第93話「むっつり」
「まぁ、言葉は引っ掛かるが――」
凪沙が何を言いたいのか理解している陽は、凪沙の言葉に呆れながらも肯定しようとする。
しかし、そんな陽の言葉を遮るように、この中でもっとも幼い顔つきをしている少女が身を乗り出した。
「――ななな! 何を言ってるのですか……! そ、そんな、えっちな……!」
一番の童顔少女――真凛は、顔を真っ赤に染めながら凪沙に対して怒り始めた。
そんな真凛を見て、陽、佳純、凪沙は顔を見合わせる。
「えっ、なんですか、その反応……?」
三人が真凛の予想とは違う反応をしたため、真凛は自身の体を両手で押さえながら陽たちを見る。
すると、佳純が不思議そうな顔で首を傾げた。
「なんで、えっちなの?」
「えっ……?」
「秋実さん、いったい何を想像したわけ?」
「そ、それは、その……。えっ、だって、百合って……」
佳純に見つめられ、真凛はアワアワとしながら視線を彷徨わせる。
指先を合わせてモジモジとし、最終的には困って陽の顔を見た。
「この場合、女の子同士で仲良くする動画、という意味だぞ?」
そして真凛がどういう子なのかを既に知っていた陽は、若干溜息まじりに答えた。
それにより、また真凛の顔はカァーッと真っ赤に染まってしまう。
「で、ですが、だって、漫画だと……!」
「動画サイトって、えっち系は厳しいからね。さすがにバンされそうな内容は撮らないよ」
「あっ……」
何やら意味深な――温かくて優しい笑みを浮かべた凪沙の言葉に、真凛は自分の失態に気が付く。
そんな真凛に対し、凪沙はニヤッと意地の悪い笑みを浮かべた。
「真凛ちゃん、意外と知識豊富なんだね?」
「~~~~~っ! ち、違います、これは……!」
「そんなに必死になっちゃって、普段どんなものを読んでるのかな?」
「~~~~~っ!」
ニヤニヤとした笑みを浮かべて楽しそうな凪沙は、顔を真っ赤にして言葉にならない声を発する真凛をいじり始めた。
真凛は顔を両手で押さえて身悶えるが、そんな真凛の耳元に凪沙は口を寄せ、ボソボソと何かを呟く。
それにより、真凛は顔を手で押さえたまま、必死に顔を左右に振って否定をした。
「おい、凪沙。話が逸れるからいい加減にしろ」
さすがにいたたまれなくなった陽は、真凛に助け船を出す。
すると、凪沙は残念そうに唇を尖らせ、自身の席へと戻った。
若干涙目になっている真凛は、指の隙間から陽の顔を見る。
そして視線が合うと、陽は仕方なさそうな笑みを浮かべた。
「まぁ、さっきのは凪沙が勘違いさせることを言ったと思う。だから、あまり気にしなくていいから」
「あ、ありがとうございます……」
陽の笑顔を見た真凛は、両手でギュッと体を寄せ、恥ずかしそうに俯いてしまう。
しかし、表情は喜んでいるようだったので、どうやら陽のフォローが嬉しかったようだ。
凪沙の発言による真凛の暴走(勘違い)は、これにて一件落着。
そう思われたが――。
「――むっつり」
「~~~~~っ!」
一人面白くなかった佳純が、ジト目を向けながら真凛に対して呟き、真凛は再び悶えてしまうのだった。







