春に溶けゆく雪だるま
雪が降る。静かに、しんしんと、白が積もっていく。
見渡す限り、白一色だ。森も土も雪に覆われて、周囲の音という音を吸い込んでいる。
その白色の中に、僕は佇んでいた。不思議と寒さは感じない。ただ美しいこの風景を、目に映す。
こんな雪の日は、よく弟と一緒に雪だるまを作った。いつも二つ――大きいのと小さいのを一つずつ。そして笑い合うのだ。「僕達みたいだね」と。
弟が成長して、今はもう雪だるまなど作らなくなってしまった。だが、この白い景色を見る度に思う。また、弟と一緒に雪だるまを作りたいと。
あの頃は、毎日がとても楽しかった。家族で囲炉裏を囲んで色んなことを話して、それだけで幸せだった。
雪はどんどん降ってくる。淀んだ色をした空から、美しい結晶がひらひらと落ちてくる。
このままずっと降り続けるのではないかと思うほどだったが、やがて雪は止んで、雲の間から太陽が顔を出した。
白が日差しを照り返し、辺りが眩い光に包まれる。そして、地に落ちた雪はゆっくりと溶けていくのだ。
(――あれ?)
どうしてだろうか。雪が溶け始めるのと同時に、僕の視界が崩れていく。溶けていく雪と同じように、ぼやけて滲んでいく。そして、身体がふわりと浮き上がるような感覚がした。
そうしてから、やっと思い出す。
僕はもう、死んだのだ。
先の大戦に徴兵されて、見知らぬ地で敵兵に撃たれたのだ。
亡骸を故郷で弔ってもらった後、墓の前に弟が雪だるまを作った。僕はそこから離れ難くなって、その雪だるまに暫時魂を残したのだ。
だが、もう時間らしい。
僕は吸い込まれるように青い天に昇っていきながら、手を目一杯下界に伸ばした。
さようなら――。
家族も、故郷も。
――最後に目にしたのは、寄り添うように溶けていく二つの雪だるまだった。