第80話「まぁ、そういうことなら」
「負けとか、そんな……」
「真凛ちゃんが争いごとをしたくないってのもわかるけど、ライバルがいる以上避けられないよ? それで向こうは全力で陽君に気に入られようとしてるのに、こっちは周りの目を気にして一線を引いていたら勝てるわけないよね?」
「…………」
真凛は悲しそうに目を伏せる。
そんな真凛に対して、今度は優しい声を凪沙は出す。
「それにね、陽君って甘やかすのが好きなんだよ。真凛ちゃんが甘えたら、なんだかんだ陽君は内心喜ぶと思うよ」
「葉桜君が、喜ぶ……」
「そうそう。ああ見えて、甘やかすのが生きがいのような男だからね」
真凛の様子が変わったことを見て、凪沙はそこを突く。
すると、真凛はチラッと陽の顔を見た。
それにより陽は凪沙が自分のことを何か言ったのではないかと想像がついたが、もう一度任せると決めた以上口を挟まずに静観することにした。
そして――。
「まぁ、そういうことなら……」
真凛は、凪沙の提案を呑むことにした。
(この子はこの子で、素直そうに見えて結構いじっぱりなんだよね。本当は佳純ちゃんと同じくらい甘えたがりなのに、何かプライドがあるようだ。まぁそれならそれで、建前を作ってあげればいいだけなんだけど)
これで二人を掌握した凪沙は、内心ほくそ笑みながら真凛を見つめる。
不満のアピールなのかプクッと膨らんだ真凛の頬を突きたい衝動に駆られるものの、二人の気が変わらないうちにこの話を締めくくってしまわないといけないためグッと我慢をした。
「さて、話はまとまったことだし、陽君も異論はないよね?」
「むしろ異論しかないんだが?」
これで解決――と言わんばかりの凪沙に対し、陽は不服そうに首を傾げる。
「なんでさ」
「結局、俺がクズ扱いされる展開になってるからだよ……」
「いいじゃないか、慣れたものでしょ?」
「今回ばかりは話が違うだろ……」
陽が一番気にしていることは、両方を同じように甘やかすようになった場合、真凛も佳純のようになってしまうのではないか、ということだ。
もちろん今までのことから陽は真凛に懐かれていることに気が付いている。
だから甘やかしているところはあるのだが、やりすぎることがよくないことも過去に体験済みなのだ。
このまま真凛が佳純のようになってしまった場合、責任が取れないことを陽は気にしていた。
「いいじゃないか、君ならなんだかんだうまくやると思うよ」
「つまり、俺に全て丸投げってわけか?」
「だって当事者は陽君だし」
「…………」
いったい何を考えているのやら。
凪沙に何か狙いがあるのは明白だけど、肝心のその狙いが見えてこない。
そして厄介なことに、凪沙が佳純を乗り気にさせてしまった。
「……変なことになりそうだったら、そこで終わりだからな?」
佳純が乗り気になっている以上無下にできない陽は、この話に乗るしかないのだった。
いつもお読み頂きありがとうございます!
いつか、ちゃんとまとめて話を出したいですね(*^_^*)







