第86話「抗えない運命」
「ばかなの? そんなの陽が許すわけないでしょ。あぁ見えて、意外と誠実なんだから」
凪沙の提案に対し、佳純はいらない一言を交えながら嫌悪感を露わにする。
真凛も、佳純の言葉に引っ掛かりを覚えつつも少し不満そうに凪沙を見つめた。
「まぁ陽君が誠実だってことは否定しないよ。でもだからこそ、彼は君たち二人を切ることができないんでしょ?」
「だからって二股なんて提案したら、ぶちギレると思うわよ?」
「もちろん、陽君本人にこんな提案なんてしないさ。僕だって命は惜しいからね」
「じゃあどうするのよ?」
「そのための、電車での決め事だよ。君たち二人を平等に甘やかせば、陽君が君たちにどんな感情を抱くかなんて目に見えてるよね?」
「そんな単純な話じゃないと思うけど」
誘惑しようとする凪沙に対して、佳純はなるべく取り合わないようにして切り捨てる。
佳純はここで耳を貸すと言いくるめられると思っていた。
「単純だよ。佳純ちゃんも、真凛ちゃんも凄い美少女なんだからさ。二人に甘えられて堕ちない男はいないと思うよ」
「……私、既に一度振られてるんだけど?」
「それは、君が束縛しすぎたからでしょ。話が逸れるからその話は今持ち出さないで」
一瞬にして暗い目をした佳純に対し、呆れたように凪沙は溜息を吐く。
真凛は二人のやりとりが気になってしまうけれど、内容が内容なのでうまく口を挟めないでいた。
「まぁそういうことだから、二人がこのまま陽君に甘えて、後は二人が仲良くなれば、陽君も腹をくくるしかなくなると思うよ?」
そう言って凪沙はニコッと笑みを浮かべた。
逆に佳純は凄く嫌そうにする。
「凪沙って本当に外堀を埋めるのが好きよね。絶対に嫌だから」
「なんで? 君にとって悪い話じゃないでしょ」
「私は、ちゃんと一人で陽に相手してもらいたい。秋実さんだってそうでしょ?」
「まぁ……二股は、嫌ですよね」
急に話を振られた真凛は少し考えて、佳純の言葉に同調した。
まだ気持ちが固まっていない真凛でも、やはり恋人は独り占めしたいと思っているのだ。
「うん、正直二人をすぐに説得できるとは思ってなかったよ。ただ、いずれわかると思うよ、僕が言った通りにするしかないんだってことが」
「どうして私が凪沙のこと嫌いなのかわかった。そうやってなんでもかんでも自分が正しいと思って、決めつけるところが嫌だったのよ、昔から」
「へぇ? その割には陽君に振られた直後とか凄く甘えてきてたけどね?」
「ちょっ! その話は今関係ないでしょ!」
もう凪沙としては言いたいことを言い終えたのか、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて佳純をからかう。
佳純は顔を真っ赤にして凪沙に手を伸ばすが、喧嘩慣れしている凪沙はヒョイヒョイと佳純の手を受け流した。
それにより佳純は更に熱くなり、凪沙も凪沙で今までの鬱憤を晴らすかのように佳純を挑発し始める。
そんな攻防が繰り広げられると――。
「――で、お前ら何してんの?」
真凛の手によって連れて来られた陽が、凄く呆れた表情で二人の首根っこを掴んで争いを止めたのだった。







