白い景色を見る度に思う。また、弟と一緒に雪だるまを作りたいと。

 あの頃は、毎日がとても楽しかった。家族で囲炉裏を囲んで色んなことを話して、それだけで幸せだった。

 雪はどんどん降ってくる。淀んだ色をした空から、美しい結晶がひらひらと落ちてくる。

 このままずっと降り続けるのではないかと思うほどだったが、やがて雪は止んで、雲の間から太陽が顔を出した。

 白が日差しを照り返し、辺りが眩い光に包まれる。そして、地に落ちた雪はゆっくりと溶けていくのだ。

(――あれ?)

 どうしてだろうか。雪が溶け始めるのと同時に、僕の視界が崩れていく。溶けていく雪と同じように、ぼやけて滲んでいく。そして、身体がふわりと浮き上がるような感覚がした。

 そうしてから、やっと思い出す。

 僕はもう、死んだのだ。

 先の大戦に徴兵されて、見知らぬ地で敵兵に撃たれたのだ。

 亡骸を故郷で弔ってもらった後、墓の前に弟が雪だるまを作った。僕はそこから離れ難くなって、その雪だるまに暫時魂を残したのだ。

 だが、もう時間らしい。

 僕は吸い込まれるように青い天に昇っていきながら、手を目一杯下界に伸ばした。

 さようなら――。

 家族も、故郷も。

 ――最後に目にしたのは、寄り添うように溶けていく二つの雪だるまだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 弟と雪だるまを作った情景が目に浮かんできました。 魂が離れていく様子と雪だるまが溶けていく様子が重なって、切なかったです。
[一言] 切ないですね。
2021/12/01 16:04 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ