邪神
俺は奥へと足を進める。
そこに居たのは見目麗しいお姉さんだった。
お姉さんが俺に、
「ほう、可愛い少年じゃな。少年よ、この縄を解いてくれんか? 悪い奴に捕まって身動き出来んようにされてしもうたのじゃ」
と話しかけてきたので、
「綺麗なお姉さん、服は?」
と、問いかけた。だって真っ裸なんだもん。
目のやり場に困るわ。
その豊満なお胸様に釘付けになるわ。
「悪い奴に奪われてしもうた」
手足に巻きついた縄を、忌々しそうに引っ張りながらお姉さんが答えたので、
「そのぼろぼろの縄なら、引っ張れば切れると思うよ?」
と言ってみると、
「お腹が減って力が出ないのだ」
と言われる。
確かにガリガリに痩せているな。
「僕、お肉持ってるよ? 兎の肉でもいい?」
「先に縄を切ってくれんか?」
「ああ、そうだったね」
「おおお! 自由じゃ、1300年ぶりの自由じゃあああっ!」
「1300年? お姉さんエルフ? のわりには耳は長くないなぁ?」
「少年よ、礼を言う。縄を切ってくれたお礼に、あらゆる肉体的快楽を与えてから、食ってやるぞおおおお!」
と飛びかかってきたお姉さん。
「ウグッ、グハァッ! ウゥッ!」
胸て窒息しそうだ。
「ワシはお前達が邪神と呼ぶ存在じゃ。1300年前、勇者に倒されここに封印されたのじゃが、洞穴に入り込む虫を食べて生きながらえたのじゃ!少年を食えば多少回復するじゃろう。外に出て魔物を食って体調を整え、この世界に混沌を振りまいてやるわい!どうじゃ少年よ。幼い身体とは言え、あらゆる肉体的快楽を知っておるワシのテクニックは!」
身体中を撫で回すお姉さんに、
「肉体的快楽だけなんざ、邪神とやらもお子ちゃまだな」
と言ってやる。
「なに?」
「精神的快楽を知らないのか?」
「なんじゃそれは?」
「例えば、美味しい物を食べた時の満足感とか」
「魔物を食った時の魔力の高揚とは違うのか?」
「ぜんぜん違う。あとは無理だろうと思うような課題を乗り越えたときの達成感とか」
「無理だろうと思うことに挑むとか、馬鹿なのか?」
「無理だろうと思うことを、努力し鍛えて乗り越えたときは、気持ち良いぞ!」
「むむむ」
「後は、ぜんぜん振り向いてくれなかった異性が、自分に惹かれてきてるのを実感する時とか!」
「そんなもの、魔法で惚れさせれば良かろうが!」
「違うんだなぁ。意のままに操るなんて、お子ちゃまの発想だ。大人は嫌われてるのを知っていても、その人に興味を持って貰えるように行動するものなのさ」
「大人って、お前は子供だろうが!」
「俺には前世の記憶がある」
「なに?」
「糞女神に転生させられたが、見返してやるために努力してる最中だ」
「むむむ、お前はその精神的快楽とやらを、これから体験するのか?」
「体験できるように、努力しているだよ」
「ワシもその精神的快楽とやらを、体験してみたい」
「今はまず死なないようにするのに精一杯だがな。糞女神のせいで魔力が全く無いらしいから、肉体でなんとかしないとダメなんで、鍛えている最中なのさ」
「魔力が全く無い? そんな人がいるわけ……本当じゃ! 魔力が全く無い!」
「だろう。そのせいで家から捨てられたからな」
「なぁ少年よ?」
「なに?」
「ワシと一体化せんか?」
「一体化?」
「ワシは少年の中に閉じこもり、少年の感情を楽しむ。精神的快楽とやらをな。で、少年はワシの魔力を使っていい。これでも神じゃ。魔力は腐るほどある!」
「俺の自我は?」
「ワシは少年の中に居るだけで、自我は別々じゃから、安心して良い。多少食べ物を多めに食って貰わねばならんかもしれんが、許容範囲じゃろ?」
「……いいぜ。その話乗った!」
デメリットは無さそうに思えるしな。
「では、先ずはワシと肉体的快楽を、楽しもうぞ。1300年ぶりの男が、小さな少年というのも、一興じゃろう!これも精神的快楽というのか?」
「ああ、そういうのも精神的快楽だろうな」
そう言って俺の身体を撫で回すお姉さん。
「ほう! 興味深いわい! これからが楽しみじゃ!」
お姉さんがニヤリと笑ったのだが、その笑顔は妙に色っぽく感じられた。